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10月19日 PM20:35
槙島ネネと六郎がお茶をしている中、八代和樹は神楽ヨウと車内で密会していた。
「ヨウ、槙島から聞いたぞ。お前、リン君を実験に使ったんだってな」
「あぁ、そんな事か。実験体は必要だろ、薬の効果がどうなのかを知るのに」
「お前、子供にまで手を出すようになったのか」
「おいおい、嫌な言い方をするなよ。僕が変態みたいじゃないか」
そう言って、神楽ヨウは煙草を咥える。
八代和樹は神楽ヨウの肩を掴み、自分の方に顔を向けさせた。
「お前、どうかしてるぞ。リン君が薬の所為で記憶障害を起こしてる事を知ってんだろ。知った上で闇医者の爺さんに薬を作らせ、リン君に飲ませてるだろ」
「思い出したくない記憶が消えたなら良い事じゃないか。僕と関わりがあまりなかったし」
「だからってなぁ…。マジで、どうかしてるよお前」
「おかしい?おかしいのは椿恭弥だろ。僕は正常だよ、至ってね」
「いや、おかしくなってる自覚あんだろ。晶ちゃんを手放してから、ヨウはタガが外れた」
晶の名前を耳にした神楽ヨウは動きを止める。
「背中に彫ってある天女の顔、晶ちゃんだろ。確かに、拓也を殺された事は許せねぇ。椿恭弥のした事も
許される事じゃない」
「僕は和樹みたいに利口じゃないし、割り切って生きられないよ」
「お前、晶ちゃんが他の男に取られても良いのか?」
八代和樹の言葉を聞いた神楽ヨウは悲しげに笑う。
「僕に止める権利があると思う?」
「もう、子供を使うのはやめろ」
「薬の実験体は他にもいるよ、和樹が知らないだけ…」
ガッと神楽ヨウの胸ぐらを掴み、八代和樹は眉間に皺を寄せながら口を開く。
「槙島まで使おうって腹じゃねーよな、ヨウ。お前に協力してる槙島を道具みたいに使ってねーよな」
ブー、ブー、ブー。
八代和樹の言葉を遮るように、神楽ヨウのスマホが震度した。
神楽ヨウはズボンのポケットからスマホを取り出し、着信相手を確認する。
「組員からだ。少しの間、黙ってて」
そう言って神楽ヨウは通話に応答し、八代和樹は煙草を咥えた。
「どうした。あ?頭が来てないって、どう言う事だ。今日は〇〇組の組長と会食だろうが」
『そ、それが…。〇〇組の組員から電話が来て、頭が店に来てないって…。〇〇組の組長がめちゃくちゃ怒ってるらしくて…』
「頭と連絡は取れたのか」
『さっきから連絡してるんですけど…、出てくんないすよ!!こっちも困ってて…、嘉助さんこっちに来れないですか?ご機嫌取るのも一苦労で…』
神楽ヨウは頭を抱えながら「すぐに向かう」と答える。
そのまま通話を終わらせ、シートにもたれかかる。
「おかしい」
「おかしいって?何が」
「椿恭弥が僕に連絡もせずに、今日の食事会に参加してない事だ。椿恭弥は何かと連絡してきては、僕の意見を求めてたのに…。嫌な予感がする」
そう言って神楽ヨウは誰かに電話をかけ始めたが、相手は一向に出る事はなかった。
「出なかったのか?相手」
「あぁ、喜助に電話したんだけど出なくって。けど、確証が確信に変わった。あの女、椿恭弥に何かを吹き込んだ」
「吹き込んだ…って、まさか俺達の事を喜助って奴に話したのか?」
「馬鹿言うなよ、言う訳ないだろ」
八代和樹は車をドアを開け、神楽ヨウの方を振り返る。
「ヨウ、槙島を捨て駒にすんなよ」
