テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
#魔道具職人
こはる
338
742
#異世界転生
しめさば
6,417
コメント
1件
こよりさん、すごくいい人でしたね。ゴブスケの門番就任とか、もふたの撫で待ち大活躍とか、もう可愛いが渋滞してて読んでてずっとほっこりしました。「かわいいだけで近づかない」って距離感を大事にしてるところが、私はいちばん好きです。危険なものも怖いだけで終わらせない、この村の優しい空気、続きも楽しみです🌷
第15話: 【ペット】ゴブリンを飼ってみた。【異世界生物】
村の朝に、小さな寝息が混ざっていた。
モルモット達が、ダンボールの巣箱で丸くなっている。
ユウマはその前に座り、水皿を一つずつ確認していた。
ハクトは少し離れた場所で、呼吸の速さを見ている。
ひなたは子ども達に、急に触らないことを教えていた。
「かわいくても、びっくりさせない」
「うん」
「手を出す前に、相手を見る」
「うん」
「逃げたら追いかけない」
「うん」
桶がそっと言った。
「待ててえらい」
子ども達が笑った。
ナギは広場の端で、その光景を見ていた。
昨日の騒動の後、村は少し慎重になっている。
怖いものを怖いまま終わらせない。
でも、かわいいからといって油断もしない。
そんな新しい緊張が、村の中にあった。
スマホが震えた。
転生タイムライン。
ペット系配信者
投稿傾向
ペット系配信
魔物なつき
愛情過多
ナギは画面を見て、目を細めた。
「愛情過多……」
ロッカが横からのぞき込む。
「危険な文字だな」
「危険かな」
「魔物がなつくなら危険だ」
「たしかに」
リクが洗面器を抱えて近づく。
「なつくなら平和そうっすけど」
ハクトが静かに言った。
「なつくことと、安全であることは別です」
ミレナがすぐ書く。
「なつくことと、安全は別」
マヒロが少し笑う。
「今日の合言葉になりそう」
レンはモルモット達を見ていた。
「でも、ちゃんと仲良くなれるなら、いいですね」
ユウマは小さくうなずいた。
「無理やりじゃないなら」
その時、村の外から声が聞こえた。
悲鳴ではなかった。
「かわいいいいいい!」
全員が止まった。
ロッカが短剣に手をかける。
「何だ」
ナギは深く息を吐いた。
「たぶん、来た」
森のほうから、葉を踏む音が近づいてくる。
ばさばさ。
どたどた。
きゅる。
ぐるる。
ぺたぺた。
音が多い。
木々の間から、ひとりの女性が現れた。
ゆるく結んだ茶色の髪。
黄色の上着。
肩には小さな布袋。
手には小さなブラシ。
その後ろに、魔物がいた。
小さな角のあるトカゲ。
丸い毛玉のような獣。
足の長い虫に似た魔物。
そして、よれた布を巻いたゴブリンまで。
全員、女性の後ろをついて歩いている。
女性は振り返りながら、魔物達に声をかけていた。
「待ってね。順番ね。押さないよ。ああ、えらい。歩けてえらい。きみも来たの? かわいいねえ」
ゴブリンが照れたように顔を伏せた。
ナギは思わずつぶやいた。
「ゴブリンまでメロメロだ」
ロッカは短剣を抜いた。
「近づけるな」
女性はロッカを見て、すぐ両手を上げた。
「待ってください。この子達、今は攻撃しません」
「今は、だろ」
「はい。だから距離を取ります」
ロッカの目が少し変わった。
女性はすぐに魔物達へ向いた。
「ここで止まろうね。村の人がびっくりしてるからね」
魔物達が止まった。
本当に止まった。
ゴブリンまで、ぴたりと止まった。
ミレナの眼鏡が少しずれた。
「止まった……」
ハクトが静かに見ている。
「命令ではない。反応を見て従っている」
レンが教官車を抱えながら言った。
「昨日とは全然違う」
ユウマはうつむいた。
「うん」
女性はナギ達へ深く頭を下げた。
「猫撫こよりです。ペット系配信をしていました。犬、猫、小鳥、小動物、爬虫類、虫、保護された子、怖がりな子、怒りっぽい子、色々見てきました」
ナギはうなずいた。
「久瀬ナギです。大喜利で何とかやってます」
こよりは目を丸くした。
「大喜利で?」
「説明が長くなるので」
