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りょん.
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静かな部屋。
若井との通話が終わったあとも、
涼ちゃんはしばらくスマホを見つめていた。
それからゆっくり、
『元貴』の名前を押す。
コール音。
数回鳴ったあと、
『……ん、もしもし……』
かなり眠そうな声。
涼ちゃんは少しだけ笑った。
「起こした?」
『……あー……やば……』
向こうでガサガサ音がする。
『俺、曲作ってたのに寝落ちしてたわ』
小さく笑う声。
「ふふ、元貴らしい」
『今何時……?』
「3時くらい」
『終わってんなぁ』
元貴が笑う。
そのいつもの感じに、
涼ちゃんは少しだけ安心した。
「……ちゃんと寝なよ」
『お前保護者?』
「違うけど笑」
少し間が空く。
涼ちゃんはスマホを耳に当てたまま、静かに目を閉じた。
元貴の声を聞いていると、
胸の奥の苦しさが少しだけ薄れる気がした。
『……でもまぁ、最近ちゃんと寝れてねぇかも』
「だめじゃ〜ん」
『曲詰まってんだよ今』
「……ご飯は?」
『食ってる』
「ほんとに?」
『……たぶん』
「たぶんってなに」
少し強めに言う。
元貴は笑った。
『なんだよ今日、やけに心配してくるじゃん』
「……してるよ」
涼ちゃんは小さく呟く。
“自分が居なくなっても”
ちゃんと寝て、
ちゃんと食べて、
無理しないでいてほしい。
そんな言葉が喉まで出かかる。
でも飲み込む。
『あ、そうだ』
元貴が急に声を上げる。
『新しい曲、デモできたんだった』
「え」
『聞く?』
その声が少し嬉しそうで、
涼ちゃんは自然に笑った。
「….聞きたい」
『ちょい待って』
向こうで椅子を引く音。
それからギターを持つ気配。
軽く弦を鳴らす音が、スマホ越しに響く。
『まだ途中だけどな』
「うん」
静かな夜。
そして元貴の弾き語りが始まる。
優しいギターの音。
少し掠れた歌声。
昔から何度も聞いてきた音。
スタジオで。
ライブで。
朝方のソファーで。
ずっと隣にあった音。
涼ちゃんは静かに目を閉じた。
胸が痛い。
でも幸せだった。
“あぁ、好きだな”
って思う。
この音も、
この人たちも。
気づけば、
目尻から涙がこぼれていた。
でも声は出さない。
元貴には気づかれないように、
静かに笑ったまま、
ただその曲を聞いていた。
『そういや若井から聞いたわ』
元貴がぽつりと言う。
『この前夜中大変だったんだって?』
「……あー」
少し苦笑する。
「……迷惑かけた」
『ほんとだよ』
即答。
でも声は優しい。
『心配したんだから』
「……うん」
『次なんかあったらちゃんと言えよ』
静かな声。
『一人で抱え込むな』
「……」
その言葉に、
涼ちゃんは少しだけ息を止めた。
“もう次はないかもしれない”
そんな考えが頭をよぎる。
でも言えない。
「……ありがとう」
小さく呟く。
『だから今日どうしたの』
元貴が聞く。
『珍しく電話なんかして』
「……なんとなく」
それしか言えなかった。
本当は違う。
最後に声を聞きたかっただけ。
でも、
そんなこと言ったら、
全部気づかれてしまう気がした。
『……そっか』
元貴は深く追及しなかった。
それが少しだけありがたくて、
少しだけ寂しかった。
次回5000
閉じたドアの向こうでの作品10000になったら次更新します🍀*゜