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角名side
最悪とも呼べる別れ方をしたお盆から、早くも五ヶ月が過ぎようとしていた。
あれからというもの、お互いに連絡を取る事も、帰省もしていない。
していないというより、できなかったという方が合ってるかもしれない。
春高のための練習で正月は帰省でき無かったし、あれ以来、(名前)に着信拒否を解除してもらえずにいた。
けど、(名前)の事を責めるつもりは全く無かった。
あんな苦しそうな顔をさせてしまったことに対して、俺は俺自身を責めたくらいだった。
あんなに辛そうにさせてしまうなら、着信拒否の解除なんてしなくていいと思ったほどだ。
でも、この五ヶ月間(名前)を忘れた事は無かったし、ずっと(名前)を一番に考えていた。
次会ったら、前言えなかったことを一番に伝えたい。
そう思いながら生活していた。
季節は一月の上旬。
俺は今、全国春高バレーの会場に居た。
インハイに比べて、テレビ用のカメラが格段に増え、観客席もほぼ満席状態だった。
「やっぱ春高ってすご…」
「せやな、なんか緊張よりワクワクのが強いわ」
相変わらずのポーカーフェイスでそう言う治は、自身の肩にかけてあるエナメルバッグの中からおにぎりを取り出して食べ始めた。
「ほな、ここ荷物置き場にしよか」
監督が指示した場所にまとめて荷物を置き、俺は選手用のトイレへ向かった。
そういえば、インハイの時も選手用の階段で(名前)と会ったな。
…(名前)も全国来てんのかな。
そんな事を考えながらトイレのドアを引こうとした時、反対側からちょうどドアが押された。
「あ、すみませ…え、(名前)?」
「…本当よく会うね」
(名前)と鉢合った。
「…ぁ、え、うわ、まじ」
あれだけ見てきた(名前)の事が、一瞬分からなかった。
俺と同じくらいの長さだったストレートの髪の毛は、襟足が目立つほど伸びていて、パーマをかけたような癖毛になっていた。
髪の毛だけじゃない。
両耳のロブにピアスまで開けている。
一瞬、息が止まった。
見た目が変わった事しか見ていないのに、まるで中身まで変わってしまった様な気がして。
気に食わないという腹の底からの不快感が俺を襲った。
「ねぇ、(名前)。
何?この変な髪型。全然似合ってないよ」
「…は?」
「変に色気付いちゃってさ、耳痛めつけてピアスとか開けちゃって。
なんなの?高校デビューでもしたつもり?」
そう言って、(名前)のピアスに少し触れた俺の手は、(名前)によってすぐに払われた。
なんでこんな事を言ってしまったのか、自分でも分からない。
ただ、気に食わなくて。元に戻して欲しくて。
「…お前がこの見た目嫌ってくれた方が都合がいいわ」
「ねぇ、それってどう言う意味?」
「…角名には関係無ぇよ」
「は?意味わかんないんだけど。
今すぐ辞めた方がいいよ。クソダサいから」
なんで今日は(名前)にこんなに強く当たってしまうのか分かんなかった。
何故か無性に腹が立って、気に食わない。
今までこんなことなかったのに。
ただ、ピアスもパーマも全部やめてほしいと思った。
「…あっそ。そうかよ」
(名前)が反論を辞めた途端、言いすぎたと後悔した。
なんなんだ、こんな感情。
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