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「……っ、だから、俺はお前を抱けない! お前を俺のものにするつもりはない」
「じゃあどうして、こんな思わせぶりなことばっかりするの!? 引き止めたりするの!? 離れようとしてるんじゃん!」
「それは……謝る、悪かった」
「謝って欲しいわけじゃないの、教えてって言ってるの!」
せっかく、静かに去ろうとしたのに台無しだ。
しょせん自分などこんなものだと、歯を食いしばる。すると観念したかのように雅人は声を発した。
目を合わせないように、顔を背けて。
「……俺は結婚するつもりがないからだ、付き合う女とは別れることを前提にいつも付き合ってる」
その言葉に思わずカチンと来た優奈はすぐに言い返してしまった。言葉を選ぶ余裕もなく。
「別に結婚して欲しくてまーくんのこと好きって言ってるわけじゃないよ!?」
「そんなことはわかってる!」
「じゃあ何……」
「優奈を独身でいさせられるわけがないだろう!」
「は?」
よくわからない返答だ。
口をポカンと開けた優奈。しかし雅人は真剣な様子で言葉を続けた。
「お前はきちんと確かな男のところに嫁に行って、大切にしてもらって……幸せにならなきゃいけない」
「な、何言ってんの?」
「俺のものにするだなんて、そんなことをしたら離せなくなるだろう。容易に想像がつくんだ。でも俺は結婚なんて、絶対に……」
「話にならない!!」
雅人に対して抱いていた自責の念は、いつのまにか湧き上がってくる怒りにすり替わってしまった。
「どうしてそう……勝手に決めつけて完結してんの?? まーくん私の保護者!?」
力任せに腕を振り回そうとする優奈だが、掴まれている為ピクリとも動いてはくれず。
雅人が「優奈」と、何度目かわからない宥めるような声で呼びかけたその時だ。
「おーい、そこで俺の可愛い優奈の手ぇ捻り上げてんのはどこのクソヤローだぁ? ああ?」
本来乗り入れて来てはいけない、エントランス前の広場に横付けされた車の運転席から顔を出して。
この場にそぐわない陽気な声が響いた。
「よ、久しいな、優奈。退屈な大人になっちゃいねぇかよ?」
雅人を奮い立たせ、優奈を縛りつける呪文のようなそれを、突如現れたその人物は……ガハハと豪快な笑い声と共に夜空に響かせたのだった。