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薄暗いライブハウスの楽屋。アンプの低い音と、壁越しのドラムの音がずっと響いていた。
ソファに座りながら、元貴、高野、綾香、若井の4人はだらだらと話していた。
「なんかさぁ」
元貴がギターをいじりながら言う。
「うち、キーボード欲しくない?」
高野が顔を上げる。
「キーボード?」
「うん。なんか…こう…」
元貴は空中で手をふわふわさせた。
「ふわふわしてて、ちょっとチャラい感じの。キーボード弾く人」
若井がすぐに突っ込む。
「ふわふわでチャラいって何だよ」
綾香は笑う。
「元貴の語彙よ」
「いやでもさ、絶対合うと思うんだよね。うちの音に」
元貴はなぜか自信満々だった。
高野は腕を組む。
「まぁ…いたら面白いかもな」
若井は肩をすくめた。
「でもそんな都合いいやついんの?」
元貴は少しニヤッとした。
「いるんだよねぇ」
「え?」
「まぁ、そのうち連れてくる」
それだけ言って、元貴は話を流した。
若井は怪しそうな顔をする。
「絶対変なやつだろ」
綾香がくすっと笑う。
「元貴だしね」
その日はそれで終わった。
――それから数日後。
同じライブハウスの楽屋。
ガチャ、とドアが開く。
「おつかれー」
元貴だった。
そして、その後ろから一人の男が入ってくる。
金髪。
やたらピッチピチに締めたネクタイ。
そして 鯉が登っているデカいプリントのTシャツ。
それを見た瞬間。
若井は顔をしかめた。
「……うげっ」
その男はにこにこしていた。
「どうも〜」
ぺこっと軽く頭を下げる。
「藤澤涼架っていいます」
声はやたら柔らかくて、ふわっとしている。
綾香はすでに笑いをこらえている。
高野は少し驚いた顔。
元貴は普通のテンションで言った。
「この前言ってたキーボードの人」
その瞬間。
若井は元貴の腕をぐっと掴んだ。
「ちょっと来い」
「え?」
そのまま楽屋の隅っこまで引っ張っていく。
藤澤涼架は「?」みたいな顔で見ている。
隅っこで若井が小声で言った。
「……元貴」
「ん?」
「マジで言ってる?」
元貴はきょとんとしている。
若井はちらっと藤澤涼架の方を見る。
金髪。
ピチピチのネクタイ。
鯉のTシャツ。
「いや見た目よ」
若井が小声で続ける。
「クセ強すぎだろ」
元貴は笑いをこらえながら言う。
「大丈夫だって」
「何が大丈夫なんだよ」
「こういう感じの人を求めてたから」
若井はまだ疑っている。
「ほんとかよ」
元貴はニヤッとした。
「あと、めっちゃ面白い」
「バンドに面白さ求めてねぇよ」
そのやり取りを、
藤澤涼架は遠くからにこにこ見ていた。
綾香が小声で高野に言う。
「絶対若井いま説得されてるよね」
高野が笑う。
「たぶんな」
そして数秒後。
若井と元貴が戻ってくる。
若井はまだ少し怪しい顔をしている。
藤澤涼架はぺこっと頭を下げた。
「よろしくお願いします〜」
そのふわっとした空気に、
若井は心の中で思った。
(……ほんとに大丈夫かこのバンド)
でも、この出会いが。
後に続くバンドの始まりだった。