そう言って、八代和樹は車を降りて行った。
「槙島と和樹を出会わせたのは…、良くなかったな。面倒ごとが増えた」
冷めた顔を浮かべだまま、神楽ヨウは車を走らせた。
八代和樹が車から降りて数分後、槙島ネネに通話を掛けた。
「槙島…、なんで電話に出ないんだ?」
『槙島ネネが椿恭弥に殺される』
八代和樹の脳内に謎の声が聞こえ、槙島ネネが血を吐いて地面に倒れるシーンが脳内に過ぎる。
トンカチを持った椿恭弥が、不気味な笑みを浮かべていた。
「何だ…、今の映像は…っ。もしかして、Jewelry Wordsの力か…?」
『喫茶店ぷしゅーるに向かえ、そして晶に伝えろ。真実を』
謎の声の言葉を聞いた瞬間、八代和樹は全速力で喫茶店に向かった。
CASE 晶
10月19日 PM21:00
一仕事を終え、W800を夜の道路で走らせる。
ヘルメット越しから冷たい風が伝わり、指先が冷えてきた。
信号が赤に変わりW800を止め、ヨウと行っていた喫茶店『ぷしゅーる』が目に入る。
そうか、ぷしゅーるが通りにある道路に居たのか。
ヨウ…。
「あ、居たっ。晶ちゃん!!!」
誰かが俺の名前を遠くから呼ぶ声が聞こえる。
声のした方に視線を向けると、見覚えのある顔の男が
走ってきていた。
あの男、もしかして…。
息を切らしながら、俺の隣で上がった息を整えてい
る。
泉病で槙島と一緒にいた男だ。
「テメェ、泉病にいた男か」
「はぁ、はぁ。良かった、覚えてくれてたんだな」
「よく俺を覚えてたな。数回しか会った事がなかった
だろ。で、俺になんか用か」
「槙島の事を…、助けてくれ」
この男は何を言い出すんだ。
槙島…、ネネの事を言ってんのか。
「道路から出ろ」
「え?」
「このままここで話す気か?車に撥ねられて死にてー
のか」
「あぁ、そうか。悪い」
W800から降り、道路から歩道に移動する。
近くにあった電柱の隣にW800を止め、男の手を引き路地裏に連れて行く。
男を壁側に覆いやり、持っていたベレッタM92Fの銃口を喉仏に突き付ける。
「ネネを助ける?俺がか?笑わせんなよ。何しにあんな女を助けなきゃいけねーんだよ、あ?」
「槙島はヨウの事を殺していないよ」
「あ?その保証はどこにあんだ。証拠があんなら今、
出してみろよ。出せんのか」
「そう言うと思ったよ、ちょっと待ってて」
男はポケットからスマホを取り出し、画面を俺の方に向けてくる。
そこに写っていたのは、俺にジャケットを貸してくれた男だった。
確かにヨウに似ている。
だが、似ているだけであってヨウである確証がない。
「写真だけで信じられると思ってんのか」
「君、ヨウがJewelry Pupilだって事は知ってる?」
ズキンッ!!
頭に鋭い痛みが走った。
急速に頭の中で過去の出来事がフラッシュバックする。
ネネが俺にヨウの死体の写真を見せた時の事。
ネネと会う数日前から、ヨウと連絡が取れなくなった事。
俺はなんで簡単に信じたんだ?
何かがおかしい。
ネネの言動と行動、辻褄が合わないような…。
ズキンッ、ズキンッ、ズキンッ!!
脈打つような激しい頭痛が容赦なく襲い掛かる。
激痛の中、思い出したのは公園にいた男。
どうして、会った瞬間に気付かなかったんだ。
あの公園にいた男は間違いなく、ヨウだった。
ヨウの仕草、珍しい煙草の銘柄、ピアスの数。
ヨウがJewelry Pupilだって事も、なんで…?
なんで、俺は思い出せなかった?
