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役所の窓口で受け取った、まだインクの匂いが残る戸籍謄本。
そこに記された「除籍」の二文字を、私は何度もなぞった。
(ああ……終わったんだ)
その瞬間、何年もの間
私の肩に食い込んでいた重い鉄の鎖が、音を立てて崩れ落ちた気がした。
私はもう、誰かの「所有物」でもなければ、1円の誤差に怯える「囚人」でもない。
私は、私だ。自由な一人の女性、詩織に戻ったのだ。
そんな私のもとに、刑務所への移送を数日後に控えた直樹から
弁護士を通じて「最後のお願い」という名の厚かましい連絡が届いた。
『一度でいい、陽太と三人で会って話がしたい。これまでのことを謝りたい。……それだけが、俺の最後の希望なんだ』
弁護士からその言葉を聞かされたとき
怒りすら湧かなかった。
ただ、底冷えするような冷めた感情が、私の胸の奥を支配していた。
「……詩織さん、どうされますか? 拒否することも当然可能ですが」
私は、窓の外の突き抜けるような青空を眺めながら、静かに答えた。
「会いに行きます。……ただし、陽太は連れて行きません。そして、それが彼の『希望』を根こそぎ絶つための、私の最後の手続きになります」
◆◇◆◇
面会当日
アクリル板の向こう側に現れた直樹は、かつての傲慢な面影など微塵もなかった。
ひどく老け込み、怯えたような目で私を伺っている。
私の姿を見るなり、彼は縋り付くように身を乗り出した。
「詩織!来てくれたのか! 陽太は……陽太はどうした? 外で待ってるのか?」
「陽太は来ないわ」
私は冷たく言い放った。
「あの子は、あなたという存在を自分の人生から完全に『損切り』したのよ」
「損切り……?何を言ってるんだ、俺はあいつの父親だぞ!」
「いいえ。あなたは、自分の欲望のためにあの子の食事を削り、笑顔を奪い、最後には刃物まで向けた『犯罪者』。陽太は今、あなたとは無関係な空気を吸って生きているわ」
私は、持参した一枚の紙をアクリル板に押し当てた。
それは、陽太が自分の意思で書いた、たった一行の決別だった。
『二度と、ママと僕の前に現れないでください』
直樹の顔から、一気に血の気が引いていくのがわかった。
「……そんな……。謝れば、やり直せるって……。俺は反省してるんだ! 詩織、お前だって、俺がいないと生活が……」
「まだ分からないのね。…あなたがいないから、私は今、こんなに幸せなのよ」
私は立ち上がり、虚空を掴むような直樹の目を見据えた。
「あなたの『希望』は、あなたが1円の重みを踏みにじり、私を檻に閉じ込めた瞬間に、すべて燃え尽きたの」
「……これから始まる長い刑期の中で、自分がどれほど価値のないことをしたのか、1秒単位で正確に計上し続けなさい」
「待て!行かないでくれ! 詩織!」
叫ぶ直樹の声を背中で聞き流しながら、私は一度も振り返ることなく面会室を後にした。
重い鉄の扉が閉まる音。
それが、彼と繋がっていた私の人生の、本当の終止符だった。
外に出ると、陽太が公園のベンチで本を読んで待っていた。
「ママ、終わった?」
「うん……全部、綺麗に清算してきたわ」
二人の苗字はもう、あの男とは違う。
私たちは手を繋ぎ、夕暮れの街を歩き出した。
直樹が刑務所で味わう屈辱。
莉奈が背負う底なしの賠償金。
そして高木が隠し持っていた「第2の不正」……。
私の真の復讐劇は、ここからさらに加速していく。
計算の狂いは、一切許さない。
【残り76日】
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