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千歳(朝霧の忌み子のすがた)と駅近くの公園の大きい夏祭りに来ている。白ワンピの千歳はずっとはしゃいで嬉しそうだ。
『台風と被んなくてよかったな!』
「本当だねえ」
千歳は即食べ物の屋台に向かい、イカ焼きとたこ焼きを持って帰ってきた。早速イカをかじっている。
『うまい!』
「そりゃよかった。こないだよりずっと広いねえ」
前のは子どもが遊ぶような広場に出店を詰め込んでいたのだが、ここは家族連れや大人同士がピクニックでも出来るくらい広場も道も広い。盆踊り会場まである、当然人口密度も高く、老若男女様々な人とすれ違った。
『次はあんずあめと今川焼とかち割氷とチョコバナナ食べよっと!』
多い。
……俺がいなくなったあと、千歳はどうなるだろうか。緑さんと峰伊吹さんが代表してサポートを約束してくれたけど。
いつか、千歳も恋を知るのかな。それとも、ずっと食い気一辺倒のままかな?
どっちでもいい、ただ、周りの人に優しく支えてもらえて、幸せに暮らしてくれれば。
千歳は甘いものをたっぷり食べ、満足したようだった。俺もたこ焼きを食べてラムネを飲んだ。
『なー、ついでに踊ってこう』
千歳が盆踊り会場を指さした。高台で太鼓が打ち鳴らされ、盆踊りの歌が流れている。周りで踊ってる人は、意外とまばらだった。
「割と空いてるね、でも踊り方よくわかんないな」
『ワシの真似しろ、東京音頭なら踊れる』
「うん」
千歳と盆踊りの輪に飛び込むと、千歳はキレよく踊り、景気よく手拍子をした。俺も見様見真似で踊り、踊るうちにある程度慣れてきた。
千歳はノリノリで踊るおじいさんに踊りを褒められていた。
「お嬢ちゃん、うまいねえ!」
『ありがとー! これだけは踊れるんだ!』
しばらく踊ってから、俺達は輪から離れた。花火が打ち上がり始めているから、そっちの見物だ。
『やっぱ祭りは踊りだな』
「楽しかった?」
『うん!』
千歳は笑い、それからなんの邪気もなく俺にこう言った。
『来年もこの祭り来ような!』
打ち上がる花火が、千歳の顔を照らした。
「…………」
来年。その時は、もう俺はいないよ。来年、千歳と一緒にこのお祭りに来てくれる人は、いるんだろうか?
いや、きっといる、星野さんも緑さんもいるし! 俺がいなくなっても大丈夫だよ! それに、千歳に俺が死ぬことを気取られちゃいけないんだよ! 何事もないように返事しないと!
「……うん、来年もまた来ようね」
俺は、決して守れない約束を、千歳とした。
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コメント
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読了しました。千歳ちゃんが無邪気にはしゃぐ姿と、主人公の「来年はもういない」という諦念の対比が切なすぎます。「来年も来ような」という屈託のない言葉に、守れない約束を「うん」と返してしまう場面、胸が締め付けられました。盆踊りや花火の賑やかな情景が、だからこそつらい。タイトルの「ひどくつらい」が最後にずしんと沁みました。どうか千歳ちゃんが幸せでありますように……。そんな祈りが湧いてくる一話でした。