アオイが教室に《なんでも箱》を設置したその日の夕方――
その裏で、アオイとルカには秘密で《アドベンチャー科》一年の生徒たち(※スヒマルを除く)は、市場近くの人気チェーン店《ミクラルバーギャー》に集合していた。
ファストフード店らしい活気に包まれた中、それぞれ注文したバーガーやポテトを前に並べ、各自のパーティーごとに席についていく。
「……さて、それぞれ席に着いたでござるな?」
静かに口を開いたのは、眼鏡をクイッと持ち上げた男子。キラーン、と反射したレンズがやけに真剣だ。
「今日集まってもらったのは……他でもない、《なんでも箱》の件について、でござる!」
他の客から見れば、会議というより怪しい宗教の儀式にしか見えない静寂が、アドベンチャー科一年の席に漂っていた。
「……それでは。あの《なんでも箱》に、依頼を入れたい者は――」
静かに告げる眼鏡の男子。その言葉を皮切りに、
――バッ!!!!
全員、無言で手を挙げた。
「うむ、やはりでござるな……」
「やっぱりみんな考えることは同じだったみたいね」
女性パーティーのリーダーが微笑み、隣の筋肉代表と中学生男子代表も神妙な顔つきで頷く。
「ふむ……やはりこの場は必要だった……!」
その次の瞬間。
「「「「アオイさんを独り占めしたい!!!」」」」
――バーン!!!
テーブルが揺れる勢いで全員が一斉に叫んだ!
「うおおおぉ!天よ、女神よ、ついに我らにチャンスをくださったか!」
「童貞卒業の鐘が今、鳴り響く!!」
「このマッスルを、アオイさんにずっと見ててほしいんだ!」
「アオイちゃん、どんな下着つけてるのかな?」
「アオイさんの家に行きたい!」
「アオイさんと、お姫様デートがしたい!」
「「「「アオイさん!アオイさん!アオイさん!!」」」」
……もはや《なんでも箱》の使い方どころか、人としての理性すら忘れかけていた。
「静粛にでござる!」
声を張り上げるメガネ男子に、全員がビクッと姿勢を正す。
「気持ちは皆、同じでござる。……だが!このままでは《なんでも箱》が、アオイ殿へのラブレターでパンパンになるのは確実!」
全員が神妙な顔で頷く。
「アオイ殿を困らせてはならん!我々は“誠意ある変態”を目指すべきでござる!」
――拍手が起きた。
実はこの会議、そもそも《なんでも箱》の本来の使い道を完全に誤解した集団が、「みんな同じこと考えてるよな……?」と集まったもの。
「よって、本日は代表者のみが発言する形式とする。意見がある者は各パーティーのリーダーに伝えるでござる!」
「「「異議なし!」」」
すぐさま小声の打ち合わせが始まり、さっそく女性パーティーのリーダーが手を挙げる。
「はい、どうぞでござる!」
「まず確認しておきたいのは――みんな、お願いの内容、どんなつもり?」
「……」
「アオイちゃんは女の子よ?それにクラス代表で責任ある立場。まさかとは思うけど、“そういうお願い”をするつもりはないわよね?」
その視線は、自然と“筋肉パーティー”に集まった。
その圧を察したリーダーが、思わず身を乗り出す。
「な、何を言うか!我々は健全なスポーツマンだぞ!? 確かに“夜の運動”とも言うが、そういう意味ではない!」
「二言はないわね?」
「男に二言はない!……それにっ!」
ビシィッと指をさすその先は――思春期ど真ん中の14歳男子パーティー。
「我々より危険なのは、むしろそちらだ!“一線”を越える願いを書く気なのではないか!?」
……もはや《お願い》というより《願い》扱いなのに、誰もツッコまない。
矛先が向けられた思春期パーティー、さすがにおどおどしていたが――
「う、うるさい!俺たちを子ども扱いするな!」
椅子を蹴って立ち上がり、14歳代表が叫ぶ。
「俺たちだって男だ!欲望もあるし夢もある!だが――行きすぎたことはしない!……誓う!」
その言葉に、筋肉代表は目を細め、うなずく。
「……若いのに、立派だ」
「……ああ」
そして、二人は立ち上がり、熱い握手を交わした。
《なんでも箱》に賭ける男たちの想いが、そこにはあった。
「……ならいいわ」
納得し、女性リーダーも座る。
「では、ルールを決めたいと思うでござる。まず――《誰が、いつ入れるか》でござる」
「「「…………」」」
沈黙が落ちる。
全員が、《今すぐにでも入れたい》という想いを胸に抱えながらも……その場で口にすることはない。
――アオイに迷惑はかけたくない。
その一心で、理性を保っている。
「それについては、拙者、案を考えてきたでござる」
皆がゴクリと息を飲む。
「《一日につき、一人》……これでいくでござる」
「「「……意義なし!」」」
一日一人。
つまり、17日に一度、自分の番が来るということ。
効率は悪い。
順番は遠い。
だが――
誰も異を唱えなかった。
「……では、次の議題にいくでござる」
そして――
《なんでも箱》アオイちゃん会議は、アオイの知らぬところで、静かに、しかし確実に……夜更けまで続いたのだった。
その頃――アオイは、
「へっくちっ!」
くしゃみをひとつ。
「……誰か、噂でもしてるのかなぁ……?」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
魔法海賊《マジックパイレーツ》
海域を拠点とする無法者の集団。
主に海上で活動し、発見次第ただちに王国騎士団への通報が義務付けられている。
彼らの多くは、正式な冒険者登録を行わず、冒険者や一般の商船を襲撃し、その装備や積荷を略奪して生計を立てている。
海の魔物を狩る術にも長けており、一部は違法な魔物素材の流通にも関わっている。
個々の戦闘力は高くないものの、海上戦における集団戦術に優れ、集団全体での脅威度は【ダイヤモンド冒険者】クラスに相当する。
なお、彼らが使う魔法は独自に編み出した“航海魔術”と呼ばれ、風や水流を操る特殊なものが多く報告されている。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
《なんでも箱》依頼一覧
現在の登録依頼:なし
※依頼内容は匿名でも構いません。困りごと・相談・挑戦したいことなど、何でも記入してください。
※依頼は《クラス代表》が内容を確認し、実行可能な範囲で対応します。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!