数日掛けることでキスヴァス共和国を通過し、南西方面のメルキゾ王国に辿り着いた私たちは風の霊堂があるという方向へと進んでいく。
そしてついに冒険者や王国軍、聖教騎士団による連合軍が駐留しているという街――テサマラへとやってきた。
そこでまず教会に立ち寄ったのだが、入って早々に職員から縋りつかれてしまう。
「救世主様、丁度いいところへ!」
「ちょっ、落ち着いてください」
何やら困っているようで、詳しく話を聞いてみると周辺の活性化していた魔泉で本格的に異変が起こり、魔物討伐に出ていた冒険者の一団が予定時刻をとうに過ぎても戻って来ないそうだ。
そのため、私たちに捜索へ向かってほしいのだという。
「王国軍や騎士団だっているんですよね? 探しには行かなかったんですか?」
「それが……数日前から風の霊堂付近に邪魔が現れるようになりまして、彼らには霊堂の防護を固めてもらっているのです。それ以外の人員も周辺の各防衛線に配置されており、探しに行こうにも人手不足で……唯一、今朝から捜索に向かってくれた冒険者からも未だ連絡がありません」
聞けば、戻って来ない冒険者たちは魔物の数を減らす役割を負っていた人たちで、異変が感知されている中でも離れた場所にある魔泉へ向かったらしい。
ちゃんと守るのには人数がいるらしいし、これも仕方のないことなのかなと思う。
私はそこで教会職員との会話を切り上げると、振り返った。
「みんな、いいかな?」
真っ先に頷いたのはコウカとシズクで、次に頷きはしなかったものの同意を示してくれたのがヒバナとダンゴだ。
「最初から行くつもりだったんでしょ? だったら付き合うわよ」
「早く行って、その人たちを助けてあげよう!」
さらにはノドカとアンヤも遅れて意思を示してくれた。
「早くお仕事を~終わらせて~お昼寝しましょ~!」
「……アンヤは、いつでも行ける」
決まりだ。
まあこれは救世主としての仕事なので結果は決まっていたようなものなのだが。それでも、みんなの同意をきちんと得られたというのは心持的にも大きい。
「ありがとうございますっ!」
再度、正面へと向き直ると頭を上げた職員がいそいそと地図を広げてみせてくれた。
彼女は地図を指さしながら周辺の情報を簡単に教えてくれる。
「風の霊堂はこの場所です。そして防衛線はこのように。冒険者の一団はこの魔泉に侵攻したため、救世主様方はこの地点を目指しつつ道中の魔物、または邪魔を討伐していただければと思います」
思ったよりも広く展開しているらしい。これは霊堂周辺に魔泉が多いせいだ。元々の規模が大きくなくとも、数が多いとそれだけ広く展開しなくてはならなくなる。
だが、取り敢えず私たちがやらなければならないことは冒険者たちの捜索だ。
私たちは教会を出てそのまま西へ向かうと森を抜け、山を登っていく。
情報によるとここに風の霊堂があるらしい。
「あなたはまさか救世主様か……!」
山の頂上付近には武装した人々がおり、ここが正解であったと察する。
主に聖教騎士団から軽く歓迎される中、軽く挨拶を済ませた私は本来の目的通りに進行する旨を告げた。
彼らに見送られながら登ってきた方向とは別方向へと下山していき、その後は西へと向かっていくと、さらにいくつかの防衛線を抜けていく。
――そしてとうとう私たちは徘徊する邪魔と遭遇することとなった。
「邪魔です!」
「足を止めないように倒しながら進むよ! みんな、頼めるかな!」
コウカたち前衛組が矢面に立ち、攻撃を加えながらまっすぐ進んでいく。
後衛組のシズクとヒバナがそこに魔法攻撃を加えて、私の肩に掴まっているノドカもずっと索敵を続けてくれているようだ。
「ユウヒちゃん、邪魔たちは風の霊堂に向かっているわけじゃなかったね」
「うん。敵に場所がバレちゃっているわけじゃないのかな」
「多分。それでも大体の場所は掴まれているみたいだけど……」
風の霊堂周辺で同時に異変が起こったと聞いた時、私は風の霊堂の場所がバレてしまったために相手が襲撃を計画しているものだと考えた。
実際にシズクが言ったように凡その場所は割れてしまっているみたいだが、未だ相手は霊堂を捜索している状態のようだ。
「この異変、間違いなく意図的なものだと考えていいんだよね」
