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美希❄️
3,569
𓏲𓎨
47
wrwrd BL zmem
ご本人様には一切関係ありません。
地雷等は回れ右お願い致します。
「なぁなぁ、ファーストキスってやっぱりレモンの味がするん?」
暖房が効きすぎた作戦会議室のソファで、誰かがそんな他愛のない話題をふっかけた。
「いや、いちごやろ」「昭和の都市伝説やろそんなん」と外野が口々に騒ぎ立てる。我々だのメンバーが集まれば、どんな些細な話題でも瞬く間に騒がしい大騒動へと発展するのが常だった。
部屋の端、淹れたての紅茶を飲んでいたエーミールは、どこか遠い目をしてそのやり取りを眺めていた。
エーミールには、恋人がいない。
……いや、厳密に言えば、自分の胸の内に眠る『ある無自覚な感情』に、彼はまだ気づいていなかった。
彼は無意識のうちに、ゾムという男の背中を、その鋭い双眸を、目で追ってしまう。それが恋だとは露知らず、ただの『信頼できる良き仲間』への親愛だと思い込んでいるのだ。
そしてもう一人、ゾムの方もまた、エーミールに対して特別な感情を抱きながらも、それを決して表には出さずにいた。
二人は、お互いがお互いを想い合いながらも、絶妙な距離感を保ち続ける、実のところ『両片思い』の真っ只中にあった。
「いやいや、お前ら夢見すぎやろ! 実際にはそんな甘酸っぱいもんちゃうって!」
ガタッと椅子を鳴らして身を乗り出したのは大先生だった。ニヤニヤと品のない笑みを浮かべ、いかにも経験豊富そうな口ぶりでタバコを揺らす。
「ほんまのファーストキスなんてなぁ、そんなオシャレな果物の味なんかするわけないやん。大体は、その直前に食べたものの味が――」
その瞬間だった。
「大先生、それ以上喋ると、その口二度と開かんように綺麗に縫い合わせるぞ」
不意に、大先生の背後から凍りつくような低い声が響いた。いつの間にか背後に音もなく忍び寄っていたゾムが、ゾッとするような満面の笑顔のまま、大先生の口を後ろからガシッと大きな手で塞ぎ込んだ。
「ぶふっ!? んぐっ、んむー!?」
もがく大先生の横から、さらにシャオロンがクスクスと楽しそうに笑いながら、手伝うように鬱先生の頭を上から抑え込む。
「おい。大先生、余計な知識をエーミールに吹き込まんといてや。ゾムはウブのままでいて欲しいんやから。なぁ?」
シャオロンがゾムをチラリと見て、わざとらしくからかうように言葉を重ねる。彼は、ゾムの「エーミールにはウブなままでいてほしい」「男の生々しい話を聞かせたくない」という、過保護で歪んだ独占欲をとうに見抜いていた。だからこそ、こうしてゾムと同じように大先生を妨害しつつ、ゾムの反応をからかって楽しんでいるのだ。
「……? 皆さん、一体何の話をしているのです?」
当のエーミールは、口を塞がれて悶絶している大先生と、それを冷ややかに見下ろすゾムたちの構図を、不思議そうに見つめるばかりだった。
「なんでもないで、エミさん。大先生がまた汚い話しようとしただけやから、気にせんでええよ」
ゾムは大先生を乱暴に解放すると、くるりとエーミールの方を振り返った。その顔は先ほどまでの冷徹な殺気のそれではなく、少しだけ耳の裏を赤くした、ものだった。
「……レモン、ですか」
エーミールはぽつりと呟いた。
「私は、そんな経験はありませんが……もし、本当にそんな味がするなら、少し素敵ですね」
ふわりと柔らかく微笑んだエーミールの横顔を、ゾムはただ、じっと見つめていた。その瞳の奥に宿る、静かに燃えるような熱に、エーミールが気づくことはなかった。
その日の深夜。
あれほど騒がしかった基地から誰もいなくなり、静寂が夜の帳を支配していた。
エーミールは書庫での整理を終え、自室へと戻る途中で、ふとテラスへと続く廊下に人影を見つけた。
月明かりだけが差し込む窓辺に、フードを深く被ったゾムが佇んでいた。
