テラーノベル

テラーノベル

テレビCM放送中!!
テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

ゆうれい都とナギ

一覧ページ

「ゆうれい都とナギ」のメインビジュアル

ゆうれい都とナギ

4 - 第1話「ふたりの夏がはじまる」

♥

27

2025年06月30日

シェアするシェアする
報告する

第1話「ふたりの夏がはじまる」

森の道は、まるで誰かが描いた絵の中にあるようだった。

木の葉の影が、ナギの足元をゆらゆらと染めていく。


彼女は静かに歩いていた。

小さな自由帳を片手に、もう片方の手には削りかけの鉛筆。

くせ毛の入った肩上の髪が、風のない空気にふわりと揺れていた。


ふと、道が開けた。

そこは、地図にない“町”だった。


屋根はどれも低く、家々はつくりかけの模型のように並んでいた。

空は、ほんのり水色。けれどどこか濁っていて、遠くの雲が形を変えることはなかった。

風鈴が鳴っているのに、風は吹いていない。

それでも、草は揺れていた。


その町のまんなかに、ひとりの少女がいた。


「……あれ?」


ナギの声に、少女がこちらを向く。


長い髪をゆっくりと持ち上げた風が、その子のワンピースをほんの少しだけ揺らした。

クリーム色の古びた布地。首元には、今では見かけないようなレースの飾り。

その姿は、どこか透けているようで──でも、はっきりとそこに立っていた。


「こんにちは」


声は柔らかく、だけど響き方が妙だった。

まるで水の中で誰かがしゃべっているような、空気の反射のような。


「あなたの名前は?」


そう聞かれて、ナギは少しだけ考えてから、静かに答えた。


「ナギ」


少女はにっこりと笑った。

その笑顔は、たしかに優しかったけれど、ほんの少し“なにかを忘れている人”のようでもあった。


「じゃあ、わたしはユキコ」


ナギが名乗ってもいないのに、彼女はそう続けた。


「ここのこと、よくわからないと思うけど……でも、ナギならきっと大丈夫」


そう言って、ユキコはポケットから小さな手帳を取り出した。

手帳の表紙には、にじんだインクでこう書かれていた。


「イベント帳」


中を開くと、30個の空の欄。ひとつひとつに「スタンプ欄」がついていた。


「これを全部うめると、きっと出られると思うんだ」


出られる?


ナギは聞き返そうとしたが、口を開く前に──風が吹いた。


さっきまで止まっていた草が、ざわりと鳴った。

そして、どこかの遠い夕陽が、二人の影を長くのばしていた。


「夕陽、きれいだね」

ユキコが言う。

ナギはうなずく。けれどそれが、今日何回目の夕陽なのかは、もうわからなかった。

薄く浮かぶように1日目のスタンプが押されていた。

ゆうれい都とナギ

作品ページ作品ページ
次の話を読む

この作品はいかがでしたか?

27

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