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「まったくそうは見えなかったから、驚いたよ」
政宗がゆっくりと言った
桜は答えなかった、ただ目の前の肉まんを見つめながら、口だけをもぐもぐ小さく動かした
―最初はそうだったわ・・・―
ジンさんは・・・さざ波のような人、冷たくするのかと思えば、優しくしたり、そりゃ・・・いつも彼は優しかったけど、常に彼の周りには入って行けない領域があった・・・
グスッ・・・
「本当に大っ嫌い・・・」
口いっぱいにハムスターのように肉まんを頬張った桜がポロポロと涙をこぼした、拭おうともしなかった、泣いていることに自分でも気づいていないみたいだった
今の正宗は椅子の背もたれをおなかにあて、跨ぐように腰を下ろし、桜と向かい合っていた
背もたれを胸にぴたりと当てて持たれて、両腕をその上に重ねて乗せてじっと桜を見つめる
シャツの袖が少し捲れ上がり、漁で引き締まった前腕が露わになる、取り皿を引き寄せて、慣れた手つきで醤油をちょっと垂らす、まるでここが自分の家の茶の間であるかのような、自然な仕草だった
「小学生の頃・・・」
政宗が静かに口を開いた、声は低く、穏やかで、責める色が一切なかった
「旅館に帰りたくないって、ずっと運動場で暗くなるまで逆上がりしてたの、付き合ったの俺だよね」
桜の手が、ほんの少しだけ止まった、肉まんをもぐもぐしながら、表情がわずかにやわらいだ、昔の光景がじわりと浮かんでくるみたいに
「大学受験で女将さんと喧嘩して、コンビニの駐車場で・・・ずっとさきいか片手に君の愚痴を聞いたのも俺だ」
はにかみながら、政宗は肉まんをちぎって、桜の皿にどんどん置いていった
「君が実は沢山食べるのも」
むにゅっと肉まんを半分に割りながら、政宗が続けた
「肉まんに辛子をつけるのも、俺は知っている」
辛子をたっぷりつけた肉まんを、桜の方へそっと差し出した
「ハイ、どうぞ」
グスッ・・・
「ありがとう・・・」
桜は小さく礼を言って肉まんを受け取った、ぶっきらぼうに見えて、その「ありがとう」には感謝の思いがこもっていた、しばらく二人は黙って、向い合せで肉まんを食べた、淡路の潮風が窓から入ってきて、厨房独自の空気をゆっくりとかき混ぜた
「ジンさんは韓国人だから・・・日本人のクラちゃんとでは・・・分かり合えないことが多いんじゃないかな」
桜がハッと顔を上げると政宗と目が合った
「今後だってきっとすれ違う・・・君が悲しい思いをすると思う」
桜は何も言えなかった、なぜか「そんなことない」と言えなかった、それが、答えになっているみたいで余計に胸が痛かった
「俺なら、クラちゃんにそんな思いをさせない」
政宗の声が、一段と静かになった、静かなのに芯がある声だった
「連絡もこまめにして、不安にさせたりしない、何があっても隣にいる」
「でも――」
「ジンさんが今辛い境遇にいるのは、俺だってわかっている」
桜の言葉を、政宗は穏やかに引き取った
「でも俺は、クラちゃんが辛いのは嫌だ」
桜は信じられない気持ちで政宗を見つめた・・・この人はずっとこうだったと思った・・・
いつだって、静かにすぐそこにいた、逆上がりの夕暮れも、コンビニの駐車場も、さきいかの塩辛い夜も、ずっと隣で私の話を聞いてくれた・・・なのに自分はいつも、どこか遠くばかりを見ていた
政宗がまっすぐに桜を見た、逃げない目だった、揺れない目だった、幼い頃からずっとその目は変わらないと桜は思った、この人の目は、いつだって自分だけを見ていた・・・見てくれていた
桜は肉まんを持ったまま動けなかった、涙はまだ乾いていなかった、頬に残ったまま、ただ政宗の顔を見ていた、政宗は桜の口の横についている肉まんの破片を指でそっと取り除き、自分の口に入れた
二人は見つめあった
そして・・・やがて政宗が桜に言った
「俺と結婚しよう」
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コメント
3件
あらーー政宗まさかのプロポーズ💦 桜ちゃんが好きで大切なのは解る!けど…あーージンさん…桜ちゃんを置いて行かないでーー😭
今、それを言う?傷心につけ込んでOK貰えたとしても上手くいかないと思う。 桜ちゃん惑わされないでね。 ジンさんを本当に好きなら追いかけて行って欲しい。
くぁぁーっ😫そう来たか! 桜ちゃんちょっと待ったーー😱 政宗いい人だけど、そうだけど…だけど… ジンさん非常事態だよ〜🚨😭