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ゆうれい都とナギ

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ゆうれい都とナギ

5 - 第2話「やまのぼりと空のことば」

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2025年07月01日

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第2話「やまのぼりと空のことば」
道は、まっすぐだった。

けれど、それは“まっすぐすぎて”不自然だった。


ナギは、草の生えた細い山道を、ひたひたと登っていた。

背中に小さなリュック。肩にかかるボブの髪が、うっすらと汗に貼りついている。

チェック柄のハーフパンツが膝で揺れ、軽いスニーカーの音が、土をやさしく叩く。


「この山、何度登っても、てっぺんに着いた気がしないんだよね」


ユキコは、すこし後ろから歩いてきた。

淡いクリーム色のワンピース。けれど陽に当たると、輪郭が透けるようにぼやけて見える。

その服には、どこにも汚れがつかない。風も、木の葉も、触れていないみたいだった。


「ナギちゃんは、空って、ちゃんと見たことある?」


唐突な問いだった。

ナギはふり返らず、ただ登りながら答えた。


「あるよ、たぶん。毎日見てた」


「どんな色だった?」


「……」


足が止まった。

ナギは見上げた。

そこには、空があった。


でもそれは──まるで、どこにも続いていないような空。

水色、と呼ぶにはくすんでいて、灰色、と言うには明るすぎた。

雲はただ“貼りつけられた模様”のように、形を変えずに浮かんでいた。


「わかんないや。なんか、見たことある気がするけど……ちがう気もする」


ユキコはうすく笑った。

その笑顔は、どこか“確認”するようでいて、“なぐさめ”にも似ていた。


「ううん、それでいいの。覚えてないってことは、いまは見てないってことだから」


ふたりはまた歩き出した。

同じ景色、同じ道。

けれど次に見えたのは──鳥居だった。


「……あれ?」


ナギがつぶやいた。


「さっき、山を登ったはずなのに」


鳥居は、くぐる前と同じ場所にあった。

あの、森の奥。最初に見つけた、色の抜けた鳥居。

けれど、ナギの足はたしかに、登り続けたはずだった。


「ねえ、ユキコ」


「うん?」


「わたし、空のこと、思い出せないの、ちょっとこわい」


「……じゃあ、今日のうちに、もう一回思い出そっか」


ユキコの声は、風にまぎれて薄れていった。

鳥居の奥、見えない空の下──草がやわらかく揺れていた。

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