なんで…。
「晶ちゃん、俺の事も思い出せないのもヨウのJewelry Wordsの力の所為だ」
「あぁ…、あの妙な力の事か。その力が?今のこのクソみてぇに痛い頭痛と関係してるってか?」
「ヨウの力が薄まって来てるんだな、多分。俺がヨウが生きてるって言ったから、君が不審に思い出したから」
「はぁ?どうにかしろよ、この頭痛。苛々してしかたねぇ」
こんな男の話よりも、この頭痛を治めたい。
「晶ちゃん。槙島は君からヨウを奪わせないように、ヨウを殺したと嘘の記憶を植え付ける事にしたんだ。槙島とヨウの2人の計画だったんだ」
「ハッ、あの女がそんな事するタマかよ。あの女は寧ろ、ヨウを嫌う筈だ。なんでか分かるか?」
「君の事が好きだからか?恋愛対象として」
段々と痛みが薄れてきたからか、頭が妙にクリアだ。
ネネへとの怒りがなくなったのか。
それともヨウが生きてるって事を知った所為なのか。
今まで偽の復讐心を抱いて生きて来たのかと思うと、クソ程くだらない時間だったな。
ネネとヨウが俺の為にした事は、俺にとっては最善の未来じゃない。
ヨウが何故、俺に偽の記憶を植えさせたのか分かる。
拓也さんを殺した椿恭弥への復讐。
椿恭弥が俺を殺そうとしていた事にも気付いていた。
俺が動く前にヨウが動いてしまったと言う事か。
ヨウは自分の復讐に、俺を巻き込まないようにしたんだろう。
「お前、なんで俺に助けを求めたんだよ」
「晶ちゃんだからだよ、槙島の好きな子だから。君にしか頼めなかったんだ…って、ヤバイ!!」
「は?お、おい!!」
男が慌てて路地裏を出て行ったので、俺も男の後に続いて路地裏を出た。
出た瞬間、何かがおかしいと感じた。
「人が止まってやがる…?」
目の前に起きている光景をどう説明したら良いのだろう。
俺以外の人が歩いている途中で止まっている。
店の中にいる客や店員、道路を歩いている猫も止まっていた。
「どうなってんだ?」
「はぁ、はぁ…っ」
人の荒い息遣いが聞こえる方に視線を向けると、頭から血を流しているネネがいた。
止まっている男に口付けをしながら、スマホをポケットにいれている。
何してんだ?
なんで、スマホをポケットに…。
そこまで考えた後、すぐにネネの意図が分かった。
スマホを見られたら困る相手…、それは椿恭弥しかいない。
と言う事は、椿恭弥が近くにいる。
ネネは俺がいる事を気付かずに、男から離れた。
真っ赤な髪を靡かせた男が、ネネの髪を乱暴に掴む。
オレンジダイヤモンドの瞳…、椿恭弥だ。
最後に会ったのは数年前だったな。
椿恭弥とネネの会話はよく聞こえていないが、椿恭弥のしようとしてる事だけは分かる。
ネネを殺す気だ。
だが、俺にはネネを助ける義理はない。
あの男の言葉だって、本当かどうか分からないのだ。
椿恭弥がトンカチを振り下ろそうとした瞬間、体が勝手に動いていた。
「ッチ、これっきりだからな。お前の事を助けんのは」
CASE 槙島ネネ
ドカッ!!
何かがぶつかったような鈍い音が聞こえた。
「おいおい、嘘だろ?ここで君が出てくる?晶」
ネイビー色の髪を靡かせて、持っていたヘルメットを使ってトンカチを叩く。
「お前、生きてんだな」
そう言って、椿恭弥が晶を睨み付ける。
「誰が死んだって?拓也さんのスーツ着て、何してんだ?テメェ。まさか、拓也さんの真似してんのか?」
晶の言葉を聞いた椿恭弥の眉間がピクッと動く。
「槙島!!大丈夫か!?」
「和樹…さ…」
「大丈夫じゃねーな、こりやぁ」
和樹さんはポケットからハンカチを取り出し、私の額に当てる。
私のJewelry Wordsの効力が切れたのか、止まっていた人達が動き出す。
こんな場面を見たら、騒動が…っ。
「椿様!!」
椿恭弥の後ろから、ピンク髪の女が走ってきているのが見えた。
「まずい、間に合ってっ」
私は懐中時計に付いているボタンを押した瞬間。
パァァンッ!!!
私の言葉を掻き消すように、発砲音が静かな空間に響く。
晶が素早くベレッタM92Fを構え、ピンク髪の女の頭に向かって引き金を引いていた。
ブジャァァァァ!!
女の額から真っ赤な血が噴き出し、その場で背中から倒れる。
時間を止めたおかげで騒ぎは起きず、私達と椿恭弥以外の人間達は再び動きを止めた。
「晶、僕の仲間を勝手に殺すのはよしてよ」
「最初から仲間だって思ってねーだろうが」
パシッ!!
椿恭弥は、隠し持っていたナイフを晶の腹に突き刺そ
うとしていた。
だが晶はナイフを持っている手を掴み、グイッと捻りあげる。
カシャンッ。
椿恭弥の手からナイフが離れ、晶は落ちたナイフを遠くに蹴飛ばす。
「本当っ、君には参るよ」
「テメェが俺に勝てるわけねーだろ」
パァァンッ!!
ベレッタM92Fの銃口を椿恭弥の左太ももに当てながら、晶は引き金を引いた。
カチャッ。
椿恭弥は体制を崩しながらも、持ってきていた銃を取り出し晶に向ける。
ドカッ!!
