3人を乗せた車が走っていく。車窓に映るのは一面の雪だった。明るい調子の昭和歌謡を、やはり明るい声で大造は歌う。車内には歌だけが響いていた。向日葵モールを通りすぎてそのまま車は進んでいく。いつの間にかかなり時間がたっていたようで、五時をしらせるチャイムがなる。不意に聞こえたその音に僕は驚いてスピーカーを見上げる。その時、キラッと何かが輝いて見えたような気がした。その正体を確かめようと窓に体を寄せるが、建物が遮蔽となって見えない。僕がもどかしい気持ちになっていると車は開けた場所に出た。建物が途切れたおかげで見えたそれは山の中にあった。雪を被って白く染まった山の中に、黄色い光が煌めいて見えた。僕は春華の言葉を思い出す。
「黄金山の方に何かあるの?」
きっと春華が見た物はこれだったのだろう。僕の中で点と点が結びつく。あそこに行かなければならない、そんな気がした。僕は運転席に座り、熱唱している大造の肩を掴むと大きく前後に揺らす。驚いた大造が路肩に車を止めると僕の方に急いで振り返る。
「なんだ急に!危ねぇだろう!」
大造の怒声に僕は一瞬ひるむが、負けじと声を張り上げる。
「黄金山に向かってください!お願いです!」
僕の只事ではない様子に大造は無言で頷き、車を黄金山に向かって方向転換する。走り出した車は黄金山へ向かう荒い山道を駆ける。
「ちょっと、何で急に黄金山になんて行くの?」
珍しい大きな声で春華は言う。興奮した様子の春華を宥めるように僕は答える。
「きっとあの山にこの雪の答えがあるんだ。」
それを聞いた春華は黙り込む。僕の答えを聞いた春華は何も言えなくなってしまったようだった。車内に沈黙が流れていて、ただ時間だけがすぎる。
「これ以上は俺の車では行けないな。」
そう言うと大造は車を停めた。ここまで来たら充分だ。僕は大造にお礼を言うと、春華の手を取り木々の向こうへ走り出す。
「気をつけろよ、2人とも。ここで待ってるからな。怪我、しないようにな。」
背後から大造の大きな声が聞こえてくる。本当にありがとう。僕は心の中で何度もお礼を言った。しばらく歩くと、この足場の悪い山道にも慣れてきて、会話をする余裕が生まれてくる。
「なんで雪の答えがここにあると思うの?」
春華は突然、ぽつりと呟いた。僕たちは山を登りながら話す。
「この町が黄金町って呼ばれるようになった経緯を春華は知ってる?」
春華は何で急にそんな事を?とでも言いたげな顔をした後、首を横に振る。その様子を見た僕はポツポツとこの町の歴史を語り出す。
「ここは昔、畑しかないような田舎だったんだけど、他の場所にはない一つの特徴があったんだ。」
僕は息を吸い込む。呼吸を整えると、続きを口にする。
「向日葵だよ。向日葵がたくさん咲いていて、それはそれは美しい光景だったんだって。」
辺りには雪を踏みしめる足音だけが響いている。春華は僕の言葉に聞き入っているようで、何もしゃべらない。
「向日葵が黄金に輝いているから黄金町。そして、今、僕らが登ってきたここが……。」
開けた場所に出る。振り向いた僕と、目を見開いた春華と目が合う。
「そしてここがその名の由来となった、向日葵が咲いている場所、黄金山だよ。」
雪の中に、キラリと黄色の輝きが見える。春華がフラフラと、その輝きに吸い寄せられるように近づいて来る。払い落とした雪の中から、一輪の大きな向日葵がその太陽のような煌めきを放つ。それに呼応するように一輪、また一輪と黄色い光が開花する。いつの間にか、雪が止んでいた。
コメント
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最終話楽しみです!待ってます!
今回は短めです! 次回、最終話の予定なので是非とも最後まで夏輝と春華の物語にお付き合いください‼︎