「分かりました。後で聞きます」
ロッカが言った。
「魔物を村へ入れるな」
こよりはすぐうなずく。
「はい。まず距離。次に観察。触るのは最後です」
ハクトが少しだけうなずいた。
「分かっている人です」
ロッカはまだ警戒している。
「それでも危険だ」
こよりは静かに答えた。
「危険です。だから、かわいいだけで近づきません」
ナギのスマホが震えた。
能力名
なつきライブ配信
効果
生き物や魔物の警戒心を下げ、安心できる距離を作る。
補正
声のやわらかさ。
相手の目線に合わせること。
触らない勇気。
過去動画の信頼度。
派生
メロメロ反応。
魔物なつき。
危険度ゆるやか低下。
注意
なついた相手が増えすぎると、移動が困難になります。
ナギは最後を見て、こよりの後ろを見た。
魔物達が増えていた。
茂みの奥から、さらに数匹が顔を出している。
ナギは言った。
「もう移動困難になりかけてますね」
こよりは困ったように笑った。
「はい。森で声をかけたら、こうなりました」
ロッカが頭を押さえた。
「声をかけるな」
こよりは真面目に言った。
「怖がっていたので」
ひなたが小さくうなずく。
「怖がってる子、放っておけないよね」
ロッカは言葉に詰まった。
こよりは魔物達のほうへしゃがんだ。
自分を小さく見せるように。
手は出さず、目を合わせすぎず、声を低く。
「ここは人がいる場所。走らない。噛まない。取らない。できる?」
小さなトカゲ魔物が、こくりと頭を下げた。
毛玉の魔物は丸まった。
ゴブリンは両手を膝に置いて、妙にきちんと座った。
リクが小声で言う。
「ゴブリン、礼儀正しいっす」
マヒロが目を輝かせる。
「ちょっとかわいい」
ロッカが鋭く言う。
「油断するな」
マヒロはすぐ口を閉じた。
こよりはロッカに向き直った。
「門の外に待機場所を作ってもらえませんか。村の中へはまだ入れません」
カイがすぐに木槌を振った。
こん。
村の外に、小さな囲いができる。
高すぎない柵。
逃げ道もある。
水皿を置ける場所。
日差しを避けられる屋根。
ツクルが注意札を作る。
急に触らない。
食べ物を勝手にあげない。
こよりに聞く。
魔物もびっくりする。
ミチルがかごを開く。
「ぱんぱかぱーん」
小さな水皿、ブラシ、手拭き布、仕切りひもが出てくる。
ハクトが確認する。
「食べ物は種ごとに分けたほうがいいです」
こよりはうなずく。
「はい。何を食べるか分からない子には、最初に色々あげない」
ダイチが川辺から戻る。
「水場へ自由に行かせるな。流れに落ちる」
こよりはまたうなずく。
「分かりました」
ロッカは少しだけ短剣を下げた。
「話は通じるんだな」
ナギは小さく笑った。
「人にも魔物にも通じてる」
しかし、問題はすぐ起きた。
ゴブリンが、こよりから離れようとしなかった。
こよりが一歩動く。
ゴブリンも一歩動く。
こよりが止まる。
ゴブリンも止まる。
こよりが水皿を取る。
ゴブリンも何か手伝おうとして、空の皿を持ち上げる。
こよりは困った顔で笑う。
「お手伝いしたいの?」
ゴブリンは大きくうなずく。
ロッカが言った。
「やめさせろ」
こよりは首を振る。
「役割があると落ち着く子かもしれません」
ハクトが観察する。
「敵意は低い。こよりさんへの注目が強い。興奮しすぎると危険かもしれません」
ミレナが書く。
「ゴブリン、役割希望」
マヒロが笑いをこらえる。
「かわいい」
ロッカが睨む。
マヒロはまた口を閉じた。
ナギはゴブリンを見た。
本来なら、村の人々が怖がる相手。
でも今は、皿を持ってそわそわしている。
危険ではある。
でも、それだけではない。
ナギは息を吸った。
「お題」
ロッカが横目で見る。
「何をする気だ」
「安全な役割を作る」
ナギはゴブリンを見て言った。
「メロメロになったゴブリンが、村で一番向いていた仕事とは?」
少し考えて、答える。
「こよりの許可が出るまで、絶対に開けない門番!」
ゴブリンの前に、小さな札が現れた。
見習い門番
こより確認係
ゴブリンの背筋が、びしっと伸びた。
こよりが目を丸くする。
「え、できる?」
