テラーノベル
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「俺の人生で初めて…………一緒にいて楽しいって思う女」
思いの外、男に真剣な眼差しを向けられ、優子の心臓が強く摘まれてしまい、顔が少しずつ紅潮していくのを感じる。
「まっ……またまたぁ! テキトーな事を言っちゃ──」
「適当に言ったつもりは、一切ないんだけどな」
拓人が、優子の言葉を遮るように、顎に手を掛けて上を向かせると、彼女の唇を塞ぐ。
「んうぅっ……っ……」
男の舌が、微かに開いた優子の唇へ侵入させると、歯列をなぞりながら口腔内を蠢かせた。
小さな舌が絡め取られ、濡れた音が耳朶を揺らすと、優子の身体は拓人の腕に強く抱き寄せられる。
節くれだった指先に力が加わり、逃がさないと言わんばかりのキスに、彼女は眉根を寄せた。
不意に男の顔が離れると、優子の下唇を、焦らしながら食む。
鋭い眼差しに刺された彼女は、羞恥に顔を赤らめると、伏し目がちにさせた。
「…………いい加減……気付けよ」
拓人が優子から顔を背けると、深くため息をついた後、緩く癖の掛かった前髪を、ざっくりと掻き上げる。
(気付けって言われても…………)
男のセリフに困惑しながらも、彼女は熱くなった顔を見られるのが恥ずかしくて、顔を上げられない。
「さて、そろそろお台場を出るか」
拓人が優子の手を繋ぐと、踵を返して歩き出した。
***
「さて、今度は、あんたが行ってみたい場所に向かおうかって思ってるんだけどさ。どこに行きたい?」
男の愛車は、光の粒子を纏ったビル群を縫うように、首都高速道路を走っている。
ステアリングを掴みながら、前方を見やる拓人に問い掛けられた。
「行きたい場所ねぇ……」
楽しげな口調の男に、いきなり言われて、優子は車窓に視線を移し、思案している。
出所してから、彼女が出かけた場所は、元上司の松山廉と逢瀬で、新宿と横浜しかない。
(専務と出かけたのは、私からすれば、仕事みたいなモンだけどね……)
今、拓人とドライブという名の逃避行をしている事が、遠くに出かけている状態。
けれど、この弾丸ドライブで、優子も少し疲弊して、少し落ち着きたいと思う。
「…………温泉に……行きたいな」
彼女は遠慮がちに、ポツリと呟いた。
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