「異変が別の異変に誘発されることはあるみたいだけど、このタイミングは出来過ぎだよ」
ほぼ同時に起こるなどどんな偶然だという話だ。
しかしこれが意図的に引き起こされたものなら、これほど分かりやすくしたのは相手が迂闊だったか、何か策があるのか、それとも余裕の表れか。
何が理由だとしても、これ以上の何かが起こる可能性がある。警戒しておくに越したことはないだろう。
「えっと~何かが起こりそうってこと~?」
私に抱き着くようにして付いてきているノドカがそう問うてきた。
私がそれに頷き、シズクがノドカに言葉を伝える。
「もしかしたら邪族が絡んでいるかもしれないってこと、風魔法でみんなに伝えてもらっておいていいかな?」
「了解しました~!」
邪族か。
邪神側の存在で思考能力も邪魔のような動物ではなく、人間と同等以上のものを持っているという。
ミンネ聖教国の聖都ニュンフェハイムにおいて、コウカはその中でも四邪帝と呼ばれる1人と戦い、惨敗を喫したと聞いている。
どのみち、油断のならない相手だ。
◇
邪魔たちを蹴散らしつつ、西へ向かった私たちは目的の魔泉があるという森の前まで辿り着いていた。
「さてと、どうやって探すつもり? 取り敢えず中に入って、ノドカの索敵に任せる?」
「わたくし~頑張りますよ~。任せて~」
それもありだと思う。
その方が私たちは安全だし、本気を出したノドカの索敵能力ならそれほど時間も掛からないだろう。
でも今回は人命が掛かっている。命のタイムリミットが刻一刻と迫っているかもしれない中、1秒でも時間が惜しいのだ。
だから、空の上から探そうと思う。ノドカとのデュオ・ハーモニクスなら空の上を飛び回りつつ広範囲の索敵魔法も使える。
「ノドカとのハーモニクスで上から――」
そこまで言葉にした――その時だった。
突如として地面が揺れ、森の奥から大きな雄叫びと共に砂埃が空へと舞い上がっていく。
ごく自然と全員の視線がそちらへと誘導された。
「探す手間が省けたわね」
「でもあれは普通じゃないよ! 急がないと!」
間違いなく、誰かが大物の敵に襲われている。ダンゴの言うように、急いで向かわないと大変なことになるだろう。幸いにして、あの砂埃のおかげで場所は掴めている。なら後は最速で向かうだけだ。
私は彼女へと手を伸ばす。
「コウカ、一緒に駆け抜けるよ!」
「っ、はい!」
瞠目していたコウカだったが、私の意図を理解してくれたようで力強く頷くと私の手を取った。
「【ハーモニック・アンサンブル】!」
これが私とコウカの初めてのハーモニクスだ。
「――デュオ・ハーモニクス!」
私は右手に持った霊器“ライングランツ”を振り抜き、自分の体を見下ろした。
他の子たちとのハーモニクスのようにやはり服装も変わっている。この調子なら、恐らく髪の色と瞳の色もコウカと同じものへ変わっているだろう。
それにしてもこれ、いわゆるドレスアーマーと呼ばれる装備だろうか。
変わった装備だが、今はそんなことを気にしている場合でもない。幸いにも、動きを阻害するようなものではない。それどころか、寧ろ動きやすいくらいだ。
『すごい、これがハーモニクス。本当にわたしとマスターが1つに……』
――そうだよ、コウカ。これが私たち2人の力。私がコウカの全てを感じるようにコウカも私の全てを感じるでしょ。
『はい。今なら、どこまでも駆け抜けることができそうです』
コウカの強くてまっすぐな想い。それが私の心に訴えかけてくる。
大丈夫、私も迷いなんかない。
「私たちが先行する」
「すぐに追いかけるよ、気を付けてね」
シズクの言葉を受け取った私は体の中で魔力を圧縮して、ある1つの力を全力で解放する。
「眷属スキル《アンプリファイア》――オーバードライヴ! 【ライトニング・ステップ】!」
同時に魔力も解き放った私の世界が加速し、視界に光が広がっていく。
これがコウカの見ている世界。
『そして今はわたしとマスターが見ている世界です』
正面に木が見えたと思った瞬間には、私の体は脊髄反射でそれを避けてさらに先へと進んでいる。
森の中でどれだけ速く動こうが、私の目は正確にそれらを捉え、避けることができる。
