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週末
以前なら健一と二人、家でダラダラ過ごすのが常だった。
でも今の私は、健一がリビングでスマホを握りしめているのを横目に、完璧なメイクをして立ち上がる。
「……おい、また出かけるのかよ」
「ええ。友人とランチ。夜は遅くなるから、自分で何か食べてね」
健一の視線が、私のタイトなニットから浮き出る体のラインを追う。
「女として終わってる」と言い放ったはずの男が
私の露出の少ない、けれど洗練された服装に言葉を失っている。
「……ふん、せいぜい若作りしてろよ」
強がりの言葉とは裏腹に、彼の手元には
私が「ナオミ」として送ったばかりの通知が届いているはずだ。
私はわざとリビングでスマホを操作し、彼に最後の「餌」を投げた。
『ナオミ:今日は少し勇気を出して、一人で贅沢なランチに来ちゃいました!誰かに見つかっちゃいそうで、ドキドキします』
私が家を出た直後、スマホに狂ったように通知が届く。
『健一:今お一人ですかぁ??👀💦もしご迷惑でなければなんですケド…😣🙏ほんのちょ〜っとだけでいいので、お顔見せてもらえたりなんて…ダメですかね⁉️🥺』
(私を追いかけてくるつもりね)
私は冷ややかな笑みを浮かべ、予定通り「里奈」の家の近くにある高級カフェへと向かった。
もちろん、里奈を呼び出すためだ。
ナオミとして健一を翻弄する一方で
私は別のアカウント……いわゆる「裏垢」を使って
里奈にダイレクトメッセージを送っていた。
『アカウント名:サレ妻の味方』
『内容:里奈さん、健一さんは今、別の新しい女に夢中ですよ。今日の昼、彼はその子と待ち合わせをしています。証拠を送りましょうか?』
カフェの窓際、私は自分の姿が健一からは見えず、けれど里奈が来れば必ず通る絶妙な位置に陣取った。
◆◇◆◇
十五分後
タクシーから降りてきたのは、焦燥感に顔を歪めた里奈だった。
彼女はスマホを握りしめ、私の送った
健一がナオミに送ったチャットのスクリーンショットを凝視している。
(さあ、ここからよ)
そこへ、健一の車が滑り込んできた。
彼はナオミを必死に探している。
周囲をキョロキョロと見渡すその姿は、かつての威厳など微塵もない。
「健一さん!!」
里奈の鋭い声が響いた。
健一がビクッと肩を揺らし、青ざめた顔で振り返る。
「り、里奈?!なんでここに……」
「え、なんで!?私との約束、仕事だって言って断ったじゃない!なのに、ここで誰を待ってるの!?」
「あの『ナオミ』とかいう女!私全部見たんだからね!」
カフェの静寂を切り裂く、里奈の絶叫。
周囲の客が好奇の視線を向ける。
健一は「静かにしろよ!」と慌てて彼女をなだめようとするが、逆効果だ。
「触らないで! 私をバカにして、あんな女に……!」
里奈が健一の頬を、思い切り叩いた。
乾いた音がテラスに響く。
私は、その様子をカフェの奥で優雅にコーヒーを飲みながら眺めていた。
健一が「ナオミ」という幻想を追いかけ、里奈が「若さという特権」を失う恐怖で狂っていく。
二人で築いた不倫という砂の城が、波に洗われるように崩れていく。
(……ねえ、健一さん。お望みの『刺激』は、楽しめてる?)
健一は必死に里奈を車に押し込み、逃げるように去っていった。
その後ろ姿を見送りながら、私は自分のスマホを確認する。
そこには、里奈から送られてきた大量の「健一の悪口」が届いていた。
協力者のふりをした私に、彼女は自ら不倫の証拠を次々と差し出してくれている。
「……バカな二人」
私は口元をハンカチで拭い、席を立った。
里奈には「もっと確実に彼を繋ぎ止める方法がある」と甘い言葉を送り
健一にはナオミとして「喧嘩しているところを見ちゃいました、ショックです……」と追い打ちをかける。
仮面の裏側で、私の心はかつてないほど冷たく、そして熱く燃えていた。
三十歳の私
20代の時よりも、ずっとずっと、恐ろしくて綺麗。
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#大人ロマンス
#サレ妻