テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
深夜二時、私は国道沿いの古びたコンビニで一人、レジに立っていた。
店の看板は色あせ、白い蛍光灯だけがやけに明るい。昼間はトラック運転手や近所の学生でにぎわうが、この時間になると客はほとんど来ない。自動ドアが開く音さえ、夜の静けさを切り裂く刃物のように感じられる。
最初の異変は、廃棄チェックをしているときだった。
バックヤードで弁当の棚を整理していると、売り場から「ピンポーン」と入店音が鳴った。私は「いらっしゃいませ」と声を張り、急いでレジに戻った。
だが、誰もいない。
自動ドアは閉まっている。外の駐車場にも車の影はない。風で開く構造ではないし、センサーの誤作動にしては頻繁すぎる。私は首をかしげながらも、気のせいだと自分に言い聞かせた。
その夜は三度、同じことが起きた。
四度目の入店音が鳴ったとき、私はあえて動かなかった。レジの内側から、売り場を見渡す。雑誌コーナーの奥、立ち読み台のあたりに――何かが立っている。
人影。
しかし、顔がない。
蛍光灯の白い光の下、制服のような黒い影だけが、棚と棚の隙間に溶け込むように揺れている。私は声を出そうとしたが、喉が凍りついた。
影は、ゆっくりとこちらを向いた。
その瞬間、レジのモニターが勝手に切り替わった。防犯カメラの映像だ。画面の中では、店内を歩く私の姿が映っている。だが私は動いていない。
映像の“私”は、雑誌コーナーへと近づき、そこで立ち止まる。
そして、何もない空間に向かって、深々と頭を下げた。
『ありがとうございました』
スピーカーから、私の声が流れた。
画面の中の私は、誰もいないはずの出口を見送り、自動ドアが開く。現実のドアも、同時に音を立てて開いた。冷たい夜風が、店内に流れ込む。
私は動けない。
画面の中の私は、ゆっくりとこちらを向いた。
そして、笑った。
次の瞬間、レジの前に立っていた。
画面の中の“私”が。
私は振り返る。だが、背後のレジカウンターには誰もいない。ただ、モニターの中だけに、もう一人の私が立っている。
彼女は、無表情のまま言った。
『交代の時間です』
視界が暗転した。
――目を開けると、私はモニターの中にいた。
白黒の世界。天井から見下ろす固定カメラの視点。レジの前に立つのは、私と同じ顔をした“誰か”。いや、それはさっきまでここにいた“私”だ。
彼女は小さく伸びをして、レジを打ち始める。
やがて、ピンポーンと入店音が鳴る。
深夜二時。
雑誌コーナーの奥に、顔のない影が立っている。
そして、モニターの中の私は気づくのだ。
ああ、次に交代するのは――
あの影だ、と。
〜続きもお楽しみに〜
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!