TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

シェアするシェアする
報告する

「〝恋人役〟を引き受けるとしても、メリットがないように思えます」


もうこれ以上傷付きたくない。


昭人にフラれた傷だって癒えていないのに、目の前にエサをチラつかされたからって、簡単に飛びついてさらに傷付いていたら世話がない。


疑う目を向けたからか、尊さんは微笑んでメリットを提示した。


「彼女でいる間は本気で大切にする。プライベートではお前を優先するし、優しくする。贈り物もするし、デートでもベッドでも満足させる。あとから返せなんてケチ臭い事も言わない」


「~~~~だから。それがデメリットなんです」


私は荒々しく溜め息をつく。


そのとき前菜が運ばれ、私は続く言葉を止めて料理を見る。


前菜は綺麗な盛り合わせになっていて、せっかくだから写真を撮った。


「デメリットとは? 話し合って解決していこう」


尊さんは私が感情的になってもまったく動じず、余計に自分の子供っぽさを痛感させられる。


「ズブズブ嵌まって取り返しがつかなくなったら、救いようがないじゃないですか。……酔っていたとはいえ、流されて上司に抱かれるぐらいには傷付いています。あなたと付き合って〝恋人役〟が終わったら関係が終了する? その時に本気で好きになっていたら、さらに傷付くじゃないですか。それが嫌なんです」


そこまで言い、私はカプレーゼのモッツァレラチーズとトマトをグサッとフォークで刺し、口に入れる。


「俺の事を好きになりそう?」


尊さんは綺麗なカトラリー使いで食事をしながら、魅力的に笑う。


本当にヤメテクダサイ……。


「あの、分かってやってますよね?」


「何が?」


彼は生ハムを口に入れて目を瞬かせる。


「~~~~、自分がハイスペイケメンで、ちょっとやり方を考えたら女なんて簡単に落ちるの、分かってますよね? って事です」


褒め言葉ともとれる事を言うと、彼はしたり顔で笑った。


「自惚れは危険だ。だが賢い奴は自分の魅力を理解した上で、十分に活用するものだ」


……あぁ、もう……。


この男は本当に危険だ。


分かっているのに、私は彼から逃げられずにいる。


その気になれば〝なかった事〟にして、「さようなら」を言って会社では今まで通り過ごせばいい。


なのに私は彼との今後を夢見て、グダグダ言いながらこの場に留まっている。


子供のように拗ねたら、尊さんが「心から好きになったから絶対に捨てない」と誓ってくれるのを望んでいるかのようだ。


私はそんな自分の幼稚さが嫌になり、苛立ちを尊さんにぶつけてしまう。


「~~~~性格悪っ」


赤面して尊さんを睨み付けると、彼はニヤリと笑った。


「三十二歳で部長をやってるのに、正直者で性格がいいなんて言わねぇよ」


そう言われ、確かに部長をするには異例の若さだと思った。


(これも事情があるのかな……)


そう思ったけど、下手に尋ねて深入りするのが恐い。


溜め息をついた私は、さらに〝尊さんと付き合いたくない理由〟を挙げる。


「……嫉妬されるのが恐いです。尊さん、自分が女性社員に虎視眈々と狙われてるの、分かってますよね? 肉食女子の失恋パワーが自分に向くと思うと、本当に嫌です。子供っぽい虐めのターゲットになるのは絶対にごめんです」


ハッキリ言うと、彼は眉を上げてシニカルに笑う。


「会社では接近しないし、匂わせもしない」


「…………どの口が言ってるんですか。先日会議室でキスしてきたのは何なんですか。ボケたんですか?」


「悪かったって。もうしない」


飄々とした態度で謝られても、その謝罪を信じていいのか分からなくなる。


私は尊さんに翻弄されないよう必死に足掻いているのに、彼は楽しそうなのが気に食わない。


思わず表情を歪めて歯ぎしりしそうになったけど、お洒落空間にいるのを思いだした私は、再度食事の続きに取りかかる。


こうなったら、タダ飯食いだけは満喫しないと。


「他に心配事は?」


前菜を綺麗に食べ終えた尊さんは、紙ナプキンで口元を拭い微笑みかける。


「……どう考えても沼るじゃないですか。尊さんが私を大切にするほど、私はあなたに本気になって、忘れられなくなるし昭人にフラれた以上のダメージを負います」


私は溜め息をつき、言葉を続ける。

部長と私の秘め事

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

54

コメント

2

ユーザー

朱里ちゃん、沼っても大丈夫だよ~😆👍️💕💕 尊さんは 貴女よりももっと更に深く深~く、朱里沼に嵌まっているハズ....🖤♥️🤭 捨てられるどころか、めちゃくちゃ大事にされる未来💝しか無い❣️🤭💕💕

ユーザー

沼ろう!!!大丈夫!!!尊さんも沼るよ〜!もう沼ってるけど🤭

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