家に帰ってからすぐに遊園地のホームページを調べる。昔はなかったアトラクションが増えていて調べ甲斐があって楽しい。
「楓、喜んでくれるかなぁ。」
そんな期待を胸にいつも通りの毎日を送り、あっという間に当日を迎えた。
午前10時30分。駅前で待ち合わせ。
「ごめん春樹くん!待ったよね?」
「ううん、待ってないよ。時間もピッタリだし。」
いつぞやの会話をしながら今日がデートだということを静かに自分に言い聞かせる。しっかり楓を楽しませるぞ。いいな?僕。
「中間テスト近いのに、今日にしちゃってごめんね。中間テスト明けは私用事がしばらくあって…。」
「いや、大丈夫だよ。楓たちのお陰で勉強も捗ってるし。」
「それなら良かった。」
「じゃあ行こっか。」
電車に揺られること約40分。遊園地に着いた。
「ここが、遊園地…!」
楓は着いて早々に目を輝かせた。
「楓、まずはどれに乗りたい?」
僕がそう言うと楓はマップとにらめっこしながら首を傾げている。
「えっと〜。あの、ブランコみたいなのにしようかな。」
「おっけー。こっちだよ。」
遊園地のマップは全部頭に入れてきてあるからアトラクションの場所はバッチリ。ご飯屋さんも確認してるから楓を待たせることはないだろう。
「すごい人だね。でも、待ってる時間もワクワクして楽しいから好きだな。」
列に並んでからも楓はそわそわしながらもこの場を楽しんでいるようだ。
「でも、順番はすぐに来そうだよ。ほら。」
ブランコに座ってからは楓はより一層目を輝かせた。まだ始まってすらいないのに。本当にそういうところが可愛い。
「春樹くんっ!そろそろ始まるよっ!」
「うん。落ちないようにね?」
「子供じゃないんだから落ちないよ〜!」
アトラクションが始まってからは隣で楓が周りの小さい子に負けないくらい楽しそうに声を上げている。こんなにも遊園地にはしゃぐとは思っていなかったけれど、楽しんでもらえてるならよかった。圭にも今度お礼を言おう。
「楽しかったー!!ね、次はどれにする?」
「楓が乗りたいアトラクションでいいよ。」
「ほんと!?どれにしようかな…。」
本当は少し、恥ずかしい気持ちもあった。僕だけが浮かれているんじゃないかと。でも、楓が楽しんでいるところを見るとそんなことはどうでもよくなってきた。僕だけ浮かれていてもいいじゃないか。楓と一緒に居れて嬉しいんだから。
「春樹くん、アレに乗らない?」
「アレ?」
楓が指を指していたのは、ホラー要素を取り入れたジェットコースターだった。
「…楓って、絶叫系もホラー系も駄目じゃなかった?」
「えっ?あー…。」
どうしたんだ?前にここに来た時はこのアトラクションを嫌がっていたはず。前と好みが変わったのか?だったら悪いことをした。楓が乗りづらくなってしまう。
「ごめん、乗りづらくなったよな。あれ乗りに行こうか。」
「あ、ううん!あれ、そういうやつだったんだね。知らなかった!」
知らなかったって…。絶叫系はともかく、看板も入口も血糊や骸骨で装飾されているのに?
「ほんとに乗らなくていいの?乗りたいなら乗ろ?」
「ううん!いいの!今見たらすごく怖そうだし…。」
「そ、そう…?」
それから楓はアトラクションを選ぶのにとても慎重になった。まるで、過去の自分と同じにしようとしてるように。本当にどうしたんだ。
「春樹くん、そろそろお昼ご飯食べない?」
「あ、うん。そうだね。」
違和感はあっても楓はいつも通り。僕の勘違いだといいけれど、なにか楓にあったのか心配になる。
「実は私、お弁当作ってきたんだ。あっちの広場で食べない?」
「お弁当!?わざわざ作ってきてくれたの?」
「うん。春樹くんに食べてほしくて、頑張って作ったの。」
今は違和感だとか勘違いだとか考えないようにしよう。楓との時間で余計なことを考えるのはあまりいい気がしないし、楓に失礼だ。
「ありがとう。混んじゃうだろうし、場所取りに行こうか。」
お弁当の中身は僕がメニューを考えたのかと思うほど好きなものだらけだった。ハンバーグやエビフライ、唐揚げ等々。
「春樹くんの好きなもの沢山入れてみたんだけど、どうかな…?」
少し不安げな顔をしながら僕のことを見つめてくる。
「すごい嬉しいよ。ありがとう。これ、食べてもいい?」
「もちろんっ!」
僕の返事を聞くなり、先程までは少し暗かった瞳が輝くのを見せてくれた。
「楓!!美味しい!すごい美味しいよ!」
「そんなに喜んでくれるとは思わなかったな。作ってきてよかった。」
この時間が永遠に続けばいいのに。なんて、前も同じようなことを思ったっけ。でも、楓との時間は、永遠に続いてほしい。もう二度と失いたくない、僕の大切な人。
時間はあっという間だ。お弁当を食べて、いくつかアトラクションに乗っていたらもう閉園時間15分前だ。最後に、楓と前に来たときにも乗った観覧車に楓を誘ってみた。
「ここの観覧車、すごい大きいよね。私、こんなに大きいのここしか知らないな。」
「そうだね。」
夕焼け空が窓の外いっぱいに広がっていて、とても景色がいい。僕はこの思い出の場所で、あることを聞きたかった。思い出の場所だからこそ、確認したかった。
「楓、前にこの遊園地に来たときに僕が言った言葉、覚えてる?」
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