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「次は西天狗ですよ」
目標は、隣にそびえている白くなだらかな三角の山。
先行している登山者は、僕らと同じ黒百合ヒュッテから出たのだろうか。
「こういうところで大丈夫な道を通らないと、雪崩を引き起こしたりするんですよ。雪が降っていたら、下の地形がどんな感じかもわかりませんしね」
そんな怖いことを聞きつつも、順調に歩く。
時々、アイゼンにくっつく雪をピッケルで落としつつ。
「左側に見えるのが、八ヶ岳の残り部分だよね」
「あっちが南八ヶ岳。手前から硫黄岳、横岳、赤岳、阿弥陀岳かな。横岳というのは、あのギザギザ部分のことを言います。横岳はちょっと危ない場所が多いですけれど、硫黄岳や赤岳は雪が無い季節なら行けますよ」
「一番高いのはどれなのだ?」
「八ヶ岳では赤岳だな」
そんな話をしながら、白い雪の中に付けられた道を歩いて行く。
30分くらい歩いただろうか。
一番高い場所に着いた。
人が歩いて雪を踏み固めた跡の中に、棒状の山名標が立っているだけ。
でも360度、周り全部が見渡せる。
「お疲れ様でした」
先生がそう言って紅茶を出した。
そして1年生は全員、周りの風景に見とれている。
「周り全部、山が見えるのだ」
「八ヶ岳の向こう側が、さっき以上によくわかる」
「あのとんがったのが赤岳ですね。八ヶ岳で一番高い山。右のごついのが阿弥陀岳。夏なら、両方合わせて1泊2日で簡単に登れますよ」
「あっちは中央アルプスかな」
「多分、八ヶ岳の他の山が邪魔して、中央アルプスは見えないと思います。御嶽山あたりでしょうかね、あちらは」
「槍ヶ岳は形でわかるよな、独特で」
もちろん見えるのは、山だけではない。
こっち側は雲海が無くて、下までずっと見える感じだ。
残念ながら、山が邪魔して町までは見えないけれど。
未亜さんが、あちこちの方向を撮影しては嘆いている。
「この雄大な感じが、まったく写らないのですよ」
「来た人しかわからない風景もある。それでいいだろう」
そんなことを言いながら、風景を堪能。
「さあ、残念ですけれど、そろそろ戻りますよ」
「仕方ないのだ。寒くなってきたのだ」
名残惜しいけれど、引き返す。
東天狗に登り返すところから分岐。
頂上を通らないで、ぐるっと回るルートを選択。
更に途中の分岐を、来た道と違う左側へ。
1時間も歩かないうちに、何か見覚えのある場所に出た。
「ここって、夕日を見たところだよね」
「正解です」
もう、すぐ下に小屋が見えている。