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「『ずっと好きでした。付き合ってください』でしょ?」
ずっと抱いていた違和感の正体を僕は確信した。『彼女』は楓じゃない。
「違うよ、楓。」
「えっ?」
「楓が知ってるあの日のこと、教えてくれない?」
『彼女』が知ってるあの日のことは、今日乗ったアトラクション全てが同じもので同じ順番に乗ったこと。もちろん、絶叫系×ホラー系のアトラクションも。そして、観覧車で僕が『ずっと好きでした。付き合ってください』と告白したこと。楓が承諾してくれたこと。これらだった。でも、本当は違う。
「楓、そんなに怖がらないで…?」
『彼女』は全て話した後、顔が真っ青になっていた。まるで、見られたくないものを自分から見せてしまったかのような。
「あの日の本当ことを話すね。」
観覧車はまだ上がっている最中。時間はまだある。
あの日、確かに今日と同じアトラクションに同じ順番で乗った。そして圭がホラージェットコースターを提案した時、楓は嫌がらずに列に並んでいたけれど、僕にこっそり助けを求めたんだよ。『私、怖いのも激しいアトラクションも苦手なの。どうしよう。』って。だから僕は、圭に適当な嘘をついて楓と一緒に列から抜けたんだ。
それと、告白の内容も全然違う。圭は僕が楓のこと好きってことも告白すること知ってたから、最後に観覧車で二人きりにしてもらった。それで僕は緊張しすぎて一生懸命考えたの告白の文をど忘れしたんだ。
「僕があの日言ったのは、『楓がどこに行こうと、ドッペルゲンガーと入れ替わろうと、必ず楓を見つける。幸せにする。だから、僕と付き合ってくだしゃいっ!』って言ったんだよ。」
何言ってるのか未だに自分でもわかってないし、噛んでるしとんでもないけど、楓はそれを受け入れてくれた。案の定、圭になんて告白されたのかを聞かれて答えたのが、さっき『彼女』が知っている告白だった。
『彼女』の顔は見れなかった。どちらかというと、見なかった。『彼女』が、嫌がりそうだったから。
「君が知っているのは全部、圭が知っていることだよ。君は、誰?」
「私は…。私は、あなたが知っている楓さんを模したアンドロイドです。」
アンドロイド、か。生き別れの双子の姉妹だとかクローンあたりを予想していたけれど、アンドロイドは予想していなかった。
「今まで騙していて、ごめんなさい。」
「いや、いいよ。やむを得ない事情があったんでしょ?」
でも、遊園地はもう閉園時間。観覧車ももう回り終わってしまう。
「帰りに、静かな場所に寄ってもいい?」
「はい。」
そうして僕たちは、遊園地をあとにして僕は『彼女』の家にお邪魔させてもらった
「ごめん。わざわざ家にお邪魔して。」
いかにも楓らしい部屋で少しそわそわとしてしまったがそんなことをするだけ自分の首を絞める。
「話してもらっても、いい?」
「はい。では、私が造られたときのお話をします。」
私はアンドロイド。ご主人である圭さんとそのお知り合いの方々が私を造って下さった。私は、同じ名前の人である楓さんを模して造られたそうです。
「ご主人、私は具体的にどうすればいいのですか?」
「さっきも言ったけど、楓を模して造った。つまり、これから君には楓のフリをしてもらいたい。」
「楓さんのフリ…?」
「そう。俺が楓のことについて徹底的に教えるから、君はそれをデータにして記憶するんだ。」
そして、私には『楓』という名前がつけられました。ご主人と楓さんが会う前の出来事はあまりデータがありませんが、中学校のころのデータは十分に揃いました。
「ご主人、私、今どんな感じかな?」
「うん。話し方もだいぶ楓に近づいてきた。じゃあ、俺のことはこれから『圭くん』って呼べよ。高校に入ったら『先輩』だけどな。」
「うん。わかったよ、圭くん。」
「全部は、春樹のためなんだ。ごめんな、君のことに付き合わせて。」
「ううん、大丈夫。私は、そのために造られたんだから。」
「これが全て…とは言い切れませんが話せることは以上です。」
過去のことを話し始めた『楓』はさっきまでのいかにも人間らしい様子からかけ離れ、淡々としていた。話してくれた彼女には申し訳ないけど、聞きたいことは沢山ある。
「僕のためってどういうこと?」
「それは…。すみません、黙秘します。」
黙秘ってことは、なんかしらあるってことか。でも、大体わかってる。
「楓は、もう、いないんでしょ?」
声が震えた。声に出すことで、脳の隅々まで『楓はいない』という言語を、ことを理解しようとする。
「…春樹さん。全てを、知りたいですか?」
嫌だ。知りたくない。結論はわかってる。わかりたくないのにわかってしまった。これ以上聞いてしまったら僕の身体はどこにも当てられない苦しみで爆発してしまう。もう、いっそのこと全てを知らないままでこの世界にいない楓を探しに行こうか。
「春樹さん、ご主人…圭さんの家へ行きましょう。」