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こんにちは!今年最後の投稿になる作品です!(ちょっと悲しい?

今回は完全オリジナルの作品となっております。

最後まで見てくれるとありがたいです!!!あ、少しでも心が動いたら♡押してねー!

言葉使いおかしいところあるかも…(中1なの!許して?

いきなり始まるよー!ー



国道沿いの夜陰に浮かび上がるコインランドリー「あじさい」は、まるで夜の海を漂う孤独な観測所のようだった。

健二(けんじ)は重い引き戸を開ける。自動芳香剤の甘い香りと、何十台もの乾燥機が吐き出す熱気が、冷え切った体にまとわりつく。

その隅にある、プラスチックのベンチ。

そこに座る和子(かずこ)の背中は、冬を越すごとに小さくなっていた。彼女が見つめているのは、乾燥機のドラムの中で回転する色とりどりの衣類だ。それはまるで、遠い銀河が渦を巻いているようにも、あるいは、こぼれ落ちた人生の断片が激しく掻き回されているようにも見えた。

「……こんばんは。お隣、よろしいですか?」

健二が声をかけると、和子はゆっくりと顔を上げた。その瞳は、深海のように静かで、何も映していない。かつて健二の冗談に弾けるように笑い、子供の寝顔を慈しむように見つめていたあの光は、もうそこにはなかった。

「ええ、どうぞ。おひとりですか?」

他人に向ける、丁寧で、あまりにも残酷なほど他人行儀な微笑。

心臓を薄い剃刀でなでられたような痛みを殺し、健二は「ええ」と短く答えて隣に座った。

和子は、膝の上で握りしめていた拳を、そっと開いた。

その掌(てのひら)には、一枚の十円玉がのっていた。昭和四十年発行。摩耗し、縁の刻みも消え、もはや貨幣としての価値よりも、ただの「祈りの欠片」のような形をしている。

「これ……不思議なんです」

和子が、消え入りそうな声で呟いた。

「これを見ると、心臓が痛いくらいにトクンと鳴るんです。誰かと、すごく大事な約束をした気がして。誰かが、泣きながら私の名前を呼んだ気がして。……でも、それが誰なのか、どうしても思い出せないの。私、きっと、ひどい人間なんです。その人を、こんなに独りぼっちにさせて」

彼女の頬を、一筋の涙が伝った。

記憶は消えても、「愛していたという痛み」だけが、魂の底に沈殿しているのだ。

健二は、視界が歪むのを必死に堪えた。

五十年前。真冬の公衆電話。

手元には、この十円玉が一枚しかなかった。

『和子、俺には今、これしかない。でも、いつか必ず、この十円をダイヤモンドに変えてみせる。だから、どうか……俺のそばにいてくれ』

震える声で告げた健二に、彼女は受話器越しにこう言ったのだ。

『バカね。ダイヤモンドなんていらないわ。私が欲しいのは、あなたが私を呼ぶ声だけ。あなたが私を忘れないでいてくれるなら、私は十円玉一枚分の幸せで一生生きていける』

約束は果たした。健二は働き抜き、彼女に不自由のない生活を贈った。

けれど、神様はあまりに皮肉だった。

彼女は自分を幸せにしようとした男の名前を忘れ、男は、自分を忘れていく彼女を、一分一秒、忘れることなく愛し続けなければならない。

「……あなたは、ひどい人なんかじゃありませんよ」

健二は、自分のポケットから、もう一枚の、対(つい)になった十円玉を取り出した。

「その『誰か』も、きっと同じ十円玉を持って、あなたを探しています。そして、たとえあなたが忘れても、その人はあなたを許しています。……いえ、感謝しているはずだ。あなたと出会えた、その奇跡だけで、人生のお釣りは十分すぎるほど来たと」

二人の手が、プラスチックのベンチの上で、偶然を装って触れ合った。

和子がビクンと肩を揺らす。

その瞬間だった。

乾燥機のタイマーがゼロになり、ガラン、と大きな音が響いた。

機械の回転が止まり、静寂が訪れる。

和子が、はっとしたように健二の顔を見た。

霧が、一瞬だけ、風に吹かれたように晴れた。

「……健ちゃん?」

その声は、五十年前の、あの公衆電話の向こう側で聞いた声そのものだった。

「健ちゃん。……ごめんね。待たせちゃったわね。もう、雨は止んだ?」

健二は言葉にならず、ただ何度も頷いた。彼女の細い肩を抱き寄せたい衝動を、必死で抑える。今、強く抱きしめれば、この儚い奇跡が壊れてしまいそうで。

「ああ、止んだよ。……全部、大丈夫だ。俺が、ここにいるから」

しかし、運命の針は非情だった。

和子の瞳から、みるみるうちに「光」が引いていく。

彼女は、自分の手を握っている見知らぬ老紳士に気づき、驚いたように手を引いた。そして、またいつもの、穏やかで空っぽな微笑を浮かべた。

「あら……私、またぼんやりしていましたね。すみません、変なことを言って」

和子は立ち上がり、乾燥機から洗濯物を取り出し始めた。

健二は座ったまま、彼女の背中を見つめる。

彼女はもう、二度と「健ちゃん」とは呼ばないかもしれない。

明日には、自分の顔さえ「初めて会う人」として見るのかもしれない。

けれど、健二の掌には、彼女の涙で濡れた十円玉の熱が残っていた。

記憶なんて、なくてもいい。

心が壊れても、魂が君を覚えている。

健二は、彼女が畳み忘れたタオルをそっと手に取り、隣で一緒に畳み始めた。

外は、2025年の冷たい星空が広がっている。

終わりのない回転(サイクル)を繰り返すコインランドリーの中で、健二は心に誓った。

君が僕を忘れるたびに、僕は何度でも、君に恋をしよう。

この十円玉の重みが、僕たちの愛の、最後の証明だから。



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