テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
波野🐏
168
135
コメント
3件
うー、、苦しい😿 でも続き楽しみに待ってますね
苦しいっすね 、でも読む手が止まらない..... ! ! ! 凄い今点と点が繋がってってさらには真実まで分かってきてるから更新が楽しみです ! !
片付けを続けていると、
若井の手がふと止まった。
「……これ」
棚の中。
透明なケースに、写真が大量に入っている。
元貴も隣から覗き込む。
「……うわ」
そこにあったのは、
ほとんど全部、
若井と元貴の写真だった。
「……俺じゃん」
若井が掠れた声で笑う。
レコーディング中の横顔。
ギターを弾いてる姿。
眠そうにコーヒーを飲んでる写真。
元貴も同じだった。
歌詞を書いてる時。
机に突っ伏して寝てる時。
ご飯を食べながら笑ってる時。
どれも、
本人たちが知らない間に撮られていた写真ばかり。
「……」
元貴が一枚手に取る。
スタジオで笑っている若井。
ピントは少しブレてる。
でも、
撮った人がその瞬間を大事にしてたのは伝わった。
「……こんな撮ってたんだ」
元貴が小さく呟く。
若井は何も言えない。
写真の量が、
涼ちゃんにとって2人がどれだけ大切だったかを、
嫌でも伝えてきた。
「……っ」
若井は目を逸らす。
苦しい。
⸻
その時。
元貴がゴミ箱の前で動きを止めた。
「……若井」
低い声。
「ん?」
「……これ」
元貴がゆっくり中を見せる。
そこには、
大量の薬の空箱が入っていた。
飲み終わったシート。
処方箋の袋。
何個も、
何個も。
「……」
若井の顔から血の気が引く。
「……こんな飲んでたの」
掠れた声。
元貴は静かに袋を見つめる。
「……多分」
少し間を置いて、
「……隠してたんだろうな」
「……」
全部。
2人に心配かけないように。
「……っ」
若井はその場にしゃがみ込む。
「あいつさ」
涙声。
「……俺らに普通に笑ってたじゃん」
「……」
「しんどかったはずなのに」
元貴も唇を噛む。
薬の量が、
涼ちゃんがどれだけ1人で耐えていたかを物語っていた。
怒ってるわけじゃない。
苦しくて仕方ない声だった。
静かな部屋。
その中で、
写真の中の涼ちゃんだけが、
変わらない笑顔で2人を見ていた。
「……あれ」
元貴がふと眉を寄せる。
薬の入っていた引き出し。
そこを見つめたまま動かない。
「……どうした」
若井が聞く。
元貴はゆっくり引き出しの中を見せた。
「……空なんだよ」
「……え」
中には何も入っていない。
整理されたケースだけ。
さっきゴミ箱で見つけた大量の空箱。
それなのに、
肝心の薬が一つも残っていない。
「……」
元貴の顔色が変わる。
「……若井」
低い声。
「これ、変だね」
若井も息を止める。
「……」
数秒の沈黙。
そのあと元貴は急に立ち上がった。
「……ちょ、元貴?」
「下行ってくる」
「は?」
「ゴミ」
それだけ言って、元貴は部屋を飛び出した。
⸻
マンションのゴミ収集コーナー。
積まれたゴミ袋の中で、
元貴はひとつの袋を見つける。
見覚えのあるロゴのコンビニ袋。
涼ちゃんの部屋にいつも置いてあったやつ。
「……」
元貴はそれを持って部屋へ戻った。
若井が立ち上がる。
「……何」
元貴は無言で袋を床へ置く。
そして、
ゆっくり中を開けた。
「……っ」
若井が息を呑む。
中から出てきたのは、
大量の薬。
未開封。
まだ飲まれていないシート。
処方されたままの袋。
数え切れないほど。
「……なんで」
若井の声が震える。
「……飲んで、なかったのかよ」
元貴は薬を見つめたまま動かない。
涼ちゃんはずっと、
ちゃんと治療しているように見せていた。
でも本当は。
「……」
元貴が小さく息を吐く。
「……諦めてたんだな」
その言葉が重く落ちる。
治したいんじゃなくて、
終わる準備をしていた。
だから部屋を綺麗にして、
遺書を書いて、
最後に2人へ電話をかけた。
「……っ」
若井はその場に座り込んだ。
しばらく部屋の空気は重かった。
誰も喋れない。
「……」
その空気を変えるみたいに、
若井が棚の奥へ手を伸ばす。
「あ」
小さく声を漏らす。
「ん?」
元貴が振り向く。
若井の手には、
ボロボロのゲームソフト。
「あーーー……」
元貴が少し笑った。
「懐っっ」
「これ涼ちゃんん家でめっちゃやったやつじゃん」
若井も苦笑する。
ケースには謎のシールが貼られていて、
角もかなり擦れている。
「徹夜してたよな」
「してた」
「しかも涼ちゃん負けるとガチで黙る」
「ははっ、分かる」
久しぶりに、
少しだけ自然な笑いが零れた。
「……」
元貴はそのソフトを見ながら、
静かに息を吐く。
ほんの少し前まで、
ここに本人がいた気がしてしまう。
⸻
その後も、
部屋からはいろんなものが出てきた。
昔ライブで使ったパス。
3人で撮った変顔写真。
コンビニのレシートに描かれた落書き。
「……何これ」
若井が笑う。
「元貴の顔じゃん」
「え、きも」
「涼ちゃん絶対暇だったろこれ描いたの」
ふふ、と小さく笑い合う。
でも笑った直後、
急に静かになる。
“もう新しく増えることはない”
その現実が、
笑うたびに胸へ刺さる。
「……あ」
元貴が段ボールの中から何かを取り出す。
「これ」
若井が目を丸くする。
「うわ、やば!!」
それはかなり昔の写真。
まだ若かった頃。
3人とも髪型も雰囲気も今と違う。
「……若井細」
「元貴も若い」
「涼ちゃん今と顔あんま変わんな」
「確かに」
小さく笑う。
写真の中の涼ちゃんは、
無邪気に笑っていた。
「……」
若井はその写真をしばらく見つめる。
それから、
ぽつりと呟く。
「……もっと撮っとけばよかったな」
「……」
元貴は返事ができなかった。
部屋の中には、
涼ちゃんとの思い出が溢れていた。
楽しそうな時間の痕跡ばかりで、
それが逆に苦しかった。
次回2000