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萩原なちち
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季節は巡り、吐く息も白くなる冬がやってきた。だいきの口癖だった『人恋しい』という言葉が、骨身に染みるようにわかるようになってきた。それでも俺の中には女々しいほどにりゅうせいが居座っていて、いつまでも過去から前に進めない自分に、時折どうしようもなく嫌気がさす。
「さっむ……。もう冬じゃん。普通にクリスマス、来週とかなんだけど」
「お子さんに何か贈るんですか? 俺もプレゼントを買いに行く予定があるんで、一緒に選びに行きます?」
「ん~、いいや。その辺のことはあんまり詳しくないし、奥さんの方が詳しいからな。その分、多めに振り込んでおくよ」
「結局、金が一番喜ぶんだよ。金さえありゃ、なんでも手に入れられるからね」
「……だいきらしいな」
「だからさ、いつきくんのクリスマス、俺に買わせてよ。幸せなクリスマス約束をお約束します」
「……なんちゅー告白だよ、それ」
ふざけて差し出されただいきの手を、パタッと叩いて退ける。
「え、今の告白なんすか? 」と横からいっちゃんに突っ込まれて気づいたが、いっちゃんはだいきが俺を本気で狙っていることを知らないし、だいきも俺に気持ちがバレていないと思っている。……しまったな。まあ、話を逸らせばどうにかなるか。
「で、いっちゃんは誰にプレゼント買うの? 甥っ子? 姪っ子? いっちゃん兄弟いたっけ?」
「いますよ~。弟が結婚してるんで。俺もそろそろかな、なんて思いますけど」
そうか。26歳ってもうそういう歳か。俺もそのくらいの年齢で結婚したんだっけ。いっちゃんと同い年のりゅうせいも、そういう人生の岐路に立っている時期ってことか。
「……で、りゅうせいはどうすんの? クリスマス。予定あんの?」
よくそんなダイレクトに聞けるな。いや、だいきからしたら普通の会話か。俺の方が妙に焦ってしまった。
「ん~、家族で鍋パっすね。去年から母親に予約を入れられてるんすよ」
ふふっと笑って、りゅうせいがだいきに答える。
……でも、それって「鍋の時間だけ」だよな? その後は? 夜は彼女と出かけたりするのかな。
「え、じゃあさ。鍋ができるまでの間か、食べた後、ちょっとだけ一緒に過ごさない? いつきくんも、四人ならいいでしょ?」
だいき、お前マジで何言ってんだよ。あのりゅうせいだぞ? 彼女と過ごすに決まってるだろ。独り身で寂しい俺らを気遣って、「家族と」なんて言ってくれているだけだろ。
「ちょっと待って。俺、予定あるでパス」
「え、いっちゃんダメなの? りゅうせいは?」
「……俺も忙しいので、パスで。二人で楽しくデートしてきてください」
うわぁ。……わかってはいたけれど、純粋に突き刺さる。だいきが俺のこと意識するのを嫌がったのは、お前じゃなかったのかよ。それなのにわざわざ「二人で」とか「楽しく」とか、そんな言葉を強調することないだろ。
……ほんと、お前に恋してから、俺はずっとガラスメンタルなんだよ。
「だって! いつきくん、もう俺から逃げられないよ?」
「いつきくん、なんか知らない間に追い込み漁にあってますよ」
「うわぁ……もう逃げらんない。仕方ないから、幸せなクリスマスにしてよ。だいき」
「よっしゃ! お買い上げありがとうございます!」
「買ったのお前だからな」
なのにな。なんでりゅうせいがそんな、心臓を抉るような傷ついた顔をするんだよ。……そんな顔されたら、俺だって本当に諦められなくなるじゃん。
「……りゅうせい、本当にいいの? 秋祭りの時みたいに後悔しない?」
いっちゃん、そういう話は普通、俺がいない時に言うもんだろ。聞こえるように言うもんじゃないよ。
「……いつきくんがコスプレしてくれるなら、考えます」
「ふふっ……なんだよそれ」
なんとか心臓を繋ぎ止める。でも、りゅうせいのクリスマスの予定に勝る俺のコスプレって一体なんなんだ。
「あ~、サンタコスもいいけど、あえてトナカイの着ぐるみとか最高じゃない? 可愛いいつきくんが見たい!」
「それいいっすね。ギャップ萌えしそう」
「なんでコスプレするのが決定事項で話が進んでんだよ!」
「じゃあ俺ら三人がサンタで、いつきくんがトナカイで決定ね」
「それ、ただのイジメじゃない?」
「いつきくんはその立ち位置がベストなの~!」
マジで意味がわからない。でも、りゅうせいが笑っているから、それでいいか。……結局、だいきは俺と二人じゃなくていいのか? りゅうせいはどうなんだ? 彼女と俺、どっちをとるつもりなんだよ。
冷え切った冬のオフィス。帰り際、いっちゃんからは「俺、予定あるって言いましたよね?」と釘を刺され、りゅうせいも「やっぱり行かない」の一点張りだったらしい。
二人ともかなりの塩対応だったようで、だいきは「いつきくんと二人なのは嬉しいけど、なんか寂しかった……」と、珍しく肩を落としていた。
あの冗談で救われたのは、結局俺だけだったんだな。
俺ってもしかしてモテてるんじゃなくて、ただの「腫れ物」扱いされてるだけなのか? 三人が優しくしてくれるのは、そういうことなのか?
……ダメだ。思考がどんどん淀んでいく。冬の空気のせいか、窓の外に映る街灯の光さえ、どこか遠くで冷たく光っているように見える。