テラーノベル
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なんとか化け物連中は撒けたが、迷宮の中は右も左も分からない。
スキルに任せて危険を避けながら地上に戻る手もあるが、多分実際には無い。
このスキルのせいだろうか? それとも制御もされずに垂れ流しのように使い続けたせいだろうか? とにかく、俺は普通では考えられない程に召喚者として強くなっているらしい。
こんな状況で最短距離を選んだら、多分勝てる相手は避けない。まさに血まみれの道だ。
当然、人間は愚かではない。そんな事をしながら外に出たら一発アウト。間違いなく、教官組が待っているだろう。便利なようで、これはある意味袋小路に誘う罠スキルだ。頼り過ぎは良くない。
『敬一様、聞こえますか?』
この声は!?
「ひたちさんか? まだ通信が繋がる距離なんだな。それに無事で安心したよ」
声には緊張感は含まれていない。むしろ高揚さえ感じられる。
結果は聞かなくてももう分かっていた。
『瑞樹様は無事確保いたしました。ただまだ事情は話していません。都市を大きく迂回して行かなければなりませんので、その間、どうにか追手を惹きつけてはいただけないでしょうか?』
「ああ、最初からその予定だ。任せてくれ」
『ご無事を祈っています。それでは』
「ああ、そちらもな」
こうして通信は切れた。
まだ説明していなくて、尚且つ一緒にいる。多分だが、奈々の所へ連れて行くとか言って連れ出したのだろう。
まあ俺のところへ連れて行くなんて言って、素直に来てくれるとは最初から思っていなかったよ。妥当なところだろう。
ただ問題は、完全に引き離してはダメって事だな。
もう追いつけないと判断したら、間違いなく追手は帰るだろう。
その中にいるんだろ、龍平。
何があっても、あいつだけはここから出すわけにはいかないだろうな。
※ 〇 ※
「なんだこれは」
「ここから潜ったのだとは思うが……」
召喚者達は、中途半端に開いた穴の前で立ち往生をしていた。
上の様に綺麗な穴なら素直に飛び込めばいいが、この穴は敬一が教官組から逃げるために荒く開けた穴だ。半分以上は破壊した素材で埋まり、ここから先へは行けそうにない。
「ここから行くのはもう不可能。それぞれのチームは、各自の判断で探索」
召喚者達を待っていたのは教官組の一人、田中玉……いや、フランソワだ。
「ご無事でしたか、玉子教官!」
「心配していました、玉子教官!」
「お怪我はありませんか、玉子教官。他の教官の方々は?」
「お前たち全員後で死刑。荒木が追いかけたけど、相手の逃げ足が速い。今はとにかく追跡。ほら、散開」
「了解しました、玉――」
さすがにこれ以上はダメ――世の中には踏み越えて良いラインとダメなラインがある。
先行した召喚者達は、それなりに場数を踏んでいる。その辺りは肌で感じ取った。
「フランソワ教官もお気を付けください」
満足そうに頷く彼女に挨拶をすると、次々と召喚者達は迷宮へと走る。
元々、教官組は人気者だ。特に女性二人の内、フランソワ教官はマスコット的な存在として人気が高い。もちろん、そんな可愛いものではない事も熟知しているが。
そんな彼らを見送ったフランソワもまた、彼等の無事を祈っていた。
敬一は危険な存在だ。戦ってみてよく分かった。
とにかく得体が知れない。それに召喚者として、異常なまでに成長している。もう彼の力や反射神経に対抗できるのは、教官組やそれより古い4人を除けば数少ない熟練者くらいなものであろう。
「フランソワ教官!」
そこに少し遅れて到着したのは龍平であった。
上で話し合っていた分、出遅れたのだ。
「龍平にしては遅い。というより、女の子を抱えているのは珍しい」
「これは緊急事態ですので」
慌てて神田川久美をポイっと捨てる。地面にドサッと落とされた彼女だが文句ひとつ言わない。今が緊急事態であることは分かっているし、それは龍平が自分を担いで降りた事自体がそれをはっきりと物語っている。
あの日瑞樹を抱いて以来、彼は決して女性を抱かない。それどころか、よほどの事情が無い限り自ら触ろうとはしない。まあ触ったら死ぬとか卒倒するとかの類ではない。極力避けているという程度ではあるが。
吉川昇の命令とは言え、彼が惚れていたらしい水城瑞樹を生贄の肉人形にした責任の一端は感じている。その辺りが原因かしら――とは思うが、“高校生の青少年には刺激が強すぎたか”程度の感覚だ。まあ、もっと女を知れば自然と慣れるだろう。
それよりも、あれから急激にメンバーが減った事が問題だ。龍平がリーダーの器ではなかった? いや、それは無い。そもそも前リーダーの吉川と、彼と同じ高校の入山が事故で元の世界に帰ってしまったから、彼がリーダーとなったのだ。
それ以降に死んだのは金城浩文のみ。負けて逃げたという安藤はまあ、そういう奴だった。
そう考えれば不自然とも言い難い。だが一応は警戒しておくに越した事は無いだろう。
いざとなれば、龍平や彼と同じ高校の須田亜美、それに前からのチームメンバーではあるが、元々得体の知れなかった中内要を囮にして逃げればいいだろう。
計算高いこの女――神田川久美はそんな事を考えていた。
#恋愛
ばたっちゅ
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コメント
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第167話、読み終えました! 敬一さんが迷宮の中で孤立しながらも、ひたちさんからの連絡を受けて「元々その予定だ」と応じるところ、かっこよかったです。便利でありながら罠にもなるスキルの描写も面白かったし、追手の動きを読んで「龍平だけはここから出さない」と決意する静かな緊張感が好きでした。 フランソワ教官のキャラも相変わらず絶妙で、龍平たちとすれ違う構図が物語に厚みを出してますね。次が気になる……!