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第11話「ひとりぼっち」
レンは大学一年生。黒髪をまっすぐに整え、細い縁の眼鏡をかけ、シャツとベージュのカーディガンを着ている。顔立ちはおだやかで、人混みにいても目立たない。
だが彼には、他人には当たり前にある「別人格」が一人も存在しなかった。
多重人格社会では、役所に出生届を出す際「代表人格」と「同居人格」がセットで登録される。幼稚園や学校でも「今日は誰が出てる?」という会話が日常にある。だが、レンの戸籍には「代表人格:レン/同居人格:なし」と記されている。
大学の教室で自己紹介をするとき、周囲の学生は次々に「勉強担当の私と、遊び担当の私がいます」「料理人格が得意です」と笑いを取っていた。
レンの番が来ると、静かに立ち上がり、淡々と自己紹介した。
「……僕には、他の人格はいません」
教室が一瞬しんとしたあと、ざわめきが起きた。
「え、一人だけ?」「珍しいね」「どうやって退屈しのぎしてるの?」
レンは苦笑しながら答える。
「……代わりがいないので、全部自分でやります」
サークルの飲み会でも同じだった。テンション担当の人格が出て盛り上げる学生もいれば、ゲーム人格が突然参戦して賑やかになるグループもある。
そんな中、レンはずっと一人のまま。静かにグラスを持って笑顔を作るしかなかった。
ある女子が彼に興味を持ち、話しかけてきた。
ショートボブの髪に派手なピアスをつけたアヤカ。彼女は恋愛人格と毒舌人格を切り替えながら言った。
「レンくん、面白いね。だって普通、誰か交代するでしょ?」
「うん。でも、僕は最初から最後まで自分だけなんだ」
アヤカは目を丸くして笑った。
「逆に安心するわ。誰が出てくるか読めるし」
その言葉にレンは初めて救われた気がした。
この社会では“多重人格”は当たり前で、“単独人格”は逆に珍しい。
レンは少し寂しさを抱えながらも、自分を「安定している存在」として受け入れ始めていた。