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#戦乙女
眠狂四郎
ヒデヨシはショウリュウジ城に入った
「よくぞミツヒデの手から逃れ
見事お父上の敵を討たれましたな」
ヒデヨシは今にも感極まった泣かんばかりで
両手でノブタダの腕をつかんだ
「この者のおかげじゃ」
ノブタダはサイラスをヒデヨシに紹介する
「紅毛人とな!」
ヒデヨシはびっくりした面持ちとなったが
すぐにミツヒデ残党の掃討の話となった
キョウでノブナガ公の墓前で
ミツヒデの首を供えた後
タンバ方面はヒデヨシ、
キョウ・ミナミオウミはノブタダ軍と決まった
キタオウミはすでにカツイエが入っていた
カツイエから使者がきて
アズチにて合流する旨
述べられてあった
ノブタダと別れた後、
ヒデヨシはカンベエをよんだ
「ノブタダの使者を追い返したのはまずかったかの」
「まさかこのような事態になるとは」
「で、どうする?」
「こちらをご覧ください」
カンベエは3つの書状を差し出した
「チュウゴクのテルモト、シコクのノブチカは
我が軍門に下るとのこと」
「そしてイエヤスはカイ・シナノの領有を認めさえすれば
こちらにつくそうです」
ヒデヨシは目をつぶり
考えをめぐらす
「殿はいまや、キョウより西、十か国のこの国最大の
ダイミョーです」
「加えて今このキョウ周辺に二万の軍を擁しております」
「カツイエ軍はキタオウミに五千、
ノブタダ軍は三千、しかも領国経営のためギフに
戻ることが予想されます」
「ミツヒデではありませんが、これは好機かと」
「いま、両者を葬れば、殿に逆らえるダイミョーなど
この国におりませぬ」
ヒデヨシは、ゆっくりと目を開いた。
先ほどまでノブタダの手を握り、涙さえ浮かべていた男の顔は、もうそこにはなかった。
その瞳の奥で、消えかけていた野心の火が、再び燃え上がっていた。
「……カンベエ」
「はっ」
「カツイエとノブタダ。二人とも、邪魔となるか」
カンベエは、ためらわず答えた。
「なりますな」
「時間を与えてはなりますまい」
沈黙が落ちた。
やがてヒデヨシは、低く笑った。
「失敗すればミツヒデ以上の大悪党ぞ」
「それでも、か」
「ならば、弔い合戦は終わりじゃ」
その声には、もはや涙の色などなかった。
「これより先は――天下取りじゃ」
大乱の第二幕が、静かに幕を開けようとしていた。
ノブタダは、焼け落ちたホンノウジの跡に立っていた。
まだ燻る瓦礫の中に、ミツヒデの首が供えられている。
しばし無言でそれを見つめた後、ゆっくりとサイラスに向き直った。
「……いろいろ、かたじけない」
「いえ。お役に立てたのなら、何よりです」
ノブタダは、わずかに目を伏せた。
「父には……会わせられなかったな」
その声音には、かすかな悔いが滲んでいた。
サイラスは、何も言わず一礼する。
やがてノブタダは顔を上げ、いつもの冷静さを取り戻す。
「一度、サカイへ戻るのだな」
「はい。遭難した仲間の行方――何か知らせが届いているかもしれません」
「そうか」
短く頷く。
「何かわかれば、アヅチまで知らせてくれ」
「承知しました」
ほんの一瞬、沈黙が落ちた。
「……では、アヅチでまた会おうぞ」
「はい」
言葉はそれだけだった。
だが互いに、それで十分だった。
ノブタダは馬を返し、オウミへ――サマノスケ軍討伐のために出立する。
サイラスは、静かに背を向け、サカイへの道を歩き出した。
焼け跡に残る煙だけが、二人の別れを見送っていた。
オオツにてサマノスケの軍を撃破すると、
ミナミオウミの掃討は滞りなく進んだ。
やがてノブタダはアヅチへ入城し、
各軍団長へ――アヅチ会議招集の使者を放った。
翌日。
カツイエが、アヅチに入城した。
「……よくぞ、よくぞご無事で……!」
対面するなり、カツイエは声を詰まらせた。
「しかも、早々にお父上の仇を……」
言葉は途中で崩れ、あとは嗚咽に変わる。
大将ともあろう男が、憚ることなく涙を流していた。
「ウオズでは、いまだ戦が続いております……」
必死に言葉を継ぐ。
「ミツヒデ討伐に間に合わなかったこと、
このカツイエ、一生の不覚……!」
深く頭を垂れる。
ノブタダは、静かにそれを見下ろした。
「気にすることはない」
短く、しかしはっきりと言い切る。
「北の要――カツイエなくして、
このノブタダはおらぬ」
その一言に、カツイエは顔を上げた。
だが次の瞬間、再び涙を溢れさせる。
「……ありがたき、幸せ……!」
ノブタダはわずかに頷き、続けた。
「儂は一度ギフへ戻る。軍団を再編する」
「はっ」
「その後、キョウへ入る」
一拍置く。
「将軍宣下――そして」
その目が、遠くを見据えた。
「中座した“天下布武”の再開じゃ」
カツイエは、深く、深く頭を垂れた。
「このカツイエ、命の限りお支えいたしまする!」
「ノブナガ公亡き後――このヒデヨシが、天下統一を成し遂げてみせる!」
ヒデヨシが二万の軍勢に檄を飛ばすと、
その進軍は――まさに神速であった。
オオツ。
アヅチ。
ナガハマ。
まるで無人の野を駆けるかのごとく、
一気呵成に北へと突き進む。
その報は、ギフのノブタダのもとにも届いた。
「……ヒデヨシが、動いたか」
静かな声だった。
「あの男……速すぎるな」
「受けて立つしか、あるまい」
短く、それだけを言い切る。
一方――
「サルめが……いよいよ本性を現しおったな」
カツイエは、シズガタケに本陣を構えて迎撃の体制を引いた
山と湖に挟まれた要害。
ここで迎え撃つ構えである。
「イガのカズマスへ使者を送れ」
「はっ」
「ヤマトへ侵攻させよ。ヒデヨシの兵を割かせるのじゃ」
さらに――
北へ通じる街道の入口には、猛将モリマサを配置した。
狭隘な山道。
兵数ではなく、武がものを言う戦場。
寡兵の山岳戦――
それは、まさにカツイエの土俵であった。
「……後は」
カツイエは、遠く南を見据える。
「ノブタダ様の軍を待つのみ」
その目に、揺らぎはない。
「来たれば――決戦よ」
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