テラーノベル
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俺は今、ヤブ医者メイドことエドマンド・ハリントン=スミス氏によって、外へと連れ出されている。
穏やかな午後の日差し。花が香り、鳥が歌い、空は晴れ渡っている。
腹が立ってくる。
俺は本来、外ではなく執務室で穏やかにペンを走らせている予定だったのに。
「拗ねないでください」
これだから貴族は…と小声で言うエドマンド。お前も元貴族だろうが。
「貴族たるもの、お茶会に誘われることもあるでしょう。ご主人様のような家柄の方は特に」
そう言って、やけに豪華な彫りが施されたガゼボの前で憎らしい元貴族は立ち止まった。
……はぁ。エスコートしろと言うことらしい。
「どうぞ、お座りください」
椅子を引く。促す。慣れたものだ。…男にやることになるとは予想もしてなかったが。
「あら、ありがとう。優しいのね」
そう言って綺麗に微笑む。人を不快にさせることはない笑み。その笑みが、彼は元貴族だと言う事実をひしひしと感じさせる。
俺も席に着く。お茶は置かれない。何故なら、本来その役割を持つはずの使用人が、今は経験豊富な令嬢になりきって座っているからだ。
「お招きいただき感謝いたします。このような場に不慣れなため、何かお気を害することがありましたら、ご指摘賜りますと幸いです」
使用人に敬語を使う主人。なんて滑稽なんだ、と自嘲する。
あらあら、と口に手を当て控えめに笑う美青年に不覚にも息を呑んでしまった。
「緊張なさらないで。私もあまり慣れていませんの。あなた様のような身分の方とこのような場を過ごせること、とても嬉しく存じますわ」
長ったらしい敬語に、心の底から思っていないような言葉。なんとなく、これまで会ってきたご令嬢方を重ねてしまって、自然と手が震える。
練習とはいえ、悟られてはいけない。紳士は強くあるべきなのだ。そう教えられてきたし、俺自身もそうあるべきだと思っている。
会話を重ねる。最近よく見かける猫、屋敷内の噂。無論、この場は本物のお茶会ではないから、大して有用な情報が話されることはない。
耳を真剣に傾けて、言葉の意味を探る必要もないはずだ。が、猫の話や噂が実際に彼が興味が惹かれた話なのだろう。少しだけ、真剣に聞いてしまった。
「面白いお方ね」
彼が放ったこの言葉が、真意なのかそれともロールプレイの延長線にあったのか、俺にはわからなかった。
「本日の治療はここまでにしましょう。ご主人様、お疲れ様でした」
先ほどまでの温かな空気が一瞬で戻る。まるで夢から覚めたかのような心地がする。
「天気も良いですし、ご主人様がお好きな紅茶を淹れさせていただきます」
天気も良いですし、なんて言っているが、おそらくエドマンドはご褒美的な感覚で紅茶を淹れてくれようとしている。
ありがたい。お茶会の紅茶は黒い意図があるから苦手だが、エドマンドの淹れる紅茶は気遣う意図のみ感じる。少なくとも今はそうだろう。
花が描かれた陶磁器からトクトクと深い琥珀色の液体が注がれる。柑橘系の香りが鼻をくすぐった。
コト、とカップが置かれる。
「ありがとう」
「ゆっくりと、紅茶をお楽しみくださいませ。今日は頑張られましたから」
その言葉が、午後の日差しよりも暖かく感じた。
コメント
3件
ご指摘いただきありがとうございます。参考になります。修正させていただきます。

追加で、思いますよりも、存じますの方が丁寧だと感じます。あえてでしたら申し訳ございません

自重✖️自嘲⭕️ 起き✖️お気⭕️ ご指導してくださると✖️ご指導賜りますこと⭕️ なんで✖️なんて⭕️ 作風がとても素敵なだけに、このような間違いや誤字が目立ちます。修正願えませんでしょうか