眷属スキル《アンプリファイア》が私の思考速度、動体視力、反射神経などあらゆる感覚を拡張してくれている。
だからこの高速で景色が通り過ぎていく中でも私の目はそれらの流れを予測し、捉え、動くことができるのだ。
そして、そんなことを考えているうちに目的地に辿り着いてしまった。
高速で思考を回していたが、実際には10秒も掛かっていないだろう。
思考速度を上げているだけで体の動きを速めているわけではない。何とも不思議な感覚だが、そのうち慣れるだろうか。
「やぁああッ!」
すれ違いざまに私は声を上げながら、尻餅をついている男に向かって今にも繰り出されんとされる丸太のような黒い腕へと、両手に持ち替えた剣を振り下ろした。
それにより鮮血が舞うが、刃は腕の途中で食い止められてしまっている。
――スピードを乗せた一撃でも切り落とせないなんて、なんという硬さだ。
私は再び加速する中で初めて相対する相手の姿をしっかりと確認した。
額に生えている角に5メートルクラスの巨体。
『この敵は――』
間違いなく、オーガ系統の邪魔。それも最上級クラスだろう。さしずめ、オーガキングと言ったところか。
私とコウカで紡ぐ初めてのハーモニクスが戦う相手としてはこれほど相応しい敵もいないだろう。
あの時はコウカだけだったが、今は私も一緒に戦える。
『倒しましょう、わたしたちで!』
心の中で団結した私たちは木の間を潜り抜けながら再度、オーガキングへと肉薄する。だが先程と同じ轍は踏まない。
私は剣を振り下ろす瞬間に体内で魔力を圧縮させ、それを肩から腕、そしてライングランツに向けて解放した。
【ライトニング・ムーヴメント】。これは圧縮した魔力を解放することで一定の動きだけを加速させる魔法。
さらに若干ではあるが、腕力も増幅させることで純粋な力そのものも強化させている。
制御の難しい魔法でも、私とコウカが合わされば実現させられるのだ。そしてこの攻撃なら、確実に通せる。
振り下ろした刃は剛堅な肉体を切り裂き、遂に腕の1本を取った。
オーガキングが苦しげな声を上げるが、その隙を見逃したりはしない。
私は加速した状態で背後へと回りながら、十分加速できるだけの距離を取るとその巨体に剣先をまっすぐ向けて突撃する。
【ライトニング・インパルス】を使うほどでもない。エンチャントだけで十分だ。
狙うのは胴体の中心――心臓部。今の私たちなら貫ける。
背後から雄叫びを上げて突撃する私たちに敵は対応しようとするが遅い、遅すぎる。
『これがわたしたち――』
――2人の力だ。
両腕に衝撃が走ると同時に雷魔法を放出する。それと同時に黒い巨体に深々と突き刺さった剣から感じられた確かな感触。
心臓部を一突きされたオーガキングがゆっくりとその力を失い、崩れ落ちた。
そうして私の耳に音が戻ってくると同時に私は《アンプリファイア》を解除する。このスキルを全力で使用するのは思ったよりも疲れるらしい。
力の消費だけが原因ではない、これは身体的な疲労だ。情報の処理速度を上げているのだ。無理もないのだと思う。
このスキルもダンゴの《グランディオーソ》のように強化する範囲は調整できそうだから、それでどうにかするべきかもしれない。
少なくとも“オーバードライヴ”は徐々に慣らしていく必要がありそうだ。
「な、なにが起こった……」
「助かったのか……?」
声がした方に目を向けると、そこには尻餅をついた男の他に数人の男女がいた。恐らく、彼らが私たちの探していた冒険者たちなのだろう。
それにしては数が少ない……教会の人は冒険者の一団と言っていたはずだ。
まさか、もう彼らしか残っていないとでも言うのだろうか。
――そんな時だ、彼らの背後にある木の影から不意に邪魔化したオーガが現れたのだ。
今からでも十分間に合う。私はオーガを倒す為に駆け出そうとした――が中断せざるを得なかった。いや、もう必要なかったと言うべきだろうか。
風を切る音とともにオーガの首が落ちる。
冒険者たちもその音に振り返ると、崩れ落ちるオーガの傍から1人の女性が現れた。
「すごい音の後に光が見えたから急いで来たけど、原因はこのオーガじゃないよね。もう終わってしまったのかな?」