晶は素早く椿恭弥の腹に蹴りを入れ、距離を取るように後ろに下がった。
「晶…、どうして?」
晶の服を掴んで、縋るような形で見つめる。
信じられない。
今の状況は私にとって信じ難い光景だったから。
晶が私の事を助けてくれるなんて事があるの?
「お前とヨウの計画をこの男から聞いた。それに、お
前の事を助けてほしいって」
晶はぶっきらぼうな顔付きのまま、サラッと答える。
殺意の帯びた瞳ではなく、昔の時のように優しい瞳だ
った。
ヨウのJewelry Wordsの効力がなくなってると気付いた。
さっき、晶が言ったように和樹さんが話したからだ。
「悪い、槙島」
「予想外でしたよ…、晶に話したなんて」
アイツには悪いけど、正直言ってかなり嬉しかった。
「痛いなぁ、晶」
「テメェがボサっとしてっからだろ」
「だけど、僕がこの女だけを連れて来たと思う?」
まさか、椿恭弥はもう1人連れて来ていたのか?
「さっさと出てこい、殺気が漏れてんだよ」
晶はそう言って、椿恭弥の後方に視線を向けている。
刀袋から村雨を取り出している女子高生が、晶を睨み付けていた。
あの子、椿恭弥が拾った女の子だ。
椿恭弥の瞳はあの子から抜き取った物だった。
まずい、晶と戦わせるのは得策ではない。
「おい、男。警棒持ってんだろ、それを俺に貸せ」
「まさか、あの子とやり合うのか!?」
「たりめぇだろ。おら、さっさと貸しやがれ」
そう言って晶は和樹さんから警棒を取り上げ、警棒を伸ばす。
「椿様に怪我をさせたのは、お前?」
「だったら?」
晶の言葉を聞いた瞬間、女子高生は走り出した。
隠し持っていたナイフを晶は、女子高生に向かって投げ飛ばす。
キンッ!!
ナイフは女子高生の目の前で弾け飛び、晶は警棒を構える。
「四郎に聞いていた通りだな、当たらねーな」
「死んで下さい」
ブンッ!!
キィィィン!!
女子高生が振り下ろした刀を警棒で受け止め、晶はベレッタM92Fの銃口を向けた。
パァァンッ!!
キンッ!!
放たれた銃弾は女子高生の目の前で止まり、なんと跳ね返って来たのだ。
晶は軽々と避けるが、椿恭弥が隙を見逃す筈がない。
カチャッ。
パァァンッ!!
女子高生の攻撃を避けた晶に目掛けて、椿恭弥が引き金を引く。
ビュンッ!!
バキッ!!
晶は放たれた銃弾を持って来ていたヘルメットに当て、銃弾を防いだ。
その隙に女子高生が晶の背後に周り、刀を振り下ろす。
ブンッ!!
キンッ!!
女子高生の方を向かずに警棒で防ぎ、脇腹めがけて引き金を引いた。
パァァンッ!!
キンッ!!
放たれた銃弾を切り捨て、刀の刃の先を向けながら晶に突き刺さす。
「ッチ、めんどくせぇな」
椿恭弥と女子高生の2人からの攻撃を防ぎながら、2人に攻撃を仕掛ける。
「晶ちゃんは何者なんだ…?」
「それだけの場数を踏んできたのよ、晶は。1人でずっと、殺しの世界で生きてきたのよ」
晶は涼しい顔をしてベレッタM92Fの引き金を引く。
だけど、いつまでも晶が攻撃を喰らわない場面は続かなかった。
ズシャッ!!
真っ赤な血飛沫を上げながら、晶の右肩に刀の刃が貫く。
「晶っ!!」
「…フッ。脇腹が空いてんぜ、お嬢ちゃん」
そう言って晶は、女子高生の右脇腹にベレッタM92F
の銃口を突き付け、左脇腹に警棒で思いっきり殴り付けた。
パァァンッ!!
バキバキッ!!
左脇腹の骨の折れる音と右脇腹から血が噴き出す。
容赦なく晶は、女子高生の左太ももを警棒で強く叩き付ける。
ドコッ!!
