「どこのホテルがいい?」
「えっとぉ~。スウィーティーに行きません?」
スウィーティーは関東で有名なブティックホテルだ。アジアン、フェミニン、ポップ、クラッシックモダンなどさまざまなデザインの客室が揃っている。私にはとっくに無縁となった空間だ。建真とはレス1年。今年で2年目に突入だ。
「湯島だからすぐだな。タクシーで行こう」
イチャイチャしながらタクシーに乗り込んで行ってしまった。涙を流しながら、遠くからスマホの望遠カメラでふたりがタクシーに乗り込む姿しか撮影できなかった。こんなものでは浮気を詰め寄ったとて、大した証拠にならない。建真に言い逃れされておしまいだ。
(こんな時…みんなどうやって乗り越えるんだろう)
(無理だよ)
(もう無理…)
28歳の五代紀美の物語は、最悪のスタートで幕を開けた。
この世には神も仏も無いのだと知った夜だった。
翌日。私は浮気者旦那のためにまたせっせと朝食を作っている。結局昨日建真が帰ってきたのは午前零時を大幅に過ぎてからだった。そりゃそうだろう。午後21時に秋葉原で待ち合わせ、そこからタクシーで湯島へ移動、ホテルに入って一戦交えたら午前様は当然だ。
昨日私は誕生日だったのに、建真からはなんのプレゼントもお祝いの言葉さえない。これってもう離婚してよくない?
私、なんでこんな男と一緒に暮らしてるの?
奴隷のように働かされて、浮気までされて、お給料まで没収されて…。もう、ほんとに離婚したい!!!!
「はぁ~」
味噌汁飲んでため息をつかれた。私の方をジロジロ見てもう一度盛大なため息。「なんでこんな家庭じみたオバサンなんだ紀美は」
は!!??
「もっとさ、お洒落とかできないわけ?」
「じゃあお金ちょうだいよ」
「なに言ってんだよ。渡した金でやりくりして余った金で買えばいいだろ」
生活費2万円じゃなにも余りませんが!!!!!!
むしろ足りなくて追加をもらう時、嫌味言うのはどっち!!??
「2万円しかもらってないのに、余るわけないよ」
「使い方が悪いんだ。もっと頭使えよな。それに口を開けば紀美は「金くれ」って言うんだよ。がめつい女だな」
2万円で1か月生活生活しろっていう方が無理だって!!
美容院代もないんですけど!
そんなに言うなら自分でやれ!!!!
ああ…ほんと、つよつよメンタルが欲しい。
今すぐ性格を「気が強い」にチェンジさせて、建真を言い負かせたい。
ここに論破王のひろ〇きさんを連れてきたい。ひ〇ゆきさんなら建真をギャフンと言わせてくれるはず!!
(それって明らかあなたの理想ですよね)
(生活費2万円なんてサバイバル生活でもやっているんですか?)
(じゃあ実際にあなたがやってみてください)
(この金額で生活ができてお金を余らせてから言って欲しいですね)
って言ってやりたいぃぃぃぃ!!!!!!
「はー。お前の顔見てたら飯がまずくなるわ」
吐き捨てるように言われ、建真はさっさと行ってしまった。
悔しいけれど、なにも言い返せない。いいたいことはいっぱいあるのに、気が弱くていつも心で思うばかりでなにもできない。
自分が不甲斐なくて情けない。
もっと変わりたいのに怖くて変われない。勇気が出ない。お金も無いし捨てられたら生きていけない。離婚だってどうやっていいのかわかんないし、晴菜と浮気していることまでわかっているのになにもできない。
28歳の1日目は、朝から悔し涙を流した。
夫と別れたいと決意をしても、現実はそう甘くない。
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