ゴブリンは力強くうなずいた。
ロッカが近づく。
「門番なら、勝手に村へ入れるな」
ゴブリンはさらに強くうなずく。
ロッカは少し考えた。
「こよりの確認なしに、魔物を通すな」
ゴブリンは真剣な顔でうなずく。
ミレナが書く。
「ゴブリン、見習い門番に就任」
桶が遠くから言った。
「就任してえらい!」
ゴブリンは照れた。
マヒロがついに笑った。
「メロメロなのに真面目!」
ロッカは口元を押さえた。
「笑ってない」
ナギは言った。
「今、少し笑った」
「笑ってない」
桶が言った。
「笑いそうでえらい!」
ロッカは桶を見ないふりをした。
昼前には、村の外が小さな魔物待機場になっていた。
こよりは一匹ずつ名前をつけていく。
トゲのあるトカゲ魔物は、トゲまる。
毛玉の魔物は、もふた。
長い足の虫魔物は、あしなが。
ゴブリンは、ゴブすけ。
ロッカが言った。
「その名前でいいのか」
こよりは真剣に答える。
「呼びやすさは大事です」
ハクトもうなずく。
「識別できます」
ミレナが書いた。
「ゴブすけ」
ゴブリンはその名前を呼ばれるたびに、うれしそうに肩を揺らした。
レンは教官車をゴブすけの前に置いた。
「この子が危険を知らせます」
教官車が、ぴ、と鳴る。
ゴブすけは姿勢を正した。
こよりは笑った。
「仲良くしてね」
教官車がぴっと鳴り、ゴブすけが小さく頭を下げた。
ナギはそれを見ていた。
なんだ、この光景。
異世界に来てから、変なことばかりだった。
でも、ゴブリンと教官車が門の前で挨拶している場面は、かなり上位に入る。
リクが小さく音を鳴らす。
ぽん。
魔物達がびくっとした。
こよりがすぐ手を上げる。
「急な音、苦手な子もいます」
リクはすぐ止めた。
「すみませんっす」
ソウマも録音機を下げる。
「音量、下げる」
こよりはうなずく。
「ありがとう」
リクは少し考え、洗面器ではなく指先で木箱を軽く叩いた。
とん。
魔物達は逃げなかった。
こよりが笑う。
「そのくらいなら大丈夫」
リクの顔が明るくなる。
「優しい音っすね」
ソウマが小さく録った。
「優しい音」
その時、森の奥から荒い鳴き声が聞こえた。
待機場の魔物達が一斉に身を縮める。
ゴブすけも顔をこわばらせた。
ロッカが短剣を抜く。
「来る」
ハクトが地面を見る。
「複数。さっきの子達を追ってきた群れかもしれません」
こよりの顔が変わる。
「この子達、逃げてきたのかも」
森の茂みが揺れる。
現れたのは、同じゴブリンの群れだった。
ただし、ゴブすけより体が大きい。
手には木の棒。
目は鋭く、明らかに敵意がある。
ゴブすけが震えた。
こよりがそっと前へ出る。
ロッカが止める。
「下がれ」
こよりは首を振る。
「最初に話します」
「危険だ」
「分かってます」
ゴブリンの群れが近づく。
リクが音を構える。
マヒロがマイクを握る。
カイが壁を用意する。
ミチルがかごを開く。
ツクルが注意札を出す。
レンが玩具を構える。
ハクトが位置を見る。
ダイチが川方向を塞ぐ。
ひなたは子ども達を見えない場所へ誘導する。
ソウマは音を聞く。
ユウマはモルモット達の巣箱を守る。
リョウは銛を背負ったまま、ふざけずに立った。
こよりはしゃがんだ。
相手を見下ろさない。
手を出さない。
逃げ道をふさがない。
「こんにちは。ここは村です。怖いなら、止まってください」
大きなゴブリンが唸った。
他のゴブリン達も木の棒を振る。
ロッカが一歩前に出ようとした。
こよりが片手で止める。
「怒ってる。けど、たぶん困ってる」
ハクトがうなずいた。
「腹が減っている。あと、仲間を取り返しに来た可能性」
ゴブすけが、こよりの後ろで震えている。
こよりは後ろを見た。
「戻りたい?」
ゴブすけは首を横に振った。
「ここにいたい?」
ゴブすけはうなずいた。
こよりは前を向く。
「この子は、ここにいたいみたいです」
大きなゴブリンが怒鳴った。
言葉は分からない。
でも、怒りは分かる。
ナギはスマホを握った。
お題。
怒ったゴブリンの群れが、話を聞く気になった理由とは。
ナギは叫んだ。
「お題! 怒って来たゴブリン達が、急に交渉の場に座った理由とは!」
