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雪華

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雪華

10 - 第10話 黄金山

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2024年05月08日

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3人を乗せた車が走っていく。車窓に映るのは一面の雪だった。明るい調子の昭和歌謡を、やはり明るい声で大造は歌う。車内には歌だけが響いていた。向日葵モールを通りすぎてそのまま車は進んでいく。いつの間にかかなり時間がたっていたようで、五時をしらせるチャイムがなる。不意に聞こえたその音に僕は驚いてスピーカーを見上げる。その時、キラッと何かが輝いて見えたような気がした。その正体を確かめようと窓に体を寄せるが、建物が遮蔽となって見えない。僕がもどかしい気持ちになっていると車は開けた場所に出た。建物が途切れたおかげで見えたそれは山の中にあった。雪を被って白く染まった山の中に、黄色い光が煌めいて見えた。僕は春華の言葉を思い出す。

「黄金山の方に何かあるの?」

きっと春華が見た物はこれだったのだろう。僕の中で点と点が結びつく。あそこに行かなければならない、そんな気がした。僕は運転席に座り、熱唱している大造の肩を掴むと大きく前後に揺らす。驚いた大造が路肩に車を止めると僕の方に急いで振り返る。

「なんだ急に!危ねぇだろう!」

大造の怒声に僕は一瞬ひるむが、負けじと声を張り上げる。

「黄金山に向かってください!お願いです!」

僕の只事ではない様子に大造は無言で頷き、車を黄金山に向かって方向転換する。走り出した車は黄金山へ向かう荒い山道を駆ける。

「ちょっと、何で急に黄金山になんて行くの?」

珍しい大きな声で春華は言う。興奮した様子の春華を宥めるように僕は答える。

「きっとあの山にこの雪の答えがあるんだ。」

それを聞いた春華は黙り込む。僕の答えを聞いた春華は何も言えなくなってしまったようだった。車内に沈黙が流れていて、ただ時間だけがすぎる。

「これ以上は俺の車では行けないな。」

そう言うと大造は車を停めた。ここまで来たら充分だ。僕は大造にお礼を言うと、春華の手を取り木々の向こうへ走り出す。

「気をつけろよ、2人とも。ここで待ってるからな。怪我、しないようにな。」

背後から大造の大きな声が聞こえてくる。本当にありがとう。僕は心の中で何度もお礼を言った。しばらく歩くと、この足場の悪い山道にも慣れてきて、会話をする余裕が生まれてくる。

「なんで雪の答えがここにあると思うの?」

春華は突然、ぽつりと呟いた。僕たちは山を登りながら話す。

「この町が黄金町って呼ばれるようになった経緯を春華は知ってる?」

春華は何で急にそんな事を?とでも言いたげな顔をした後、首を横に振る。その様子を見た僕はポツポツとこの町の歴史を語り出す。

「ここは昔、畑しかないような田舎だったんだけど、他の場所にはない一つの特徴があったんだ。」

僕は息を吸い込む。呼吸を整えると、続きを口にする。

「向日葵だよ。向日葵がたくさん咲いていて、それはそれは美しい光景だったんだって。」

辺りには雪を踏みしめる足音だけが響いている。春華は僕の言葉に聞き入っているようで、何もしゃべらない。

「向日葵が黄金に輝いているから黄金町。そして、今、僕らが登ってきたここが……。」

開けた場所に出る。振り向いた僕と、目を見開いた春華と目が合う。

「そしてここがその名の由来となった、向日葵が咲いている場所、黄金山だよ。」

雪の中に、キラリと黄色の輝きが見える。春華がフラフラと、その輝きに吸い寄せられるように近づいて来る。払い落とした雪の中から、一輪の大きな向日葵がその太陽のような煌めきを放つ。それに呼応するように一輪、また一輪と黄色い光が開花する。いつの間にか、雪が止んでいた。

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