これは、一人の少女が
魔女になるまでのお話
それは、いつも通りの朝だった。
学校に行く通学路を遅刻寸前だからと走っている最中のこと。
動けなくなったと思うと、足下に魔方陣が浮かび上がった。そして、大きな光に包まれ気がつけば知らない家にいた。
(何ここ、声出せないし、動けないっ)
肉体が拘束されているわけでもないのに、少しも動かすことができない。
それに加え、もう随分と長い間立った状態で動けていないのにも関わらず、疲れが一切感じられない。怖い位に。
目線を動かすことすらできないため、建物の把握が難しい。分かるのは木造ということと、大量のトルソーとそこに着せられた女物の服があるというだけである。しかし、そこから推測するにしても、情報が少な過ぎて欲しい答えにはたどり着かないだろうと思ったので、それについて考えるのは一旦止めた。
そうして時間を使っていると、目の前の扉が開いた。扉からは、白衣を着たメガネの見知らぬ男が現れた。
「今回こそ、成功したかな」
そう言ってこちらへどんどん近づいて来て、ついにはこちらの頬を優しく一撫でした。身震いこそしなかったが、頭の中では恐怖と気持ち悪さが生まれていた。
(なんなの、この人)
「話せる?それか、うなずいたりするだけでもいいよ。とにかく、君がいるかどうか確認したい。」
「そんなことできるわけ…って、あ」
声が出た。ぎこちないけれど、体も動かすことができる。
「うんうん、今回は今までで一番いい出来だ。やっぱり、成功かな」
一人笑顔でうなずく男は、続いて私に話しかけた。
「君は、自分が誰だか分かるかい?」
そんなの分かっているに決まっている。
しかし、そんな予想とはうって代わって、長い時間をかけて思い出したのは自身の名前と住んでいた場所、今日の朝からの記憶、それから、そこでの一般的な知識だった。
その旨を男に伝えると、男は少しの間顔を歪めたあと、何事も無かったよう笑顔になりこの世界のことについて話し始めた。
「今、君が居るここは僕の家。そして、僕 の家があるこの国は〔ルスベニア王国〕だ。この大魔術国家として知られているんだよ。」
「は、はぁ」
随分と現実感がない。魔法が使えるなどと言われても魔法のない世界に生きていた自分にとってはとても信じがたい話だ。
しかし、もし本当ならばこれは流行りの異世界転生、いや、転移ということになるのか。
「一回、使ってみる?」
「そんな簡単にできるものなんですか?」
「もちろんさ。まず目を閉じて、体の回りに漂っているマナを感じるんだ」
そんな簡単に言われても…と思ったがとりあえずやってみることにした。
体の回りにあるモヤを感じる。
(これがマナ…?何かファイヤーボール的な物が出せたら…)
「マナを感じられたら、それを体の一点に集中させて」
モヤを前に出した手に集め、それを
「「放つ!!」」
放たれた人の頭より大きいファイヤーボール(仮)はしゃがんで回避しようとした男の髪を少し掠め、扉を燃やしつくすと消えた。
「うわぁっ!!あっぶない、けど凄い!!これなら…」
本当に撃ててしまった。
唖然としている私に男は話しかける。
「これなら、魔法学園に通えるよ!!」
「魔法学園?なんで…」
「この実験が成功すると思って、
先に入学許可をもらってたんだ
まぁ、少し長引いてしまったから
復学という形になってしまうけど…」
(実験?復学?)
魔法学園に通えることは、この手の物の醍醐味みたいなところがあるのでいいのだが、実験についてはとても話が聞きたい。
自分がここに呼ばれた理由が知りたい。
「あ、あの実験って…」
「明後日には、学校の寮に入ってもらうからね。それまでに、この国の常識を身につけてもらわなくちゃ。」
見事に話を遮られた。そこまで話したくないことなのか。
なぜか、これ以上聞
雰囲気になったため、
「そうですね」
と適当に返した。
「そうだ、あと名前だけど、
僕がリシオ・ルドーシュだから…
じゃあ君はシオ・ルドーシュにしよう」
「え?」
さらっと男が名前を明かしたこと、勝手に名前を決められたことにも驚いたが、なにより一番驚いたのは、男、リシオのつけたシオ・ルドーシュという名前に聞き覚えがあったからに他ならない。
シオ・ルドーシュ、それは、私がプレイヤーしていた乙女ゲームのデフォルトネームと同じだった。国の名前も同じだ。
「さぁ、さっそく勉強するよ。」
私はここで生きていけるの…?
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