テラーノベル
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少女と少年は逃げ出した。 血だらけで逃げ出した。街を誰にもバレぬように、バレても問題ない場所へと。きっと世界から後ろ指をさされる。でもそれでも構わない。
私とあなたが生きてる限り、それでも構わない。
私は三兄弟の末っ子で産まれた。そこそこ裕福で、欲しいものには困らなかった。だからこそ、どんどん物への執着が消えていった。人は手に入らないものに執着するかもしれないが、私にはなかった。どんどんと関心が薄れて、次第に適当な相槌で会話を終わらせる癖がついた。
「キキョウ?お母さん買い物に行くんだけど、何か欲しいものある?」
よく買い物好きの母に聞かれた。私はいつも、何もいらないと答えたかった。でも、物へ執着はなかったが、愛情の執着はあった。ここでいらないと答えたら、母がどう思うか分からなかった。だから毎回、誤魔化した。
「うーん……あ、兄さんがコーヒー買ってきてだって。」
「どうせ豆からとか言い出すんでしょ」
「当たり。」
「ほんとにあの子は毎回毎回……まぁいいか、それじゃあ行ってくるね。」
「はーい。」
毎回適当なことで凌いでいた。嘘はついてない、でも本当も言っていない。そんな中途半端な状態がいつまでも続いた。
学校内でも自分はそうだった。いつもヘラヘラと他人に合わせていた。そうすると自然と、明るい人たちが自分を「明るい人」と評価してくれた。それにいつも心が締め付けられるような気分になった。本当はそんなことない、自分は愚かな人間だとさらに自覚することになったから。でも、今更変えられなかった。
ある日ポロっと友人が言ったのが聞こえた。
「キキョウは凄いよね、いつもクラスの明るい方に居てさ。私はいつまでも中途半端だよ。」
否定したかった。でも、否定したら何かが崩れる気がして。明るいと思ってくれてる彼女の何かを壊す気がして。
「そうですか?やっぱりオーラってやつが違うんですかね〜私って!」
「やかましいな、褒めなきゃ良かった。」
また適当に流した。
その日も母は買い物に行っていた。違ったのは二番目の兄も一緒にいたこと。
「何か欲しいものある?」
「俺アイス!!!約束だよね!?!?アイス買ってきてよ!?!?」
「言うと思った。そんな大声で言わなくても買ってくるわよやかましい。キキョウは?」
「ん〜……あ、でも兄さんがまた豆買ってきてだって。」
「また?消費早くない?……ま、いいか。分かったわ。行ってくるわね。」
「行ってらっしゃい。」
「いってらー!!」
今日も上手く取り繕えた。そう思った。
はず、なのに。
「なぁ、キキョウ」
「兄ちゃんに嘘ついてないか。」
勘づかれた気がした。性格には嘘はついてない。ひた隠しにしてるだけ。なのに何故だろう。背中に流れる冷や汗が止まらない。
「……そんなことないよ?」
「それならいい、いいんだけど……兄ちゃんやっぱり心配だよ。」
「……どういう、こと」
「いつもお前、俺たちに合わせてくれてるだろ。俺達が遊びに行った時とかも、説教食らう時も何となく濁してくれた。」
「……」
「でも俺たち、お前がやりたいこととか、欲しいもの。1度もちゃんと聞けたことないんだよ。」
「母さんも、兄さんも、父さんも、みんな心配してるんだ。」
「なぁ、ほんとにキキョウのやりたい事ってなんなんだ?」
そんなものなかった。自分でも分からなかった。でも、兄達がそれで心配しているのが申し訳なくて、悔しくて。いつの間にか大粒の涙がこぼれていた。
「……ごめん。聞きすぎたな。でも、いつかでいいから話してくれ。」
自室で勉強をするから、兄はそう言って立ち去った。
兄が消えた途端、涙がひっこんだ。
もしかしたら。
「もう涙も、誤魔化す道具になってしまったんですね。」
私の家族は三人家族。一人っ子なのか?ううん、お父さんと私達姉弟で三人家族。珍しい私も思うと思う。
私の家は贅沢言えるような家庭環境じゃなかった。お母さんが蒸発して、お父さんが夜通し会社で働いた。それでも中学生の私と、小学生の弟を支えるのは苦労していた。お父さんはよく「大学まで学費がなぁ……」とこぼしていただから私は高校は奨学金とバイトで行くつもりだったし、大学も進学せずに働く気だった。そうすれば弟の大学費ぐらいなら何とかやりくりできるし、お父さんだって節約せずにもう少し贅沢な生活ができる。お父さんにはよく反対された。「もっと自分の人生のために生きなさい。」ってよく言われていた。でも、お父さんだって私たちのために生きてくれてる。それは都合が良すぎると思った。だから何度言われても曲げなかったし、そのために生きることを決めた。
