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ダンディー・ダーリン「年上の彼と、甘い恋を夢見て」

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ダンディー・ダーリン「年上の彼と、甘い恋を夢見て」

22 - スーツが似合う年上の彼に、ときめいて惑わされて -2-

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2024年07月05日

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……車の中で、しばらく沈黙が続いた後、


「さっきは、気をつかわせてしまったな……」


蓮水さんがぽつりと口にした。


「いえ、そんなことは……」


深い哀しみが伝わるようで、ゆるゆると首を横に振る。


「もう、10年も経っていたのか……」


その頬をつと涙がつたったのが視界の端に映って、


「……あの、大丈夫でしょうか」


思わず声をかけると、


「あ…すまない…」


と、手の平で無造作に涙を拭った。


そのまま両方の目頭を人差し指と親指で押さえると、今にもまた流れ落ちそうになる涙をこらえるように顔を上向けた。


「……そんなにも、愛していられたんですね……」


私の言葉に、「ああ」とだけ短く頷くと、


「……いつの間にか、そんなにも時が過ぎていたんだな……。4つほど年上だった妻と一緒になったのが、まだ昨日のことのようで……。……妻を亡くしてから、とにかく会社を大きくしようとがむしゃらに仕事に打ち込んできたんで、年月の経過には今まであまり気づかずにいたんだ……」


小さく息を吐いて、そう言葉を続けた──。


この人は、どんな思いで10年という歳月を過ごしてきたんだろうと考えると、私まで涙がこぼれそうになった。


「街のテーラーの一店舗でしかなかった”HASUMI”を、ここまで大きく出来たのも、妻の力添えがあってだったからな……」


きっと二人で支え合いながら、会社を成長させてきたんだろうなとしみじみと思う。


「だから、妻の忘れ形見でもある息子に、会社をいい形で託してやれたらと思うあまり、今まで後ろを振り返っている暇もなかったんだ……」


掠れた声で口にすると、ふぅーっとひと息をついて、


「……。……私が車に乗らないようになったのも、」


と、切り出した──。


「車に乗らなくなったのは、妻を事故で亡くしたからなんだ。この車での事故ではなく、一人で買い物に出かけた先での交通事故だったんだが、それから私は自分でハンドルを握ることが恐くなってしまった……」


哀しげに歪んだ顔を両手で覆い隠す彼に、『私も、以前は自分で車を運転していたんだが……』そう言いかけて、口をつぐんだ時のことが、にわかに思い出された。


「……つまらない話をして、すまなかったな」


謝罪の言葉が投げかけられて、


無言で何度も首を振った。謝ったりなんてしないでほしいと思った。


「……こんな話を、誰かにしたことなどなかったんだが……」


ふと呟かれたその言葉に、図らずも心が触れ合えた証しとして、私に話してくれたことを大切に受け留めたいとも感じた……。

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