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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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その頃、都大路を行き交う人々は、再び、驚きざわめきあった。


男二人を乗せた、牛が全速力で、駆けている。


モォーモォー鳴いて牛は、前からやって来る者達と、ぶつからないように危険回避しているように見えた。


「よし、髭モジャよ、子細は、よくわからぬが、大方の事はわかった!」


「なんじゃそりゃ、崇高《むねたか》よ、分かったのか、分からぬのか」


「牛に、股がっておるのじゃ、振り落とされぬかと、心配で、主の、話しも耳に入らぬわっ!だが、あの、新《あらた》の名前が、挙がったとなると、これは、たしかに、一大事!」


検非違使、崇高《むねたか》は、うんと、大きく頷き、髭モジャに、しがみついた。


「おわっ、崇高、お前の体に押し潰されそうじゃ!」


「仕方あるまいて!主は、牛の首に捕まっておれるが、我は、主、髭モジャを、掴むしかないのだからの!」


あー、そうじゃのぉ、すまんすまん、と、髭モジャは、謝りつつも、一大事とは、どうゆうことかと、問いただした。


「つまり、息子の、八原《やはら》が、小悪党と、組んでいたのだぞ?その、親なら、大悪党と、組むだろう」


「あー、たしかに、新は、若い時から、手を焼いた。なんとか、落ち着いたかと、思えば、やはり……ん?!いかんぞ!女童児が、新と対決しておるのじゃ!こりゃー、危なすぎるぞ!!」


「髭モジャよ!まずすぎる!牛、走れっ!!」


答えるように、牛の若は、モォー、と、鳴くと、更に、速度をあげた。


そして、その、新と対決する紗奈は……。


「へえ、こんなところに。知らなかったなぁ。こりゃー、気がつかねぇーや」


目的の、使われていない塗篭《ぬりごめ》の前に来て、新が言った何気ない言葉に、違和感を抱いていた。


「あー、今は、使われていないというか、いっぱいになったからって、新しく塗篭を造って使ってるらしいの」


ふうーん、さすがだねぇ、大納言様の御屋敷は、と、感心しつつ、新は、使わなくなった事から、たて付けの悪くなっている開き戸を難なく開けた。


「新、すごいね!簡単に、開けちゃうなんて!」


「おお、庶民を、馬鹿にすんなよぉ、立て付けの悪さには、慣れっこよ!」


はははっと、笑っているが、紗奈には、どうしても、素直に受け止める事ができなかった。


「……で?こりゃ、どういうことだ?」


戸口に立つ、新は、紗奈を見た。


「えーとー、それは、鍾馗《しょうき》が、もう、荷物を運びだしちゃたとか?」


塗篭《ぬりごめ》は、がらんとしていた。納まっているはずの、荷物は、何一つなかった。


新しい塗篭へ、貴重な物は移し、さほどたいした値打ちのない物は、処分したり、下げ渡したりと、とにかく、とっくの昔に、ここは、空き房《へや》に、なっていた。


紗奈が、女童児として、仕えていた頃には、すでに空いており、そして、閉じ込め房《へや》として、使われていたのだ。


「あ、上野様!荷物はどちらに?」


先に来ていた鍾馗が、紗奈に、声をかけてきた。


「おー、そーそー、荷物は、どちらでしょうか?」


新も、しらじらしく言うと、


「おい、犬!何、たくらんでんだ!正直に言ったら、干魚やるぞ?」


何故か、タマを手懐けようとした。


「え?!タマ、知りませんよ!」


「おっかしいなぁ、タマ、お前ほどの、犬なら、知ってると思ったんだがなぁー」


と、新は、タマへ手招きしている。


「鍾馗!新を、捕まえてっ!」


紗奈が、叫んだ。


タマなら、干魚欲しさに、いや、新の、かまかけに、引っ掛かってしまうだろう。ならば、先に!


「んな、ことだろうと、思っていたわっ!!」


言うと、同時に、新は、鍾馗の、みぞおちへ蹴りを入れた。


不意打ちされた鍾馗は、うっと、呻くと、そのまま崩れ混んでしまう。


「えっ!鍾馗!」


「ほんとだ、橘様の言う通り、鍾馗様は、肝心な時に、役に立たないんだ」


タマが、呑気に言っている。


「犬よ、お前、喋り過ぎなんだよっ!」


有無を言わさず、新は、タマも、蹴り飛ばす。


ぎゃん!と、タマの鳴き声が響いた後、柱に、ゴンと、打ち付けられる音がして、タマも、床にのびてしまった。


「えー!!タマ!!うそっ!!」


「うそじゃねぇーよ、紗奈、お前が、こそこそ動くから、仲間が、やられちまったんだろ?」


ニタリと、笑う新の顔が、紗奈へ迫って来た。

羽林家(うりんけ)の姫君~謎解き時々恋の話~

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