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#山中柔太朗
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「……ちょっと、これ、何……?」
午後の診察が落ち着いた時間帯、ナースステーションで書類の整理をしていた柔太朗の手が、ピタリと止まった。
勇斗のデスクの下、奥に落ち込んでいた一枚の白い封筒を拾い上げたときのことだ。
表にはどこか力強い字で、はっきりとこう書かれていた。
『遺書』
「え……!? い、遺書!?」
隣でカルテをまとめていた太智が、狂ったような声を上げて封筒を覗き込む。
近くで処方本の整理をしていた舜太も、目を見開いて叫びながら飛んでのしかかってきた。
「嘘やろ?佐野さん!なんでそんなもん引き出しに入ってんの!?」
「えっ、はやちゃんが遺書?なんで?病気?」
「ちょ、30……、悩みがあるなら言って?」
ナースステーション全体が、パニックとパニックで完全に崩壊しかけていた。
「なんで騒がしいの?なんかあった?」
そこへ、奥の診察室から当の本人が呑気に缶コーヒーを片手に戻ってきた。
「はやちゃん、!これ……。 一体どういうこと?」
柔太朗が珍しく取り乱した様子で、手の中の封筒を勇斗に突きつける。
勇斗は一瞬「あ」という顔をしたものの、特に焦る様子もなく、缶コーヒーをちびちび飲みながらごく真っ当な顔で言い放った。
「整理してたら出てきたか。いやさ、万が一のために書いて置いてんだよ」
「万が一って何???」
太智が頭を抱えて叫ぶ。
「何って……人間、いつ自分の意志と関係なくこの世から去るか分かんないだろ?
急な事故かもしれないし、突然の病気かもしれない。小児科にいた時もさ、昨日まで元気に笑ってた子が急変することなんて何度も見てきたんだよ。
…だから、いつ何があっても周りに迷惑かけないように、自分の意思を残しておくのは当然のリスクマネジメントだろ?」
あまりにも堂々と、いたって真面目な顔で「もしもの備え」を語る勇斗。
ナースステーションが一瞬、静まり返った。
「……えっと……はやちゃん?」
舜太がポカンと口を開ける。そこへ、奥から書類を抱えてやってきた仁人が、呆れながら説明する。
「……言いたいことは分かるけど、健康体なドクターがデスクに遺書とか普通にビビるから」
「じんちゃんの言う通りだよ!」
柔太朗も真剣な目で詰め寄る。
「そんなあっさりした顔で『明日死ぬかも』なんて言わないでよ…」
「俺なんか心臓口から出かけて、今パニックで寿命3年縮まったわ!!」
太智が胸を押さえて叫ぶと、舜太もぶんぶんと首を振った。
「俺も!!はやちゃんいなくなったら、誰が頭撫でてくれるん!?」
「えぇ、それはごめん……。なんか誰でもできそうなの混ざってたけど……」
3人から一斉に責め立てられ、佐野は眉を八の字にして気まずそうに頭を掻いた。
「いや、俺はただ、なんかあった時、周りの人達が困らないようにさ。銀行の口座とか、実家の連絡先とか、俺の代わりに患者さんたちをよろしく頼むぞって……」
「頼まれてたまるか」
「いてっ」
仁人がバサッとカルテの束で勇斗の頭を軽く叩いた。
「そんな紙切れ1枚で引き継げるような軽い存在じゃないんだよ、君は」
普段ツンとしている仁人からの、あまりにもストレートで重い言葉。
勇斗は目を見開き、それから照れくさそうに鼻の頭を擦った。
「……仁人、お前……そんなこと思ってくれてたのかよ……」
「な、何か変な勘違いしてない…?大丈夫…?」
若干引いた目で勇斗の事をみる仁人。
「……分かった。じゃあ『遺書』って書くのはやめる」
勇斗はペンを取ると、用紙の頭に書かれた『遺書』という重々しい文字を豪快に二重線で消し、その上に力強い字で『もしもの時の引き継ぎ&みんなへ』と書き直した。
「捨てはしないよ。俺が小児科時代から大事にしてきた備えだし、命を扱う者としての俺なりの責任だから。でも、今日からはこのデスクのファイルに挟んでおくから。
……患者さんのケアのコツも、お前たちへの感謝も、ちゃんと書き足しとくし、」
「……『引き継ぎメモ』、ねぇ」
柔太朗が少し表情を緩め、その紙を見つめる。
「……それなら、まぁ。でも、はやちゃんが元気にここにいる間は、この紙が必要になるような事態を起こさないでね」
「当たり前だろ! 簡単に死んでたまるか!」
勇斗が笑い、その紙をクリアファイルへ大切に仕舞い込んだ。
「じゃあついでに『もし俺になんかあったら、舜太に高級焼肉奢ってやること』って書き足しとくか?」
「はやちゃんそれ最高!! でも生きてるうちに適用してよ!」
「そりゃ当たり前!今週末連れてったるわ!」
「はやちゃんマジ!?神やん!!!」
太智と仁人も呆れつつ、どこか誇らしげにその光景を見守っていた。
コメント
1件
うおおおお~~!!😭✨✨ いやもう冒頭の「遺書」で心臓止まるかと思ったんだけど!? でも中身が「リスクマネジメント」って説明された時の納得感とギャップがすごかった……さすがはやちゃん、医者としてのプロ意識がにじみ出てる…! 仁人くんの「そんな紙切れ1枚で引き継げるような軽い存在じゃないんだよ」ってセリフ、マジでズドンと来た…!普段ツンツンしてる分、重みが半端ないっす…😭💔 最後にタイトル直して焼肉奢る流れで締めるの、はやちゃんらしくて泣ける。みんなの信頼関係がエモすぎて鼻の奥ツンってなったよ…!