「父さんも今日はこの別荘貸してくれてありがとう」
「こんなに素敵な場所でこんなに素敵な結婚式させてもらって幸せです。ホントにありがとうございます」
そして黙って見守ってくれていた親父にも感謝を伝える。
「ようやくこの別荘で理想の時間の過ごし方が出来たような気がするよ。母さんとも別れてから、当然母さんはこの別荘に来ることもなかったし、樹ももちろん来るようなこともなかった。だけどいくら自分の好きな空間を作りあげても、私一人だとあまりにもこの別荘は広すぎてね。この別荘がこんなにもたくさんの人で賑わっているのは初めてだ。お前たちのおかげで、この別荘も生まれ変わったような気がするよ。こちらこそここをこんなに素敵な場所にしてくれたことに礼を言わにゃならんな。ありがとう」
こんな言葉親父から聞けるなんて・・・。
あぁ、やっぱダメだな今日。
ずっと胸も目も熱くなるばっかだ。
透子を感動させるはずが、オレまで同じような気持ちになってるし。
だけど、オレたちは今までなかなか本当の気持ちを言い合えた二人じゃなかったから。
オレも必要以上の言葉が照れくさくて、どう伝えていいかわからなくて、上手く言葉に出来ないけれど。
だけど、オレは精一杯のその時の笑顔で親父に笑顔を返し、頭を下げ感謝を伝えた。
「母さんも今日はありがとう。母さんはずっとオレを信じてくれていつも力を貸してくれた。何より母さんがいてくれたことで、今のオレはここにいられる」
「私の方こそ、あなたの存在がずっと私を支えてくれた。あなたがいてくれたから、私は今までずっと頑張ってこれたのよ。ありがとう。あなたがちゃんと自分の力で幸せを手に出来たこと、そして大切な人と人生を歩めることが何よりも嬉しいわ」
ホントに母さんはずっとオレを信じてくれて見守ってくれた。
いつでもオレの味方でいてくれた。
それがどれだけ心強かったか。
母さんが仕事が忙しくなって離れることが増えて寂しい思いを感じたこともあったけど。
でも母さんがオレの母さんでいてくれて、そしてREIKAとして活躍して輝いていた母さんも、どちらもオレにとってはホントに自慢で大好きな存在だった。
「今考えてみたら、透子との出会いも今こうやって同じ道を歩めているのも、もうどこからそれが始まっていたのかもわからないくらいだけど。でも、この出会いは母さんや親父がいるからこそ、巡り合えた奇跡なんだって心の底から二人には感謝してる」
いつの間にか皆がそれぞれ違う方向を向いて、オレたち家族は決して幸せなんかじゃないと思っていた。
きっともう戻らないと思っていた。
実際親父と母さんは離婚したままだけど、だけどそれはただの一つのカタチで。
ただ紙切れの中だけのカタチだけで、現実は今オレたち家族はこんなにも強い深い絆でまた結ばれるようになった。
オレはそれだけで十分。
オレにとっては親父が今の会社を作ってくれなかったら、透子ときっと今こんな風に一緒にいることは出来なかったと思う。
母さんも自分の夢を追うことがなかったら、透子の支えはなくなっていたかもしれない。
母さんが今のREIKAとしていてくれてるから、今オレも同じ道を歩んで新しい自分としても頑張れて、今の透子との幸せを守れている。
そして透子の実家のレストランに連れて行ってくれて、透子と出会わせてくれたこと。
気付かないほど遠い昔に透子と運命的に出会うことが出来ていた。
それはオレにとってどれも奇跡としか言いようがなくて。
だけど今一番感謝して嬉しいと思うのは・・・。
親父と母さんの子供になれたこと。
今では感謝してる。
ありがとう。
「透子さん。これからもただ樹を信じてついていってやってね。これからはきっと樹はあなたとの幸せを何よりも力にして支えにしていくだろうから」
「はい。私も幸せだと感じられるのも今の自分を好きでいられるのも、全部樹さんがいなきゃダメなので。樹さんは私のすべてです」
母さんの言葉からも、透子からの言葉も、オレを想ってくれるその大きさが痛いほど伝わって来て、幸せで胸がギュッとなる。
「それを聞いて安心したわ」
「ホントに素敵な贈り物もして頂いてありがとうございます。なんかまだ今でも憧れの宝石を身にまとっている自分が幸せすぎて夢みたいです」
「今回は透子さんを思い浮かべて作った特別なモノだから、喜んで頂けて嬉しいわ。だけど案外そういう特定な誰かの為に作ることがなくなったことに今回改めて気付いたの。この世にたった一つしかない特別なモノを作れるのって私も幸せなんだと思えて楽しかったわ」
母さんがそこまでして作ってくれたモノ。
決して誰に対して甘い訳でもないし、仕事でもオレに対してもちゃんと厳しくするところもある。
オレの相手だって、きっと違うと感じたら、オレの為にちゃんと苦言する人だろう。
だけど、オレは透子は最初から気に入ってもらえる自信があった。
誰に対しても優しい人で温かい人で、そしてオレよりも遥かに強い人。
そんな人はどこ探してもいない。
オレがこんなにも心許せてすべてを預けることが出来るのは、透子たった一人だから。
きっと、それを母さんも感じ取ってくれて、そして実際会って気に入ってくれた。
やっぱりオレが選んだ人は間違いなかったんだと、そう思える。
「でも多分オレが今は一番幸せかも」
「えっ?」
「だって自分にとって一番大切で愛しい人が、母さんの力で今まで以上に幸せになって綺麗になってるんだよ? こんな最高に幸せなことないでしょ」
そう、やっぱりオレがきっと一番幸せ。
愛しい人が母さんに気に入ってもらえて、そして自慢であるその母さんの力で、その人がオレの為にこんなに綺麗になってくれている。
その姿を見れるなんて、オレだけの贅沢で幸せ。
オレ以外こんなに幸せ手に出来てる人他にいないでしょ?
愛する人が隣にいて、そしてずっと望んでいた温かい家族の姿がまた戻って来て。
今はこの家族の中に、透子も一緒にいてくれる。
オレにとっては人を愛するということも、家族の温かさも、ずっと感じることが出来ずにいた今までの人生。
他の人なら、きっとそれが当たり前に自然に出来ているモノが、オレにはずっと出来なかった。
だけど、透子に出会って、オレはこんなにも愛することが出来た。
壊れてしまったと思っていた家族のカタチが、またこうやって元のカタチ以上に大きなモノとして温かいモノとして戻って来た。
それは透子が当たり前に自然にオレに与えてくれた。
オレにとってそれは何よりもすごいことで、大きいことで。
もしかしたら透子がいなければ一生感じることが出来なかったかもしれない。
きっと透子はそんなこと気付いてもいないのだろうけど。
だけど、きっとそんな透子だから。
当たり前にそれが出来る透子だから、オレは救われた。
何年も前からその優しさに惹かれていた運命。
オレに愛することを教えてくれた、大切で愛しい運命の人。
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!