「ゾムさん……? こんな夜更けに、どうされたのですか」
「あ、エミさん。……別に、ちょっと目が冴えてもうてな」
ゾムの口から、ふわりとアルコールの香りが漂う。彼にしては珍しく、少し強めの洋酒を煽っていたようだった。
昼間の賑やかな雰囲気とは打って変わり、夜の静けさに溶けるゾムの姿は、どこか触れてはならない硝子細工のような危うさを含んでいる。
「あまり夜更かしは体に毒ですよ」と言いながら、エーミールはゾムの隣に並んだ。昼間の会話が、ふとエーミールの頭をよぎる。
「そう言えば、昼間の話ですけど……」
「ん?」
「ファーストキスの味、です。結局、大先生は何て言おうとしたんでしょうね。直前に食べたもの、ということは……人によって全く違うということでしょうか」
エーミールが何気なく問いかけた、その瞬間だった。
「……知りたかったら、教えてやろうか?」
「えっ、」
驚いて声を漏らしたエーミールの視界が、ゾムのフードの影に覆われる。
ゾムの引き締まった大きな手が、エーミールの頬を包み込み、有無を言わさずに引き寄せた。
驚愕に目を見開いたエーミールの唇に、柔らかく、けれど拒絶を許さない強引な質量が押し当てられた。
「ん……っ!?」
息が詰まる。心臓が爆発しそうなほどの音を立てて脈打ち、耳の奥でドクドクと警報を鳴らす。
エーミールの中で眠っていた、無自覚だった恋心が、その一瞬で一気に目を覚まさせられ、頭の中が真っ白に染まっていく。
ゾムの唇は熱く、そしてどこか必死だった。逃がさないように、エーミールの細い腰をもう片方の腕で強く抱き寄せる。深く、深く、互いの輪郭を確かめ合うような、呼吸さえ忘れる口づけ。
ようやく唇が離されたとき、エーミールはゾムの胸元に手を突いたまま、肩を上下させて激しく息を荒くしていた。顔は耳の裏まで真っ赤に染まり、目の前にいる男の顔をまともに見ることができない。
「……っ、ゾ、ゾムさん……! 何を……っ」
「……どう? レモンの味、した?」
ゾムは意地悪く、けれど酷く愛おしそうな、熱を孕んだ瞳でエーミールを見つめていた。その視線に射すくめられ、エーミールは動けなくなる。
エーミールは、痺れるような感覚が残る自分の唇を、震える指先でそっとなぞった。
酸っぱくて、爽やかなレモンの味なんて、どこにもしなかった。
そこに残っていたのは――。
ツンと鼻をくすぐる芳醇な香りと、喉の奥を焼くような、ほんのり苦くて熱い【お酒】の、深く濃い味。ゾムが先ほどまで口にしていた、大人の、夜の味がした。
「レモンじゃ、なかった、です……。……苦くて、熱い……」
「おん。そりゃそうやろ。俺が今、それ飲んでたからな」
ゾムは満足げにフッと笑うと、今度は愛おしさを隠そうともせず、エーミールの体を腕の中にすっぽりと抱きしめた。エーミールの胸に、ゾムの規則正しい、けれど少し早い心音が伝わってくる。
「大先生の言う通りや。直前に食べたもん、飲んだもんの味がする。……だから、エミさんのファーストキスは、俺の味や」
耳元で囁かれた低く掠れた声に、エーミールはもう、抗う言葉を持たなかった。ただ、ゾムの背中にそっと手を回し、その温もりに身を委ねる。
二人の長い『両片思い』が、静かに、けれど確実に熱い恋情へと融解した、琥珀色の夜の出来事だった。
お疲れ様でした。
続くかも、、、?
ご提供に感謝!!!
コメント
5件

ぐへへ…その後…zmさんに猛アタックして欲しい…ぐへへ(*´q`)
読了しました…っ!もう、冒頭の賑やかな空気から一転、夜のテラスでのあのキスシーン、心臓が止まるかと思いました……!「レモンの味なんてしなかった」っていうエーミールの戸惑いと、ゾムさんの「俺の味や」が強引でいてひたむきで、すごく刺さりました🌙 二人の両片思いがようやく動き出した感じがして、続きが気になって仕方ないです…!かつかっつさんの描く距離感の駆け引きがほんとに巧みで、大好きです…!