鈴子は『神戸聖メリー・アントワネット女学校・中等部』に首席で入学した
新入生の挨拶もさっそうとやってのけ、全寮制の同じ年代の女子達に囲まれ、充実した学園生活を送った
アントワネット校の規則はとても厳しかったが、頭の良い鈴子にとって校則をすり抜けることなど、彼女にとっては朝飯前であったし、金持ちお嬢様学校の表向きは、兵庫県一品格が良い女子が集まっていると言われ
近所の男子学生達は、道で歩く優雅なアントワネットの女子学生を見る度ぽーっと憧れて「アントワネット女子高の生徒はトイレなどには行かないのだ」という伝説も生まれたいた
しかし、そんな地元では芸能人扱いされているアントワネット生も、みんな品格の皮を脱いでしまえば、普通の10代の世間知らずの女の子の集団に過ぎなかった
鈴子の学園生活は充実していたが、一つだけ厄介だったのは、隣のクラスで、寮では隣の部屋のアントワネット校一の大富豪「カクヨ文具」の会長の孫娘、「黒田純」だった
純は当初、討伐を表して、悪目立ちをしている鈴子を何かとライバル視して、主席の鈴子に陰でひどい嫌がらせをしていた
最初は鈴子も相手にはしていなかったが、1学期も終わる頃には、学年の派閥は、「鈴子派VS純派」と真っ二つに分かれた
そして夏休み前、エスカレートするお互いの嫌がらせに緊張はドどんどん高まり、とうとう親分同士のタイマンが始まった
夜中の午前0時、中等部寮の大集会所、寮母達が起きて来ない様にその晩は見張りがつけられ、夜中だと言うのに集会所には全寮生が結集していた、大勢の生徒に囲まれたど真ん中の広いスペースに鈴子と純がいた
最初に攻撃したのは純だった、ものすごい音を立てて純は鈴子の右頬を平手打ちした、すかさず鈴子は純の腹を蹴り上げた、純は黒板にいやと言うほど背中をぶつけた
「いいぞー!!」
「やれ!やれ!」
「鈴子が勝つ方に千円!」
「だめよ!純よ!」
品が良いと言っても裏に回れば血気盛んな若者など、男も女もみんな喧嘩が大好きだ、生徒達はおもむろにそれぞれ叫んで親分同士の一騎打ちに興奮している
その時また純のパンチが鈴子の頬にヒットした
バシッ
―ああっ・・・痛い!どうしてこんな思いをしなきゃいけないの・・・―
鈴子は純の殴られた右腕を掴んでそれにかぶりつき、ありったけの力を歯に加えた
―自分はこんな所で何をしているだろう、兄も優しい父もいなくなった―
純からくぐもった悲鳴がした
―これもみんなあの女のせいだ!百合が二人を殺したっっ!!―
鈴子は純の髪を掴んで思いっきりひっぱった、その勢いで純が床に倒れた、鈴子は両手で純の髪を掴んだまま、辺りを引きずり回した
―あの女が憎い!憎い!憎い!―
鈴子は純に馬乗りになって純の首を両手で締めあげた
―殺してやる!殺してやる!父と兄の無念をはらしてやる!殺してやる―
―殺してやる!―
「ねぇ!!ちょっとやめてよ!」
「やめて!やめて!純が死んじゃうよ!」
ハッと周りから叫ばれている声で鈴子は我に返った
「あなた達!何をしているの!」
「ただちにやめなさい!!」
寮母が二人飛び込んで来て辺りに叫び声が響いた、みんな蜘蛛の子を散らすようにいなくなり、残ったのは鈴子と純と寮母だけ
ゼ―ッ・・・ゼ―ッ・・・
「ゴホッ・・・ゴホ・・・ゴホ・・・」
「黒田さん!大丈夫ですか?黒田さん!」
「誰か!お医者様を!とにかく医務室へ運んで!」
ふと気が付くと、目の前の純は喉を押えて死にかけていた
純は二人の寮母に抱えられ、医務室に運ばれた、すかさず鈴子は『反省室』と言う牢獄に閉じ込められ、1週間禁固刑になった、その夜、寮の入り口に救急車のサイレンが鳴った、純が病院に搬送されたのだ
鈴子はガタガタ震える自分の手をじっと見つめた
―私は何をしたんだろう・・・あの時・・・私が首を絞めていたのは純ではなく百合だった・・・
ただ真っ暗な暗闇で鈴子はただ一人・・・
自分の中に巣食っている悪魔の存在を知り・・・それを持て余していた・・・
『憎しみ』という名の悪魔を・・・
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