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YouTubeの企画で行くロケ地に向かう移動車の中は、いつものように騒がしい。特に今日は遊園地だからか、最前列の樹とジェシーがずっとテンションが高い。
はずだけど、何かがおかしい。
俺は一番後ろの3列目を振り返った。慎太郎は、窓の外を所在なさげに眺めている。
「どうした?」
俺は訊く。慎太郎がこっちを向いて、その隣に座る大我が慎太郎を見た。
「…何でもないよ」と笑う。俺は知ってる。慎太郎が笑って言う何でもないは、何かある。
普段よりずっと口数が少ないし、笑顔も作ってる感がある。だけど尋ねたらはぐらかされるだろうな。
様子を見ながら、みんなの話にまた加わった。
「今日の企画は! 何だと思いますかみなさん?」
いつものように撮影が始まった途端、最初の挨拶もそこそこにボケタイムがやってくる。
「デビュー!」
「もうしてるだろ。てかそれ超久しぶりだな」
「……遊園地でお化け屋敷に入ってみた?」
「早いな。ほら、北斗も準備してたよ」
やっぱりだ。4人が自由に喋ってる中、珍しく慎太郎がボケない。
台本を持つ樹も気付いたのか、俺と目が合った。小さくうなずき合い、何事もなかったかのように続ける。
今日は遊園地に来ていた。そこでみんなでお化け屋敷に行くのが、今回の企画だ。
慎太郎の表情が冴えない理由を考える。体調が悪いのか、単にお化けが怖いのか。
後者はないだろう。ジェシーや大我こそビビりだけど、慎太郎はそれなりに肝が据わっている。
だから、ペアがちょうど慎太郎になったときに「調子良くないんだろ」と尋ねてみた。
彼はうろたえる様子もなく、「違うよ」と言った。
「…顔、暗いけど」
そのとき、少しだけ間が空いた。
「気のせいだって」
普段の笑顔になる。心配と不安が拭いきれない中、北斗と樹のペアがお化け屋敷に入っていく。
入り口からすでに樹の悲鳴が聞こえて、待機組はおかしくて笑い合う。
次が俺らの番だった。出口から戻ってきたほくじゅり。その疲弊したような怯えきったような顔を見て、どこか慎太郎の身体が力んでいる気がする。
「俺がついてる」
何気なく言ってみるけど、表情は緩まない。
それでもカメラを持って一緒に建物に立ち入り、暗さと恐怖に震えながら前に進んでいると……。
手首を掴んでいた慎太郎の腕が、ぱっとすり抜けた。振り返るが暗くて見えない。
「慎太郎?」
「こーち…っ!」
俺は来た道を戻る。少ししたところで、慎太郎が小さくなってうずくまっているのがわかった。まだお化けも出ていないのに。
「おい、どうした! 大丈夫か」
薄明かりに照らされた目元がキラリと光る。それが涙だと気付くのに数秒かかった。
続く
コメント
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最高です!