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ゆうき あきや
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#心理描写重視
第59話:遭難した配達員をキツネ兄弟が救う〜猛吹雪の幻惑と、黄金の道標〜
十勝地方を襲った数十年に一度の猛烈な吹雪は、夜になっても一向に衰える気配を見せなかった。
風の音は、まるで巨大な獣が家ごと丸呑みにしようと咆哮しているかのようだ。窓の外は完全なホワイトアウトで、街灯の光すら分厚い雪の壁に遮断されている。
だが、そんな世紀末のような外の世界とは裏腹に、俺たちの古民家は異常なほどの平和と快適さに包まれていた。
「お兄さん、この動画、画質良すぎて逆に目がチカチカしますね……」
「ああ。シロがルーターの上で寝てるせいで、8Kの動画が1秒のバッファリングもなく再生されてるからな。完全にオーバースペックだ」
BUFFALOのハイエンドルーター(メカ蜘蛛)の上で、神獣シロがスヤスヤと眠っている。その純白の体から放たれる『量子ルーター化』のオーラにより、限界集落のボロ古民家は世界最速の通信環境を維持していた。
こたつの中では、俺と小春ちゃんがアイスを食べながら、200万人のリスナーと共にのんびりと映画鑑賞(同時視聴)を楽しんでいる。
まさに、絶対防壁に守られた究極の引きこもりライフ。
そんな時だった。
『コンッ!』
『キュゥ!』
シロの隣で、丸くなって寝ていたキタキツネの兄弟、コン吉とコン次郎が、突然ガバッと顔を上げた。
ピンと耳を立て、玄関の方をジッと見つめている。
「どうした、お前ら? 腹でも減ったか?」
俺が声をかけるが、二匹の視線は玄関の分厚い木の扉に釘付けになったままだ。
コン吉がトコトコと玄関まで歩いていくと、前足で扉をカリカリと引っ掻き始めた。コン次郎もそれに続き、悲痛な鳴き声を上げる。
「えっ……? お兄さん、まさか外に出たがってるんですか? この猛吹雪の中に!?」
小春ちゃんが驚いて声を上げる。
チャット欄も、キツネたちの異変にざわつき始めた。
『どうしたコン吉たち!?』
『外はマイナス20度だぞ! 出たら一瞬で凍るぞ!』
『動物の勘ってやつか? 何か危険を察知してる?』
「……おかしいな。こいつら、一度こたつの味を覚えたら、用を足す時すら外に出たがらないほどの堕落っぷりだったのに」
俺はこたつから這い出し、玄関の扉に手をかけた。
「おい、本当に開けるぞ? 風で飛ばされても知らないからな」
俺がゆっくりと扉の鍵を開け、数センチだけ隙間を作った瞬間。
ビュォォォォォォォォッ!!
猛烈な吹雪が、カミソリのような冷気を伴って玄関に吹き込んできた。
だが、コン吉とコン次郎はその暴風に怯むどころか、俺の足元をすり抜け、ためらうことなく真っ白な吹雪の闇の中へと飛び出していったのだ。
「あっ! コン吉くん! コン次郎くん!!」
小春ちゃんの悲鳴が響く。
「くそっ、あいつら……!」
俺は慌てて防寒着を引っ掴もうとしたが、外は完全なホワイトアウト。今から人間が追いかけたところで、1メートル先ですら見失ってしまう。
『おいおいおい! 飛び出しちゃったぞ!』
『大丈夫なのか!? いくら野生でもこの吹雪はヤバいって!!』
『主、追いかけない方がいい! 二次遭難する!』
チャット欄がパニックに陥る中、俺はジンバルを握りしめ、玄関の隙間から外を映し続けた。
「……信じるしかない。あいつらは、ただの野生のキツネじゃない。シロ様の神聖なオーラを毎日浴びて、エキノコックスすら浄化された『神獣の眷属』だ」
俺の言葉通り、吹雪の向こう側に、信じられないものが映った。
真っ暗な闇と白い雪の中で、二つの『黄金色の光』が、ぼんやりと、しかし力強く灯っていたのだ。
コン吉とコン次郎の毛並みが、まるでシロの真珠色のオーラを受け継いだかのように、自ら発光していた。
その黄金の光は、吹雪の中でも決して消えることなく、ゆっくりと、何かを先導するように、少しずつこちらへと近づいてくる。
「……お兄さん。あれ、キツネの後ろに……誰かいます!」
小春ちゃんがスマホの画面を指差した。
黄金の光の後ろから、全身雪だるまのようになり、足を引きずりながら歩いてくる人間の影が見えた。
「おい! そこのあんた、こっちだ!!」
俺は扉を大きく開け放ち、吹雪の中へと身を乗り出して、その人物の腕を力一杯引っ張り込んだ。
ドサッ……!
