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翔太 side
仕事を終えて、足早に駅に吸い込まれていく人の群れを掻き分け、俺は決意新たに涼太との人生を歩むべく大きな一歩を踏み出している。
プラネタリウムに早く着いてしまった俺は、近くのカフェでコーヒーを飲み涼太を待っていた。
上映時間が近づき席を立つとカフェを後にした。
待ち合わせの時間になっても涼太は来ない。
上映時間まで後、10分足らずだ。
電話にも出なくて一気に不安になった。
泣きそうだ・・・
〝先に中に入ってるよ〟とだけメッセージを送ると、ひとりプラネタリウムの中へ入った。
平日、最終上映時刻はいつも通り閑散としていて他には1組のカップルが寝そべっているだけだった。
一番角にある三日月型のソファーに体を沈めると、自然と涙が流れる。
いつも、ひとりで観てた癖に・・・
仕事が忙しくてギリギリなるって言われたじゃないか。
電気が消えた・・・始まっちゃう。
途中入場は出来ないから最後の今日もひとりだ。
星なんか観たくなくて目を背けるように、横向きに蹲ると、ソファーが沈み込む感覚があった。
急いで振り返ると思ってもみない人の姿に驚きを隠せない。
蓮 🖤『遅くなってごめんね・・・やっと会えた』
ソファーの端っこに逃げて蹲ると、近づいてきた蓮が後ろから俺を抱きしめた。
蓮 🖤『ふふ、覚えてる?翔太くんが俺に告白してくれた日の事。翔太くんの家でさぁ、緊張した翔太くんが今みたいに、同じようにしてソファーの端っこに逃げちゃって・・・随分と手を焼いたんだ』
耳を塞いで、目を閉じる。
何も見てないし、何も聞こえない。
嫌だ嫌だ早く終われ終われ・・・
蓮 🖤『お願い・・・こっち向いて? 1時間ずぅっとそうしてるつもりなの?お願い翔太こっちを向いてよ』
蓮もう戻れないんだよ・・・掻き回さないでよ。
満杯で今にも溢れそうな心の箱が、グチャグチャに掻き回される。肩を掴まれて向き直されると、蓮の胸の中に収まった。手で押し除けても離してくれない。
箱から溢れ出した感情は、涙に変わって、ポロポロと頰を流れ、蓮のシャツを濡らしていく。
蓮の匂いが、蓮の吐息が、頭を撫でるその温かい手の温もりが、その全てが俺を包み込んで離さない。
翔太💙『やめて・・・アッチ行って』
それが精一杯だった。
何で涼太じゃないんだよ。
翔太💙『うゔうっ』
蓮 🖤『しーっ…大丈夫だよ。きっと全てが上手くいくから。ねっ大丈夫翔太。俺を信じて』
背中を摩る手が俺の心を苦しめる。
何を信じろって?
何が上手くいくの?
俺の何を知ってるって言うの?
俺はもう涼太のものだ。
涼太を愛すって決めたんだよ?蓮知らないでしょ?
俺今幸せなんだよ・・・
そうだよね翔太?
蓮 🖤『手繋いでもいいかな?・・・いいって事ね』
蓮 side
ズボンの裾を固く掴んでいた翔太くんの小刻みに震える手を無理やり剥がして手を繋ぐ。相変わらず冷たい。
白くてスベスベして気持ちイイ触り心地のいい手。
蓮 🖤『ふふっ覚えてる?翔太、俺の手好きだって言ったの』
翔太💙『・・・覚えてるよ・・・俺の手は冷たいけど、柔らかくて、スベスベして気持ちイイって蓮は言ったんだ』
ようやく、翔太くんが〝蓮〟と呼び俺と会話してくれた。お客さんが少なくてよかった。ほぼ貸切だ。
翔太くんはずっと泣いている。
今日は舘さんからチケットを預かってここへ来た。
俺はずっと翔太くんを探していた。
結局翔太くんに会えずじまいで、2日前にここに来た時、ロビーの短冊を見てようやく見つけたプラネタリウムだったけど、この2日間翔太くんは来ていないようだった。
昨夜遅くに、俺の家を訪ねてきた舘さんは俺にチケットを渡すと無言で帰って行った。
阿部ちゃんに話すと〝決心がついたんだねきっと〟そう言っていたけど、俺にはさっぱり意味がわからなかった。
俺の腕の中の翔太くんはずっと震えたまま泣いている。星なんて全く観る気がないようだ。
暫く頭を撫でていると、泣き疲れたのか、あろう事か俺の腕にしがみ付いて眠ってしまった。
暫くぶりの愛おしい姿に、今度は俺が泣く番だった。
規則的な呼吸音を響かせて眠っている。そっとおでこにキスすると、満天の星空を眺めた・・・
亮平 side
亮平💚『辛気臭い、いつまで泣いてんのよ!運気下がるから、いい加減帰って』
涼太❤️『おい!お前昨日言ったこともう忘れたのかよ。頭くらいなら撫でてあげるわって女の子みたいな猫なで声で言ってたろ』
亮平💚『失礼しちゃう、訂正してくれる?』
涼太❤️『嫌だね!間違いなくお前は〝猫っぽい〟』
涼太がうちに来て1時間。
来るなりソファーに座ると、静かに肩を震わせて泣いていた。
最初こそ、頭撫でて〝可哀想に〟なんて思ったりもしたけど、流石に泣きすぎでしょ。
俺の時なんて誰も慰めてなんかくれなかったのに、翔太といい、涼太といい、このゆり組コンビはこんなに泣き虫だなんて思わなかった。
それにさっき気付いたんだけど、涼太もかなりの天然だ。
訂正して欲しいのは〝女の子みたい〟って言った事で〝猫〟って言われた事じゃないんだけど。しかも猫なで声って言っておいて・・・面白いんだけど・・・
ニヤニヤしていたのが更に逆鱗に触れたようで、すっかり元気になった。
亮平💚『良かった。元気になったみたいで。本当偉かったよ涼太。昨日はどうなる事かと思ったけど・・・』
涼太❤️『お前のお陰だよ・・・あぁお腹空いたな。なんか出前取ろうぜ』
あの2人は今頃大丈夫だろうか・・・
涼太と話ができていないのに翔太が蓮を受け入れるだろうか。
亮平💚『そんなにすぐに蓮を許せるかしら?』
涼太❤️『翔太はお前や蓮を責めたりすることはない。責めるのはいつだって翔太自身だ。だから心配なんだ』
どこまでも優しい子。いつも自分じゃなくて皆んなの幸せを願ってる。翔太の幸せが俺たちの幸せなのに。
亮平💚『今日どうするの?翔太、家に帰ってくるんじゃない?』
涼太❤️『さぁ、・・・でも俺はちゃんと家に戻るよ。何れにせよ帰って来ようがこまいが、翔太としっかり話をするよ。俺の大切な人に変わりない』
涼太は、自分の進むべき道を見つけたみたい。
男らしい姿に少しだけ・・・
ほんの少しだけよ?
カッコいいなぁって思った。
2人で出前のピザを頬張ると、涼太は
〝じゃぁ・・・また来るね。また頭撫でてよ〟そう言って帰って行った。
甘えん坊なところも・・・翔太に似ている。
コメント
5件
ほっこりした。 可愛い。結局、阿部ちゃんが一番イイ仕事してる💚 そして蓮は、もうちょい反省しろ😇 ああん、着々と結末へ向かってるなあ。 👙見れるのかなぁーーー。
なるほど〜そうきましたね😱‼️‼️