女性がこちらへ語り掛けながら陽の光の下へとその姿を晒した。
もう危険はないと判断したのか、2本の剣を腰の鞘に戻した女性は亜麻色の髪を揺らしながらゆっくりと歩いてくる。
そんな彼女の顔を見た私は思わず、目を見開いてしまった。
私はオーガキングに突き刺したままのライングランツを消失させ、立ち上がると同時に彼女へと問い掛ける。
「あなたは……アルマ?」
「君……もしかしてユウヒなのかい?」
驚いたような表情を浮かべる彼女の名前はアルマ。私がこの世界に来て間もない頃、少しの間だけだが行動を共にしていた冒険者の1人だ。
駆け寄ってきた彼女は私との再会を喜んでくれているようだった。
「久しぶり……本当に君なんだね」
「1年ぶりくらいかな。元気そうで安心したよ、アルマ」
それに随分と強くなったように思える。
不意を突いたとはいえ、さっきは邪魔化したオーガを一瞬で倒してしまったのだから。
「君のほうもまあ、噂はかねがね」
この言い回しだと、十中八九私が現在ではどういう立場なのかも知っているのだろう。
彼女は微笑みながら、その手で私の髪を掬い上げると言葉を続ける。
「この髪は染めたのかい? 随分と印象が違って見えたから、すぐには気付けなかったよ」
「ううん、染めたとかじゃなくってね」
そこで私は証拠を見せるためにコウカとのハーモニクスを解除しようとする。少し名残惜しそうにしながらもコウカもそれに応えてくれた。
魔力に包まれた私の姿が元に戻り、その傍に新たな人影が現れたことにアルマは目を丸くする。
「これは……いや、本当に驚いてしまってね。なんて言葉にしたらいいか……」
混乱した様子の彼女は悩む素振りを見せながらも口を開く。
「君がユウヒでいいんだよね……? じゃあ君は?」
そうか。私とコウカの顔は目付きと髪型、そして体系以外はそっくりだ。コウカと同じ色を纏った場合の私は彼女に限りなく近付くので、余計な混乱を招いてしまうのだろう。
それでもちゃんと見分けてくれたのは少し嬉しかった。
「コウカです。こうして話をするのは初めてですが、“久しぶり”でいいんでしょうか……?」
正面から見つめられているコウカは口元に笑みを浮かばせて対応する。
アルマはコウカの名前を呟きながら思慮に耽っていた。多分、その名前からこの子のことを思い出しているのだろう。
「あ……もしかして、あのちっちゃなスライムのコウカ? じゃあ、あのスライムの噂も本当だったんだ……」
まあ昔のコウカを知っている人ほど、今のこの子を見ると驚いてしまうだろう。気付けば、私よりも大きくなってしまっているのだ。
再会してからアルマは本当に驚いてばかりだ。
このままでは話が進まないので本題に進もうと思う。いや、その前に私からも個人的に聞きたいことがあった。
「ねえ、アルマは1人で来たわけじゃないでしょ? カリーノたちは?」
アルマはカリーノという妹と、彼女たちの幼馴染であるヴァレリアンと一緒に活動していたはずだ。
当然、ここに来たのも彼女だけというわけではないだろう。
「ああ、それなら――」
「お姉ちゃーん! そっちは終わったのー?」
「噂をすれば、だね……カリーノ、こっちだよ!」
懐かしい。カリーノの声だ。小さい体でちょこちょこ動き回る元気な女の子。私のことは覚えてくれているのだろうか。
そんなことを考えながら近づいてくる足音に期待を膨らませる。
――そして、その少女は亜麻色の髪を揺らしながら現れた。
「カリーノ……?」
「ん? えーっとえーっと……あ、ユウヒさん!? 久しぶりだねぇ!」
だが本当に彼女はカリーノなのか。
いや、声は間違いなくカリーノなのだ。でも確信が持てないのには理由があった。
それは体の大きさだ。あんなに小さかったのに目の前にいる少女は私と同じくらいの大きさなのだ。
「ははは、今度は僕の方が君を驚かせられたみたいだ。カリーノも成長期だからね。1年あればこれくらい伸びるさ」
「えへへぇ」
そう言って愛おしげにカリーノの頭を撫でるアルマ。
普通はここまで伸びない気もするが、姉である彼女も大きい方だし、流石は姉妹だと言ったところか。
「ところでその子はどうしちゃったのかな」
「え……?」
アルマが示しているのは私の後ろだ。
