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#戦国時代
眠狂四郎
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#戦国時代
眠狂四郎
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#軍師
眠狂四郎
153
シラクスは、長年グランと友好関係を築いてきた老王ヒエロム2世が崩御すると、
わずか十五歳のヒエロムニアが王位を継いだ。
しかし、カンナルの戦いでグラン軍が壊滅すると、
新王はグランとの同盟破棄を宣言し、カルタゴ側へと寝返る。
ライナーはすぐさま軍を送る
だが、そのわずか三か月後――。
ヒエロムニアは反対派によるクーデターで暗殺された。
混乱の末、シラクスで実権を握ったのは、
ハンニバルの下で軍事経験を積んだヒッポクラテスとエピキュデス兄弟であった。
こうして南ナガグツ半島の付け根に位置する戦略拠点シラクスは、
バルカ陣営へと組み込まれることとなる。
ライナー王の怒りもあり、
グラン海軍は六十隻を超える大艦隊をもってシラクス攻略へ向かうこととなった。
要塞攻略のため、攻城塔を備えた大型艦も多数建造される。
「……以上が敵要塞の概要です。」
グラスは海図を広げ、マルスへ説明した。
「つまり何だい。」
「敵の投石機を避けながら全速力で城壁へ接近し、
そのまま攻城塔で乗り込むってこと?」
「その認識で間違いありません。」
「うーん……。」
マルスは腕を組んだ。
「敵の投石機は群を抜く威力です。」
「命中精度も高く、昼間の接近は危険かと。夜陰に紛れての攻撃を進言します。」
「どうするかなあ……。」
マルスは海図を見つめたまま黙り込む。
(敵の得意な土俵で戦うだけじゃねえ。)
(それじゃ、勝てばいいけど。負ければ大惨事だ。)
「……何か嫌な予感がするんだよねえ。」
だが、他に決め手となる策は誰一人示せなかった。
「ですが、ライナー王からも急ぎ攻略せよとのご命令が……。」
躊躇するマルスへ、グラスは静かに決断を促した。
「怒りで攻めるのは良くないよ。」
「ガラリアを見てごらん。」
「感情で始めた戦は、ろくな結果にならない。」
作戦会議では様々な案が飛び交った。
夜襲。
一斉突撃。
囮を使った陽動。
だが、どの案も決め手を欠いていた。
そして、この時のグラン軍には、一つの思い込みがあった。
要塞とは、敵の攻撃に耐えるためのもの。
誰もがそう信じて疑わなかった。
だが、アルキメディアが築いた要塞は違う。
それは、敵を迎え撃つための巨大な兵器だった。
グラン軍は、その攻撃力をあまりにも過小評価していた。
結局、採用されたのは正面からの強襲だった。
(名誉は正面にしかないと思っている。)
(その考えが、敵に読まれるんだけどね。)
マルスは胸の奥に小さな不安を抱えたまま、攻城塔へ足を向ける。
「一番乗りだ。」
そう言って先頭へ立とうとした瞬間――。
「お待ちください。」
グラスが静かに、その腕をつかんだ。
「ここは私が行きます。」
グラスの策は、自ら奴隷軍団を率いて先陣を切り、
城壁へ取りつくというものだった。
マルス本隊は第二陣として続く。
マルスはなお反対したが、最後には渋々うなずいた。
港へ向かう艦隊は、風を読み、可能な限りの速度で突入を開始する。
何隻かは投石を受け、大破、あるいは撃沈された。
だが、大半の艦隊はその猛攻を突破し、港内への侵入に成功した。
「やった……。」
グラスは攻城塔を備えた船を城壁へ接近させ、
その周囲へ護衛艦を展開させようと命じた。
――その時だった。
城壁の上から、巨大な木製の腕がゆっくりと姿を現す。
「……何だ、あれは。」
次の瞬間。
巨石が一隻の船へ落下し、甲板を砕いた。
別の船は巨大な鉤爪に船尾をつかまれる。
ぎりぎりと船体が持ち上がり、
宙へ浮いたかと思うと、そのまま海面へ叩きつけられた。
船は真二つに割れ、兵士たちが海へ投げ出される。
グラスは目の前の光景を信じられなかった。
(こんな兵器が……存在するのか。)
だが、驚いている暇はない。
「海へ落ちた者を救助しろ!」
「全艦、退却だ!」
命令が飛ぶ。
しかし、その退却さえ許されなかった。
城壁の狭間から、無数の連弩が火を吹く。
矢の雨が甲板を覆い、悲鳴が港へ響き渡った。
グラン海軍の損害は、刻一刻と膨れ上がっていった。
第一次攻撃は失敗に終わった。
艦隊の損害は甚大。
救助された兵士たちは皆、城壁を振り返りながら震えていた。
マルスはグラスの報告を静かに聞いていた。
脳裏には、先ほど港で見た光景が何度もよみがえる。
巨石。
巨大な鉤爪。
人の力では到底動かせぬはずの兵器。
そして、壁の隙間から絶え間なく降り注ぐ矢。
しばらく沈黙したあと、マルスは口を開いた。
「……そのアルキメディアという男は、何者だ。」
グラスは首を振る。
「先王に仕えていた学者、としか。」
「学者……か。」
マルスは苦く笑った。
「こんな化け物のような要塞が、本当に落ちるのか。」
「落とすしかありません。」
短い返答だった。
マルスは肉弾戦なら誰にも負けない自信がある。
どれほど堅固な城であろうと、人が守る以上は攻略できる。
そう信じてきた。
だが、この要塞だけは違った。
相手をしているのは兵士ではない。
知そのものが牙をむいている。
その得体の知れない恐ろしさが、胸の奥に重くのしかかっていた。
一方その頃――。
要塞司令官エピキュデスは、港に浮かぶ残骸を見下ろしていた。
「見事だ、アルキメディア。」
軍師アルキメディアは静かに眼下を見渡し、わずかに口角を上げる。
「当然です。」
アルキメディアは静かに城壁へ手を置いた。
「我が要塞に――」
「死角などありません。」
コメント
1件
第66話、一気に読み終えました。アルキメディアの要塞が「敵を迎え撃つ兵器」という概念の転換が鮮烈でした。マルスが「知そのものが牙をむいている」と感じる場面、すごく好きです。彼の直感と不安が、無理に突き進むのではなく一旦立ち止まらせる――その葛藤の描き方が丁寧で、胸に響きました。グラスの「落とすしかありません」の短い返しにも、覚悟と重みが滲んでいて。次が気になります🤍