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圭は口元を歪め、笑みを湛えているが、まるで怜を見下しているように見える。


「俺は自由に生きている怜が逆に羨ましかったが? 大学卒業して、リペアの専門学校まで卒業してさ」


どこか馬鹿にしているような言い草に、奏は圭を見やった事で多少冷静になったとはいえ、あからさまに唇を『への字』にさせた。


怜がリペアラーとして、人柄も腕も信頼されている事を、圭は全然分かっていない。


いや、分かろうとする気も全くないのだろう。


(怜さんよりもお兄さんの方が色々優れてるとはいえ……それを鼻にかけてマウント取っちゃうのはサイアクだわ。男の嫉妬も醜いって事か……)


奏は怜と瓜二つの圭の顔に軽蔑混じりの視線を送り続けた。




双子なのに、こうも性格が対照的だったとは。


圭に初めて会ったのは、奏が演奏の仕事でハヤマ ミュージカルインストゥルメンツの創業記念パーティに行った時だ。


あの時、怜よりも圭の方が柔らかい雰囲気だと思っていたが、人当たりの良さそうな仮面を被っていた、という事か。


「出来のいいお前と違って、俺は早々と親父から見限られたようなモンだったからな。だから俺は諦めきれなかったリペアの勉強をして、手に職を付けた」


圭が『ハァッ』と嘲笑混じりにため息を吐く。


「いくら親父に見限られたとはいえ、自由な怜に嫉妬したよ。俺は親父に、会社の経営者になるためのレールを敷かれて、その上を歩いてきたワケだからな。だから俺は……」


圭が不気味な笑みを映し出し、口角の片側を器用に上げながら言葉を繋げる。


「お前が一番大切にしている存在、真理子に財力と肩書きをチラつかせて言い寄り、寝取った。『俺の恋人になったら、君は将来社長夫人だ』って言ったら、真理子は喜んで俺に脚を開いたよ。まぁ真理子も外見が良くて華があるし、周りから羨望の眼差しで見られたし、お陰で今はいい思いをさせてもらってるよ」


圭の言葉を聞いた真理子が俯き、唇を震わせつつ泣きそうになるのを、奥歯を噛みしめながら堪えている。


悪びれる様子もなく、圭は言葉を続けた。


「それに結婚したら、今までみたいに女と遊べなくなるだろ? まぁアレだ。怜が音羽さんと町田のアウトレットモールで見たのは、俺の結婚前の遊び納めってヤツだな」


言いながら、兄は徐々に醜悪な表情を浮かべていく。


「女ってホント単純だよ。財力と仕事、高級車に乗って、高級ホテルのレストランで食事するだけで食いついてくるんだからな」


圭はフンッと笑い捨てると、怜が怒りに震わせながら般若のような面差しで兄を見据えた。




「圭……。お前……人間的にクズでサイアクだな……」


爆発しそうな感情を抑え込みながら、地鳴りがしそうな声音で圭に言い返す怜。


「何とでも言えよ。しかし、俺の肩書きと財力と将来の社長夫人に釣られて、真理子がお前から俺に乗り換えたって事は、真理子も怜の事を大して好きじゃなかった、って事だよな?」


勝ち誇ったような圭の笑いを目にした奏が、ボソリと『サイアク』と呟くが、兄には届かなかったようだ。


「そういう事だろうな。真理子が俺と別れたいと言い出して、すぐに圭の恋人になったと聞いた時は、怒りとショックで、やり切れない思いをどこにぶつけていいのか、分からなかったほど辛かったがな」


(そうか。怜さん、当時大切な存在だった園田さんをお兄さんに取られ、しかもお兄さんは婚約者となった園田さんがいるにも関わらず、他の女と浮気していたから、あんなにお兄さんの女関係を気にしていたんだ……)


双子の対峙を目の当たりにしながら、何故怜が圭の女性関係を気にするのか、やっとここで合点がいった奏。


怜は鬼のような形相のまま、圭を凍りつくような視線で貫いていたが、兄から視線を外して俯いた後、『ハアァッ』と短くも大きくため息を吐く。


ゆっくりと顔を上げ、再び圭を見据えた後、奏の肩を強く抱き寄せた。

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