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ネックは食材の調達方法と準備だ。

色々考えたけど、やっぱり業者からまとめて購入して納品してもらうのが一番いいという結論に至った。

そこでネットで調べているんだけど…やっぱりかなり前から予約が必要なところばかりで、今からじゃ受け付けてもらえなかった。

ほんとこんな直前まで放置しておくとか、みんないい加減過ぎだよ…。

田中さんが億劫がって動かないのにみんな合わせてたんだろうけどさ…。

とにかく、早く業者を見つけなきゃ。

先輩たちが帰ったあとも、ずっとパソコンをにらんでネットを彷徨っていると、着信音が鳴った。

デスクのじゃなくて、スマホの方だ。

遊佐課長サマから、お電話がかかってきた。

『おつかれさま』

「…おつかれさまです」

むっすりとした声で返してしまった。

今夜は課長の面倒をみるどころではないのだ。

「今日は別の残業で忙しいんですけれど」

『そう?なら俺がいつものようにお助けしてあげようか?』

今日の残業はいつものとは中身がちがうんですよ。そう、あなたのおかげでね。

「すみません。今夜は行けそうにありません」

『そんな返事はいらないよ。早く来て?』

「…わたし、ほんとに今日はそれどころじゃ」

『早く来い。命令』

もう…!腹が立つ。

だれのせいでこうなったと…!

こうなれば、課長にも業者探してもらうんだからね。





ぷんすかしながら部屋に行くと、ご機嫌とりのつもりか課長はカモミールティーを淹れてくれた。

「ところで、今日話し合っていた案はどうなったの?準備が大変って言ってたけど」

「もちろん、準備することになりました、独りで」

「独りで?」

これには課長もおどろいたみたい。一瞬眉間にしわが寄った。

「大丈夫なの?全社員分のを用意するんだろ?」

「はい、大丈夫です。いつもの残業より、ずっと簡単ですから」

「?」

「『材料×全社員分×種類』。使うのは単純な掛け算だけ。難しい計算式なんて不要ですから」

「ははは。そうだね。その通りだ」

愉快そうに口端を歪めると、課長はいつものようにレモンティーを飲んだ。

「でも例の魚介はどうするの?」

「それは…今業者を捜しているところです」

「残業してまで?もう数日前だろ?手配間に合うの?」

「間に合わせてくれるところを探すんです」

苛立ちを隠せないままつっけんどんに言う。

課長はくすと微笑んだままだった。

やっぱり、案に同意して押し切ったのは、わざとわたしを困らせるためだ。

そこまでして、なにが楽しいんだろう…!

わたしはちっとも美味しいと感じないカモミールティーに口をつけた。

すると。

「はいじゃあこれ」

ソーサーの横に、課長がそっとメモ用紙を差し出した。

「特別に紹介してあげる」

「え?」

そこには簡素に

株式会社カインドフード

とあり、代表者名と電話番号とメールアドレスが書かれていた。

「いつも行くバーで知り合った飲み友達なんだ。飲食店専門に肉や魚介類を発送している会社をやってる。さっき連絡したら、快く配送を了承してくれたよ」

わたしは思わず課長を凝視した。

もしかして。

同意したのって、このあてがあったから…?

「言っただろ。キミは俺が助けるって。ふふ、ちょっと表情がかるくなったね」

「ありがとう…ございます…。すみませんでした…」

「いやいや。俺は雇用側として当然の代償を払っただけだからね」

微笑む顔には、ちょっとイジワルな表情が残っていた。

けれど。わたしは思い知る。

課長は本当はイジワルなんかじゃないんだ、って。

わたしのことを本当に支えようとしてくれているんだ、って…。

「と、いうことで、本日の残業終わり?」

「…はい。…じゃあ…ご飯作りますね」

「待ってました」

なんだか肩透かしを食ったような気分だった。

課長には一応感謝しておこう…。

問題が解決できたなら、あとはすこしずつ進んでいけばいい。

次の問題は食材をどう準備するかだなぁ。

せめて社内に大きな台所があれば、わたし独りででも準備できるんだけどな。

冷蔵庫もたくさん入る特大サイズがあれば…そうちょうどここの冷蔵庫みたいに―――。

と、大きな冷蔵庫を開けようとして、わたしは動きを止めた。

あれ、どうしてもっと早く気づかなかったんだろう。

「どうしたの?」

冷蔵庫の前で突然黙ってしまったわたしを課長が怪訝そうにみつめる。

「お願いがあります!課長」

「わ、どうしたの急におっきな声出して」

「鍋パーティの準備のために、このキッチンを貸してくださいませんかッ」

なんでもっと早く気付かなかったんだろう。

下準備する場所ならあったよ。

この広くて設備のそろったキッチンならなんでもできる!

「わお、それは灯台もと暗しだったな。ナイスひらめきだ」

「はい!親睦会は夕方だから、朝に配送してもらって準備をはじめれば、余裕で間に合います」

「ふぅうん。御見それしました。キミってけっこう切れ者かもね。がんばってね。応援してる」

「はい、がんばります!」

ひさしぶりに笑顔を取り戻せたわたしに、課長もうれしそうに笑い返してくれる。

協力してくださった課長のためにも、この企画絶対成功させなくちゃ。

なんだか、ますます楽しくなってきた…!

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