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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで
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「もう疲れた……家帰りたい」

「まだ会場入りしたばかりじゃないか」

「アンタのせいで疲れたの!べた褒め攻撃して!私のライフはもうゼロよ!」


馬車の中で永遠とドレスのことを弄られ、綺麗だの可愛いだのリース中身元彼のべた褒め攻撃が始まった。会場に着くまで永遠と。

よくそんなにも私の良いところが出てくると、感心してしまった。それだけ私の事を見ていてくれている証拠なのだが、やはり恥ずかしさと元彼という気まずさも相まって、私は一方的な攻撃を受け続け耳まで赤くし彼と顔を合わせないようにと必死で、肝心な褒め言葉を一つも覚えていない。

別れた女にそこまで執着する理由が結局彼から何一つ聞き出すことは出来なかった。

聞いたところで今更なのだが。


「さすが、皇太子の別荘広い……」


会場は皇太子であるリースの別荘の敷地内での庭で行われる。

何百人と入れる大きな庭に、噴水があり、そこには小さな橋が二つかけられており、そこから会場に入れるようになっている。

日も暮れて空は真っ暗なのに、この空間だけ昼間のように明るかった。ランプやらシャンデリアのようなものやらがそこかしこにあり、光を放っている。

会場には既に煌びやかな衣装を身に纏った貴族達が沢山いた。


「凄く明るいんだね……眩しいぐらい」

「ああ、今回参加している貴族は光魔法の家門しかいないからな。魔力の保持の為、こうして明るくしているんだ」

「…へぇ」


(じゃあ、闇魔法を扱う家門……アルベドは来ないって事か)


そんなことを思いつつ、私はため息をついた。眩しくて目がチカチカするのもあるが、やはり人混みは苦手だ。


「……水飲みたい」


会場に入ってから沢山の人に声をかけられ既に心身共にボロボロになっていた。

こんなにも大勢の人に話しかけられる事なんてない。ましてや、相手は全員貴族だ。対応の仕方も分からなければ、異世界補正で一般的な挨拶やら振る舞いは出来ても知らない話題を振られれば一気に口が開かなくなる。

私を貴族のご令嬢かと思って話しかけてくる人もいて、私が聖女だと後々気づいて驚いている人もいた。

私が聖女だと気づくと皆途端に顔を曇らせた。

それは、グランツやブライトに出会ったあの日一番初めに私に向けられた顔とおなじだった。私は思わず、自分の唇を噛んだ。もう、慣れた筈なんだけどな……


(私は、どうせ……偽りの聖女ですよ)


「……」

「リース……?」


リースはそんな私を見て、手を引いてくれた。何も言わず、何も聞かず。察してくれたんだろうと分かったが、ありがとうの一言は口から出てこなかった。

リースは私を席に座らせると、会場の中央の壇上に立ち、優雅に一礼した。そして、声を張り上げこう言ったのだ。


「本日はお集まりいただき真に感謝する。先日、我が帝国の召喚士達が予言の聖女を召喚することに成功した。よって、これを祝い歓迎会を行うことにした。聖女のお披露目も兼ねているが、是非楽しんでくれ」


そう言うと、リースはまた一礼し私に立つよう目で合図を送った。

これさえ終われば帰れると、そんな保証はないが言い聞かせ私も上にのぼり一礼した。

その瞬間大きな拍手が鳴り響いた。


「彼女は、帝国の光であり救世主だ。どうか彼女を暖かく迎え入れて欲しい」


リースの言葉に会場中から歓声が上がった。まるで英雄の凱旋のようだ。

聖女である私は、確かに救世主かもしれないが、私は別に望んでここに来たわけではない。

皆、私を見て微妙な顔をしているのがここからはっきり見えてしまった。何故だかは分からないが、仕方なく拍手を送り仕方なく歓迎している……そんな風に取れた。

私は何もしていない。まだ、本来のエトワールのように何も……

私はリースに手を引かれ壇上から降りた。すると、リースは疲れただろう。と私を心配するように優しく背中を撫でてくれた。

しかし、私はそれよりも気になっていることがあったため落ちつけず大丈夫だと無理矢理笑顔を作って彼の元を離れた。


それからは、私そっちのけでパーティーが始まった。勿論、私に話しかけに来る人は山ほどいたのだが、一言二言歓迎の言葉を送った後私の元から去って行った。

私は会場の端で、オレンジジュースを一人悲しく飲んでいた。リースは他の貴族達に挨拶をして回っているようでここにはおらず、実質ひとりぼっちである。

まあ、一人の方が気楽で良いのだが。

そんな風に、会場を眺めながらオレンジジュースのはいったグラスが空になったため、もう一杯貰ってこようかと向きを変えた瞬間、突然声をかけられた。


「お久しぶりです。聖女様」

「……あ、アンタは」

「この間は、挨拶ができなかったので……改めて、ブリリアント家の侯爵代理、ブライト・ブリリアントと申します」

「ブライト……」


私の行く手を阻んだのは、黒髪の美形……ブライトだった。彼は、薄い笑みを顔に貼り付けて私に一礼しその笑顔を私に向けた。

彼もきていたのかと、私は目を細め彼を睨みつけた。

だが、彼は全く動じることなく話を続けた。


「この間はどうも、ありがとうございました。聖女様のおかげで……」

「別に感謝されるようなことしてないですし。他に用がないなら放っておいて下さい」


怒っているわけでは決してないのだが、この間手を叩かれたことが頭をよぎりブライトの顔をみることができなかった。

それに私は、彼と話すつもりはない。彼も、一貴族として私に挨拶をしにきただけだろうし……

私は、彼から逃げるようにその場を離れようとしたが、彼が私の腕を掴み引き止めた。私はその力の強さに驚き、思わず彼の顔を見た。


「……す、すみません」


そういって、我に返ったブライトは私から手を離した。

そんなに必死になって……どうして私を引き止めたいのだろうか。


「この間の事、怒っていますか?」


彼の口から出てきたのは、私が今一番彼の顔を見て出会って思った事だった。

私は、その本人から掘り起こされたことに腹が立ち彼に捕まれた方の腕をさすりながらもう一度彼を睨み付けた。

アメジストの瞳に申し訳なかったという文字が浮かんでいるように見え、これ以上怒っていてもい見ないと私も冷静になる。終わったことだ。気にしない。


「怒ってないです。怒っていますか? って聞かれて怒ってますなんて普通答えれないでしょ」


私がそういうと、ブライトはほっとした表情を浮かべ胸をなでおろした。本当に反省してるのかな。まあ、いいけど。


「……怒ってないですけど。本当に怒ってないっていう前提で聞いて欲しいんですけど。何であの時私の手……叩いたんですか?」


私は、気になったことをそのままブライトにぶつけてみた。

これで、弟が云々と返ってきたら本当に殴ってやろうかとすら思っていた。しかし、ブライトは言いにくそうな顔をし一度私を見た。

そして、何かを決意したかのように口を開いた。少し不安になりながらも、私は彼からの言葉を待った。

すると、彼は私を見つめたままこう言った。


「実は、弟は変わった病気を持ってまして。それが、聖女様にうつってはいけないと思い……思わず聖女様の手を」

「病気……?」


はい。とブライトは小さく頷いた。

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