ゴブリン達がこちらを見る。
ナギは答えた。
「話し合い用の座布団が、なぜか全員分ぴったり用意されていた!」
地面が淡く光る。
ゴブリン達の前に、丸い敷物が並んだ。
一枚。
二枚。
三枚。
ゴブリン達は困惑した。
こよりはすぐに言った。
「座って話そう。怒っててもいいから、座ろう」
大きなゴブリンは唸った。
でも、敷物を見た。
全員分ある。
妙にぴったり。
一匹が座った。
次の一匹も座った。
最後に、大きなゴブリンもどすんと座った。
ロッカが小声で言う。
「座った……」
ミレナが震えながら書く。
「ゴブリン交渉会、開始」
桶が遠くから言った。
「座れてえらい!」
こよりは、大きなゴブリンと同じ高さに座った。
「この子を連れて帰りたい?」
大きなゴブリンが唸る。
ゴブすけはこよりの後ろで震える。
ハクトが静かに見る。
「群れの力関係がある。戻すだけでは危険かもしれません」
こよりはうなずく。
「じゃあ、選べる形にしないと」
ナギはゴブすけを見た。
見習い門番。
こより確認係。
まだ震えている。
でも、逃げてはいない。
ナギはもう一度お題を出した。
「群れを離れたゴブリンが、新しい場所で認められた理由とは!」
答える。
「門番として、誰よりも確認が丁寧だった!」
ゴブすけの札が光った。
見習い門番
確認丁寧
ゴブすけは、はっと顔を上げた。
教官車がぴっと鳴る。
安全確認。
ゴブすけは、こよりの前に出た。
震えながら、門を指差す。
自分の札を指差す。
こよりを指差す。
そして、村を指差す。
言葉はない。
でも、言いたいことは少し伝わった。
ここにいる。
役割がある。
勝手には入れない。
守る。
大きなゴブリンは、ゴブすけを見た。
怒りが少し弱まる。
こよりはそっと言った。
「この子は、ここで仕事をします。でも、森のあなた達も困ってるなら、食べ物を盗らない方法を一緒に考えます」
ミチルがすぐ反応する。
「森用収納セット、まだ作れます」
ハクトが言う。
「食べられる実と、だめな実を分ける必要があります」
ダイチも言う。
「川辺に来るなら、決まりを守れ」
ツクルが紙芝居を出す。
マヒロが読み上げる。
「村の物を勝手に取らない。困ったら門番に言う。森で集めた物は自分達の箱へ。水場は順番。棒を振り回さない」
ゴブリン達は絵を見た。
絵なら伝わる。
大きなゴブリンが、少しだけ棒を下ろした。
こよりは笑った。
「ありがとう」
その瞬間だった。
待機場の奥から、小さな魔物が飛び出した。
毛玉のもふた。
興奮して、ゴブリン達の方へ転がっていく。
「もふた!」
こよりが叫ぶ。
大きなゴブリンが反射的に棒を上げた。
ロッカが走る。
でも距離がある。
ナギは叫んだ。
「お題! 棒を振り上げたゴブリンが、攻撃をやめた理由とは!」
答える。
「目の前の毛玉が、あまりにも撫で待ちだった!」
もふたが、大きなゴブリンの前でころんと転がった。
腹を見せる。
丸くなる。
また転がる。
大きなゴブリンの棒が止まった。
顔がゆがむ。
怒りではない。
困惑。
そして、少しだけメロメロ。
こよりが小さく言った。
「そっとね」
大きなゴブリンは、棒を下ろした。
ごつい指で、もふたを少しだけ撫でた。
もふたが、ぷるっと鳴いた。
大きなゴブリンの顔が、完全に崩れた。
マヒロが小声で言った。
「メロメロだ」
ロッカが小さく言う。
「本当にメロメロになるのか」
桶が言った。
「撫でられてえらい!」
ゴブリン達の緊張が一気にゆるんだ。
それを見て、こよりがほっと息を吐いた。
交渉は、そこから早かった。
森のゴブリン達には、村外の交換場所が作られた。
森の実や薬草を持ってくる。
村は使い方を教える。
危険な物はハクトが確認する。
ゴブすけが確認係になる。
こよりが距離を見守る。
ロッカが安全を確認する。
ミチルが容器を出す。
ツクルが紙芝居で約束を描く。
カイが小さな交換台を作る。
ゴブリン達は、何度ももふたを見た。
もふたは、なぜか堂々としていた。
ミレナは帳面に書く。
「毛玉魔物、交渉補助に成功」
ナギは笑った。
「書き方がすごい」
