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直樹との面会を終えて数日
私と陽太の新しい生活は、驚くほど穏やかに、そして着実に回り始めていた。
そんな平穏を破るように、私のスマホに非通知の着信が入った。
「……もしもし」
『……詩織さん? 私よ、莉奈』
受話器の向こうで、莉奈の声が震えている。
以前の勝ち誇ったような響きはもうどこにもない。
彼女は今、直樹の背任の共犯疑いと
例の結婚詐欺師に持ち逃げされた多額の借金に追われ、どん底にいた。
「何の用? あなたと話すことなんて、もうないはずよ」
『お願い、聞いて!……私、直樹から「もしもの時の保険」として預かっていたものがあるの。高木常務の背任なんて可愛いものよ。あいつら、もっとヤバいことに手を染めてた』
莉奈が口にしたのは、直樹がかつて勤務していた会社が裏で政界や反社会的勢力と繋がっていたことを示す
「裏の顧客リスト」と「送金ルート」のデータだった。
「……なぜ、それを私に?」
『警察に持っていっても、大きな力が働いて握りつぶされるかもしれない。……でも、今のあなたなら、これを正しく「武器」として使えると思ったから』
『……これと引き換えに、私の借金を……民事訴訟の賠償額を、少しでも減らすように弁護士に口添えしてほしいの』
相変わらず、自分の保身しか考えていない女。
けれど、彼女が差し出したデータは、確かに劇薬だった。
直樹一人の破滅では終わらない、あの会社という組織そのものを根底から腐らせている「癌」の正体。
私は指定された場所で、莉奈からUSBメモリを受け取った。
現れた莉奈は、やつれ果て、かつて私を嘲笑った面影など微塵もなかった。
「……あの人は、これを私への『愛の証』だと言って預けてきたわ。バカよね。自分の首を絞めるロープを、愛人に預けていたなんて」
莉奈は自嘲気味に笑い、夜の闇に消えていった。
自宅に戻り、私はそのデータを慎重に解析した。
画面に並ぶ数字と名前。
それは、1円の誤差を許さない私がこれまで見てきたどんな帳簿よりも、醜く、歪んでいた。
(こんな泥沼の上で、自分をエリートだと思い込んでいたのね)
私はそのデータを、信頼できる経済記者と、私が今勤めている会社の法務チームへと共有した。
復讐のステージは、もう「夫婦のいざこざ」ではない。
私を、陽太を
そして多くの真面目な社員たちを食い物にしてきた、巨大な悪意そのものを解体する戦いへ。
私は、深夜の静寂の中で、新しい家計簿の隅にメモを残した。
「負債:あの会社に関わったすべての人々の誠実さ。
回収:社会的な正義と、私たちの完全な平穏」
窓の外には、夜明け前の深い青が広がっている。
直樹が塀の中で怯えている間に、私は彼が誇りだと思っていた世界のすべてを、根こそぎ奪い去ってあげる。
【残り75日】
#裏切り
#モテテク