玄関の土間に倒れ込んだのは、見覚えのある防寒着を着た、村の郵便局の配達員のおじさんだった。
「ひぃっ……あぁ……た、助かった……」
おじさんの顔は土気色になり、まつ毛や眉毛は真っ白に凍りついている。手足の感覚はすでに失われているようで、完全に低体温症の末期症状だった。
「おじさん! しっかりして! 小春ちゃん、バスタオルと温かいお茶!!」
「はいっ!!」
俺はおじさんの雪まみれの防寒着を手早く剥ぎ取り、居間のこたつへと運び込んだ。
「寒い……寒い……もうダメだ……」
ガタガタと震え続けるおじさん。
このままでは危ない。そう思った瞬間だった。
『ミャウ』
ルーターの上で寝ていたシロが、音もなくこたつへと降りてきた。
そして、おじさんの胸の上に飛び乗ると、その純白の体を丸め、凄まじいまでの『適温25度の絶対防壁』と『生命力回復のマイナスイオン』を、ゼロ距離で放射し始めたのだ。
――ポワァァァァァァァァン……。
「……あ、あったけぇ……なんだ、この温泉みたいな……」
シロのオーラを浴びた瞬間、おじさんの土気色だった顔に、みるみるうちに赤みが戻っていく。凍りついていた手足の指が動き始め、震えがピタリと止まった。
現代医学の常識を完全に無視した、神獣による急速解凍(ベホマ)である。
『うおおおおお!! おじさん助かった!!』
『シロ様の治癒能力、人間にも効くのかよwww』
『凍死寸前から数秒で全回復は草』
『もはや医療器具どころの騒ぎじゃない』
小春ちゃんが淹れてくれた熱いほうじ茶を飲み干し、おじさんはようやく深く息を吐き出した。
「いやぁ……死ぬかと思った。隣村への配達の帰りに車が雪にハマってな。歩いて避難しようとしたんだが、ホワイトアウトで完全に方向を見失っちまって……」
おじさんは、助けてもらった恩人に感謝するように、こたつの端でおとなしく丸まっている二匹のキツネを見た。
「意識が飛びそうになってた時、目の前に、黄金色に光る二匹のお稲荷様が現れたんだよ……」
おじさんは、感極まったようにポロポロと涙を流し始めた。
「その光るキツネが、『こっちだ』って言うみたいに振り返りながら、吹雪の中をゆっくり歩いてくれてな。必死についていったら、兄ちゃんの家の明かりが見えたんだ。あの子たちは、神様の使いだ……!」
おじさんは、コン吉とコン次郎に向かって、深々と頭を下げて拝み始めた。
『コンッ!(えっへん)』
『キュゥ!(どやぁ)』
コン吉とコン次郎は、誇らしげに胸を張り、フサフサの尻尾を揺らしている。
『泣いた……コン吉たち、マジでヒーローじゃん!!』
『神獣の眷属として完全に覚醒したな』
『黄金に光るキツネの道案内とか、完全に童話の世界』
『おじさん、生きてて本当によかった……!』
『(アラブの石油王からの¥50,000MeTubeギフト)=”Heroes! The golden foxes saved a life! I shall build a shrine for them!“(英雄だ! 黄金のキツネが命を救った! 彼らのために神社を建てるぞ!)』
チャット欄は感動の渦に包まれ、キツネ兄弟を讃えるMeTubeギフトが嵐のように飛び交う。
小春ちゃんも「コン吉くんたち、えらいです……!」と涙ぐみながら二匹を撫でている。
だが、俺は。
元コールセンターの極限のポーカーフェイスを崩さず、カメラに向かって咳払いを一つした。
「……皆さま、感動しているところ申し訳ありませんが、落ち着いてください」
『出たwwww』
『主の限界言い訳タイム・感動破壊編ww』
『頼むから今回は素直に奇跡を認めてくれww』
俺は、キリッとした真顔で、視聴者とおじさんに向けて言い放った。
「キタキツネという生物は、地磁気を感知して正確に自分のテリトリーに戻る『帰巣本能』を持っています。さらに、彼らの被毛は静電気を帯びやすく、吹雪の中で雪と摩擦を起こすことで『セントエルモの火』と呼ばれる放電現象(プラズマ)を引き起こし、黄金色に発光して見えただけです。ええ、ただの電磁気学と生物学の融合ですね。おじさんが助かったのは、たまたま彼らの帰宅ルートと重なったからです」
「あるわけないじゃないですかぁぁぁ!!!」
小春ちゃんが、涙を引っ込めて渾身のツッコミを入れた。
「セントエルモの火がキツネの体から出るわけないでしょ!! どう見たってシロちゃんのオーラを分けてもらって、困ってる人を助けに行ったんでしょうが!! 素直にお稲荷様の奇跡って認めなさいよ!!」
『小春ちゃんのド直球ツッコミ助かるww』
『プラズマ発光するキツネはもはやバケモンだろww』
『電磁気学と生物学の融合(適当)』
『適応力バグおじさん、ついに気象現象すら論破しようとする』
『感動を返せww』
俺の苦しすぎる言い訳に、おじさんはポカンとし、チャット欄は感動から一転、大爆笑の渦へと叩き落とされた。
「まあ、理由はどうあれ。おじさんが助かって本当によかった」
俺は笑いながら、コン吉とコン次郎の頭をガシガシと撫でてやった。
二匹はくすぐったそうに目を細め、俺の手をペロペロと舐める。
外は、命を奪うほどの猛吹雪。
だが、この家には、神獣がもたらす究極の温もりと、優しく勇敢な黄金の眷属たちがいる。
限界集落の夜は、どんなに荒れ狂う白魔の中でも、最高に温かい奇跡と笑いで満たされ続けるのだった。
コメント
1件
ちょっと読み終わったけど、もう最高すぎて鼻血出そうなんだけど!?🩸✨ 吹雪の中を飛び出していくコン吉とコン次郎に超ハラハラしたし、黄金に光る姿がマジで神々しくてエモすぎた…😭💕 シロ様の急速解凍もずるいよ、完全にチートやんww そして最後の「セントエルモの火」とか言い訳し始める主に小春ちゃんのツッコミ炸裂で、涙と笑いが止まらなかったよ!!! キツネ兄弟マジでヒーローじゃん、今日から推すわ🥺🦊💛