「ゔっ!」
大勢を崩した女子高生の右脇腹を蹴り上げた。
晶の靴にべっとりと赤い血が付着し、蹴られた衝撃で女子高生の体が浮き上がる。
その瞬間、脳裏に映像が流れ出す。
椿恭弥が晶の背中に向かって引き金を引き、晶は避けられない。
女子高生が晶に向かって刀を投げ飛ばす。
晶は投げられた刀を避ける為に右に逸れる。
放たれた銃弾に当たった晶は、椿恭弥に連れてかれて
しまう映像が流れた。
「おい、男!!さっさとネネを連れて行け。そこにいても邪魔なだけだ」
「わ、分かった。槙島、立てるか?って…、槙島?」
「無理矢理にでも立たせろ!!俺はお前等の面倒まで見切れねーぞ!!」
晶は私の顔を見ずに大声を上げる。
ブンッ!!
女子高生は刀を晶に向かって投げ飛ばした。
「おい、槙島!!何してんだよ、早くここから…」
「和樹さん、ごめんなさい」
「えっ…、槙島!!?」
私は和樹さんの手を振り払い、晶の元に向かって走り出す。
『ネネ、お前は死ぬ気なのだな。あの女の為に、自分の命を賭けてでも守りたいのだな』
声のお爺さんは私の事を止めもしない。
私のしようとしている事は自殺も同然だ。
椿恭弥が晶の背中に向かって、銃口を向け引き金を引く。
パァァンッ!!
放たれた銃弾がスローモーションに見える。
晶はハッとした表情を浮かべながら後ろを振り返る。
私はドンッと力強く晶の背中を押し除け、前に立ちはだかった。
「おい!!」
晶の声が遠く聞こえ、視界が真っ赤に染まる。
ブシャァア!!
撃たれた衝撃で体が跳ね上がり、血飛沫が上がる。
燃えるように体が熱く、全身の血が噴き出す。
「これはこれは、まさか庇うとはねぇ…」
椿恭弥が私の姿を見てケラケラと笑い、ゴミを見るような視線を向ける。
この男は…、死ぬまで性格は治らないだろう。
懲りずに椿恭弥は私の後ろにいる晶に銃口を向ける。
「お望みの通り…、私は死んであげる。だけど、晶はだめ。殺させない」
カチカチカチカチッ!!
勢いよく懐中時計の針が周り出す。
懐中時計のネジを捻ると、目の前にいた椿恭弥と女子高生は姿を消した。
最後の力を振り絞って、2人をこの場から離れた場所に飛ばしたのだ。
「槙島!!!何してんだ馬鹿野郎!!」
倒れそうになった私を和樹さんは抱き支える。
ゆっくりと膝を地面に付け、楽な体制をとってくれた。
カタカタと手の震えが止まらない。
全身から血が流れ出す感覚と、暑いのか寒いのか分からない感覚に襲われる。
「なんで俺の前に出たんだ、ネネ」
晶が私を見てくれてる。
晶が私に声を掛けてくれてる。
それだけでも、晶を庇った甲斐があった。
「貴方の事を…、死なせたくなかったの」
「これがお前が望んだ死に方か?」
そう言いながら晶が膝を下げ、私の顔を覗き込む。
「俺に散々な事を言われても、好きだったんだな。そんで、俺を庇って死ぬのか」
晶は煙草を咥え火を付け、白い煙を吐き出す。
甘いチョコレートの香り。
ヨウと同じ煙草の香り。
「和樹さん…、私のスマホは処分して…下さい。椿…に取らないように…」
「槙島、そんな事まで考えんな!!今から救急車を…」
和樹さんが慌ててスマホを取り出そうとするが、晶が先に口を開く。
「やめとけ、呼んだ所で間に合わねぇ」
「なんで、君はそんな平然としてられるんだ!?」
「こう言う人間なんだよ、俺はよ」
晶の言葉を聞いた和樹さんは、言葉を探しているのか口を閉ざす。
震える手を伸ばすと、晶は優しく手を握ってくれた。
「晶…、好き、大好き。貴方が好き」
無意識に溢れる晶への想いが口から溢れ出す。
晶は黙って私の言葉を聞き、ずっと手を握ってくれた。
それだけで十分じゃないか。
「晶…、あきら…、永遠に愛してる」
そう呟いた瞬間、目の前が真っ暗になった。
「おい、槙島!?槙島っ!!しっかりしろ」
槙島ネネが意識を失った瞬間、八代和樹が泣きながら槙島ネネの名前を叫ぶ。
コトッ。
晶の手のひらに何かが落ちてきた感触がした。
視線を向けると、オブシディアンが2粒が握られていた。
槙島ネネが最後に、晶へ残した物だった。