リクが小さく音を出す。
ぽん。
ゴブリン達がびくっとした。
リクは慌てて止めた。
こよりが言う。
「少しずつ慣れればいいよ」
ソウマが録音機を下げる。
「音も距離」
ハクトがうなずく。
「いい言葉です」
ミレナがまた書いた。
「音も距離」
リクは少し照れた。
夕方。
村の外には、小さな魔物待機場と、森の交換台ができた。
ゴブすけは門の横に立っている。
教官車と並んで。
札を胸に。
こよりが近くにいる時だけ、少し誇らしげになる。
大きなゴブリン達は、森へ帰っていった。
最後に、もふたをもう一度撫でてから。
ロッカはその背中を見ていた。
「完全に信じたわけじゃない」
こよりはうなずいた。
「うん。それでいいと思う」
「また来るかもしれない」
「来ると思う」
「危険もある」
「ある」
ロッカはこよりを見た。
「それでも続けるのか」
こよりは少しだけ考えた。
「怖がらせないで済むなら、続けたい。でも、危ない時は止めてほしい」
ロッカは短剣の柄を握った。
「止める」
「ありがとう」
ナギはその横で笑った。
「ロッカ、こよりさんには素直だな」
「違う」
桶が遠くから言った。
「素直でえらい!」
ロッカは黙った。
夜。
村の外の待機場では、魔物達が丸くなっていた。
トゲまる。
もふた。
あしなが。
ゴブすけ。
こよりは一匹ずつ距離を見て、声をかけていた。
「今日はここまで」
「また明日」
「無理に近づかない」
「逃げてもいい」
その言葉が、ナギには少し不思議に聞こえた。
なつかせる人なのに、近づきすぎない。
かわいいと言う人なのに、触るのを急がない。
メロメロにしてしまう人なのに、相手の逃げ道を残す。
だから、魔物達はこよりのそばにいるのかもしれなかった。
スマホが震えた。
転生タイムライン。
ペット系配信者
映像には、こよりが森から魔物達を連れてくる場面。
ゴブすけが門番になる場面。
ゴブリン達が敷物に座る場面。
もふたを撫でてメロメロになる場面。
村の外に待機場と交換台ができる場面が映っていた。
コメント欄が流れる。
猫撫こよりだ!
ゴブリンまでメロメロ。
でも距離を大事にしてるの好き。
かわいいだけで近づかないの大事。
ゴブすけ門番かわいい。
もふた強すぎ。
ナギの撫で待ち大喜利、平和でよかった。
桶も褒めてる。
こよりは画面を見た。
コメントが続く。
帰ってきたらまた配信して。
無理に触らないって教えてくれてありがとう。
ゴブすけ元気でいて。
こよりさんも気をつけて。
こよりはスマホに向かって、小さく手を振った。
「見てくれてありがとう。こっちでも、ゆっくり仲良くなります」
返信はできない。
でも、コメント欄はやさしく流れ続けた。
ナギはスマホをしまった。
ロッカが隣に立つ。
「魔物と暮らす日が来るとはな」
「まだ暮らすってほどじゃないけど」
「門番になってる」
「だな」
「ゴブすけ」
ロッカがその名前を口にした瞬間、ナギは笑いそうになった。
「気に入ってる?」
「識別しやすいだけだ」
桶が言った。
「名前を覚えてえらい!」
ロッカは小さくため息をついた。
遠くで、ゴブすけが胸の札を押さえて立っている。
その横で教官車がぴっと鳴る。
もふたが丸く転がる。
こよりが笑う。
村はまた、変な方向へ広がった。
転生タイムラインは、まだ止まらない。
スマホに新しい通知が出る。
次の転生者を準備中。
投稿傾向
ゲーム実況
ボス攻略
初見反応
ナギは画面を見て、少しだけ眉を上げた。
「次はゲーム実況者か」
ロッカが言う。
「攻略とは何だ」
ナギは村を見た。
「たぶん、次の危険を見抜く人」
こよりが魔物達を見ながら言った。
「それ、助かるかも」
ハクトが静かにうなずく。
「相手を知ることは大事です」
ミレナが帳面を開く。
「また情報量が増えそうね」
桶が言った。
「増えてえらい!」
ナギは笑った。
夜の村に、魔物達の寝息が混ざっている。
怖いものが、少しだけ名前を持った夜だった。
ナギは次のお題を考えながら、門の外で立つゴブすけを見た。
ゴブすけは、こよりの確認なしに誰も通さなかった。
とても真面目な見習い門番だった。