振り返る――までもなく肩を掴まれている感触で何となく察しはしたが、改めて首を回して後ろを見遣る。
そこにはやはり、私の体を盾にするようにして己の体を隠そうとするコウカがいた。
「もう、何やってるの……」
「あの子は苦手です……このまま隠していてください……」
あの子、というのはカリーノか。
苦手な理由も何となくではあるものの理解できる。要は1年前、小さなスライムだった頃に弄ばれていたのが堪えたのだ。
隠れるなら、木の陰にでも隠れていたほうがマシだっただろうに。
ただでさえ私よりも少し大きな体をしているのに、それを小さく縮こまらせて頑張って隠れている。だが、その努力も無駄に終わりそうだ。
残酷にも、軽快な足音が迫ってくる。
「ねぇねぇ、あなたはどなた? どうして隠れてるの?」
「ひっ、もっとちゃんと隠してください!」
――もう遅いと思うけど……。
私はため息をつくとコウカをカリーノの前に差し出した。
コウカも心配し過ぎなのだ。
1年前とは違って力関係で言うと完全にコウカの方が上だろうし、何ならあのコウカだとこちらから言わなければカリーノも無理な絡み方をしてこないだろう。
好奇心旺盛だが、分別のない娘ではなかったということは記憶している。
「あれ……ユウヒさんにそっくり?」
「その子、コウカなんだって。ほら、前にカリーノが気に入っていた黄色いスライムだよ」
バレないだろうと高を括っていたのだが、アルマが何の躊躇もせずにネタバラシをしてしまった。
彼女の言葉を聞いた瞬間、カリーノの目の色が変わる。
「えっ!? あの時のスライムさんなの!? 本当なの、ねぇ! どうやってそんな姿になったの!? どうしてユウヒさんとそっくりなの? なんでなんで!?」
「うわぁぁ!?」
スライムだと分かるや否や接し方が完全に1年前と同じになる。
これは差し出したのは失敗だったかと振り返るが、どうせ遅かれ早かれこうなっていたはずだ。
――そうして、この場にまた新たな声が増える。
「うわっ、あのコウカねぇが手玉に取られてる」
「なんだか楽しそうなことしてるね! ボクも混ぜてよ!」
どうやらあの子たちが合流したようだ。
この光景に目を丸くするヒバナだったが、そんな彼女よりも前にいたダンゴはコウカにじゃれつくカリーノに混ざりに来ている。
2人に纏わりつかれているコウカは適当に放置しておき、その間に他のみんなの紹介を済ませた後にアルマと真面目な話をする。
助けた冒険者たちだってこの光景には呆気に取られているのでこのままでは可哀そうだ。
「私は救世主っていうのをやらせてもらっているんだよね。ここに来たのは教会の人からこの森で行方がわからなくなった冒険者たちを捜索してほしいって言われたからなんだけど、アルマたちは?」
「僕とカリーノ、そしてヴァルがここに来たのも冒険者の捜索を頼まれたからさ。僕たちの場合は教会じゃなくてギルドからの依頼だけどね」
教会の職員が言っていた、捜索に当たってくれている冒険者というのはきっとアルマたちのことだったのだろう。
詳しく聞いてみれば、彼女たちが街に着いたのは今日の朝だったため、防衛戦力には組み込まれていなかったとのことだ。
アルマは話が一段落ついたところで冒険者たちへ声を掛ける。
「君たちと一緒にいた冒険者たちは無事だよ。今頃、僕の仲間と一緒にこの森を抜けている頃だろうさ」
彼らがホッと息をついた。途中で逸れたらしいが、彼らとしても仲間の安否は心配だったのだろう。
「さて帰ろうか。そこに倒れているキングの件といい、色々と聞かせてほしいしね」
ウインクをした彼女が親指でさしたのは私とコウカで倒したオーガキングだ。この1年で私たちは大きく変わったのだ。それは彼女も同様だろう。
私の大切な子たちも名前だけじゃなくてちゃんと紹介してあげたいところだ。
◇◇◇
ここは風の霊堂に最も近い街、テサマラ。そこにあるミンネ聖教の教会に1人の少女が訪れる。
赤みの掛かった茶髪をおさげにしている少女を見て、教会の職員が少々訝しそうに声を掛けた。
「救世主様……? いかがなさいましたか?」
少女は嗤う。
「えーっと……あたし、霊堂の場所をど忘れしちゃって――」
ギラリ、と少女の瞳の奥が妖しく煌めいた。