中学校に上がったぐらいから、周りの見る目が変わった気がした。今まで向けられた友情のような眼差しは、好奇と憎悪と恋慕に分かれた。
父いわく、私と弟は母にかなり似ているらしい。特に私は生き写しのように似ていると言われた。何にも染まらない、ペンキを被ったみたいな白髪。男に媚びない、漆で塗ったような黒い瞳。長くて細い、白い陶器みたいな手足。周りの友達にはそう言われた。
正直自覚もなかったし、したくもなかった。父を裏切った母に似てるなんて考えたくもない。それでも私に向ける目線たちは、それを否応なしに押し付けてくる。
ある日から、キキョウという先輩が毎朝告白に来るようになった。正直告白は多くの頻度でされていたため、面倒くさくて無視しようとした。でもキキョウは、褒める所は私の外見だけではなくて、今までずっと父にたくさん言われたことを褒めてくれた。食べ方が綺麗とか、他人に道を示せるとか、はっきりノーって言えててすごいとか、ずっと父に言われてきた誰にも言われないところを、キキョウは褒めてくれた。毎日告白されるのは面倒だったし、そりゃ毎回断ってたけど、少し興味が湧いて「少しだけ時間が欲しい」と言った。
その日、弟にこの話をした。
「ねぇねぇ。」
「ん?」
「姉ちゃんが誰かと付き合ったらその人半殺しにしないよね?」
「え、するよ。」
「ダメじゃん。」
「えなに付き合うの?」
「付き合いたいなと思ってる」
「姉ちゃん俺置いてくの!?!?面接通さないと許さないからね!!!!」
「お前は何様だ。」
こんなこと言ってたけど、多分許してくれたと思う。弟はいつも私に甘いから。
でも、返事はできなかった。
時間をくれと言ったのに、その日もキキョウは告白しに行った。でも別にホルテンシアは怒らなかった。今日の昼休みに返事をするから、それまで待って欲しいとだけ言って。昼休みに返事を貰うと言われてキキョウはうきうきだった。それはもう友人などに引かれ始めるほどに。物凄い速度でお昼ご飯を食べて、指定された教室に向かった。だが、ホルテンシアはそこにいなかった。
本能で何かがおかしいと感じた。ホルテンシアは時間を守らない人間では無い。自分はそこに惚れていたのだ。じゃあ、なぜホルテンシアは遅れているのか。脳裏に出てくるのはトラブルだった。そう思ったら彼の行動は早かった。
彼女の教室から始まり聞き込みを始め、気に入っていた場所からあまり行きたくないと言っていた場所まで、全て探した。でも、どこにも彼女はいなかった。これは異常だと感じた時、同じように異常な音が鳴った。
ごしゃっと、何かが潰れる音。
これはまた問題があると感じて、音のした方に向かった。今も利用されてる旧校舎の裏側だった。そこに居たのは、血だらけになった自分の同級生だった。そして一緒に。
「……ホル、さん?」
「……ぁッッ!!ぁあ……!」
彼女はいつものような凛とした態度ではなかった。手に持っていたのは小石だった。だがそれには血がべっとりついていた。血がついていたのはそれだけじゃない。他の石にも血がついていた。きっと砕ける度に新しい石で殴っていたのだろう。
彼女自身も、いつもはきっちりと着ている制服を大きく乱していた。特に胸元は大きく露出し、スカートもすぐに降りてしまいそうなほどチャックが下げられていた。顔には血がべったりとついている上に、何より動揺が激しい。
「やめて……ッ!来ないでよぉ!!!
どうせあなたも乱暴するでしょう!?!?」
そこで気づいた。同級生のズボンのベルトが外れている。そういうことか。吐き気がしてきた。
おそらくこの男たちはホルテンシアに好意を抱いていた。だが彼女はちょっとやそっとで靡く女じゃない。自分がいちばん痛感している。そこで既成事実を作ろうとした。断れない状況を作って、無理やり__
「どうすればいいのッ!どうしたら正解だったのぉ……ッ”!!!」
何も言えなかった。
「大丈夫、大丈夫です。私がついてますから。大丈夫。」
それしか言えなかった。
こんなことをしたのだ。きっと彼女は捕まる。この国の法律からして、捕まった人間がどういう扱いをされるか。それを想像すると、やることは一つだけだった。
「……ホルテンシアさん」
「一緒に、逃げましょう」
行方不明事件の詳細です。
1回データ全部飛んで萎えてました、すみません。
コメント
44件
ねぇ...もう...ほんとさ...ね、辞めようよ... 仲間じゃねぇか。私もグレイのやつ半分くらい書いてたらデータ消えたで()
ワ、ワァ… と、取り敢えず襲ってきた同級生 100回くらい〆てくるね!?
あ"ーーーー!!!ホルさんッッッ!!!!😭😭😭😭😭😭 ホルさぁぁぁぁぁぁん!!!!😭😭😭😭😭