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豪が工場見学で来社してから、十日ほど過ぎた頃。
奈美は職場から帰宅してすぐに、豪にメッセージアプリで連絡してみる事にした。
彼女から連絡するのは、多分初めてだと思う。
アプリを開き、メッセージ入力画面にしたまま、どういう内容の文章を打とうか、と考えてみるけど、なかなか気の利いた文面が思い浮かばない。
憂い混じりのため息をついた後、奈美はタップして、文字を打ち始める。
『豪さん、こんばんは。奈美です。今度の土曜日、お時間ありますか? お話したい事がありますので、会いたいと思ってます』
まずは短い文章を打ち、豪にメッセージを送る。
その間に、奈美はシャワーを浴び、軽く夕食を摂ると、スマホでネットサーフィンをした。
彼からの返事は、まだ受信していない。
(今日は、残業しているのかな……?)
待てど暮らせど、豪からの連絡は来ない。
もう諦めよう、とベッドの中に入ってすぐに、スマホの画面が光り、彼からのメッセージが届いた。
『奈美ちゃん、こんばんは。残業で今帰宅したところです。今度の土曜日は空いてるから会えるよ。何時に待ち合わせをする?』
慌ててベッドから飛び起き、スマホを掴むと、すぐさま返信を打ち始める。
『でしたら、立川駅の改札近くにカフェがあります。そこに十八時でいかがでしょう?』
豪も確認したのか、すぐに既読マークが付いた。
『了解。土曜日十八時に立川駅改札近くのカフェだね。会えるのを楽しみにしてます。奈美ちゃんからメッセージ送ってくれたの、初めてだったから嬉しかった。返事が遅くなってごめん。おやすみ』
(会えるのを楽しみにしてるって、私に会える事? それとも……私に口淫する事?)
思考の迷宮に嵌り、考え過ぎの自分が痛々しい。
それにしても、豪さんは、どうしてこんなに嬉しくなる台詞が、ポンポン出てくるのだろう?
こっちは、クンニだけの関係をキッパリ終わらせて、出会う前の頃に戻る方向で考えているのに。
『おやすみなさい』
僅かに震える指先で、ようやく七文字を打ち終わって送信した時、ひと仕事終えた時の疲労感で、奈美はベッドに沈み込んだ。