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高木常務の逮捕と、10年前の「マッチポンプ倒産劇」の全貌が報じられた翌日
私は、自宅で静かにコーヒーを淹れていた。
テレビから流れるニュースは、連日あの会社の不祥事を追い続けている。
その時、私のスマホに弁護士から緊急の連絡が入った。
「詩織さん……落ち着いて聞いてください。直樹被告が、収容先で自傷行為に及びました。命に別状はありませんが、錯乱状態で『詩織に会わせろ、さもなければ次は死んでやる』と叫んでいるそうです」
「……自傷行為」
私は冷めた目で窓の外を見た。
死ぬ勇気なんてない男が、最後に使えるカードが「同情」だと思っているのか。
どこまでも私をコントロール下に置こうとする、その執着心には反吐が出る。
「面会には行きません。彼が死のうが生きようが、私の計上する『責任』の額は変わりませんから。……そう伝えてください」
受話器を置いた直後、今度は見慣れない番号から着信があった。
恐る恐る出ると、そこには10年前の事件以来
合わせる顔がないと疎遠になっていた「母」の声があった。
『……詩織? ニュース、見たわ。……ごめんなさい、ずっと言えなかったことがあるの』
母の声は震えていた。
10年前、父の会社が潰れ、父が心労で倒れた後。
私は必死に金を工面し、直樹に助けを求めた。
だが、母が語ったのは、私が知らなかった「もう一つの真実」だった。
『あの時、直樹さんが持ってきた助け舟……あれ、本当はあなたの“お父さんの保険金”を担保に組まれたローンだったのよ。直樹さんはお父さんに『詩織さんのために』
と嘘をついて、重い条件の書類に判をさせた。
『……お父さんは、死ぬまでそれをあなたに隠してくれと言っていたけれど……』
受話器を持つ手が、激しく震えた。
直樹は、私の過去を救ったどころか
死にゆく私の父の最後の尊厳までも、私を縛るための道具に利用したのだ。
「……お母さん。教えてくれて、ありがとう。……もう大丈夫よ。全部、私が終わらせるから」
電話を切り、私は鏡の前に立った。
直樹が自傷行為で引こうとしている「同情」という名の線。
私がこれから引くのは、彼を永遠に「地獄」という名の孤独に閉じ込める、最後の一線。
◆◇◆◇
翌日
私は直樹宛てに一通の信書を送った。
そこには、陽太と私が笑顔で新しい人生を歩んでいる写真と、たった一行のメッセージだけを添えて。
『あなたの死は、私の帳簿には「一円の価値」もありません。せいぜい、長生きして苦しみなさい』
死なせてなんてあげない。
自分が壊したものの大きさを、何十年もかけて、一円単位で数え続けるがいいわ。
夕方。陽太が学校から帰ってきた。
「ママ、夕飯のお手伝いする!」
「ふふっ、ありがとう、陽太」
私は陽太を抱きしめた。
直樹がどれほど狂気に走ろうと、この温もりだけは、もう誰にも渡さない。
【残り66日】
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