『お茶持ってきたわよー!』
「はい、ありがとうございます!」
『甘いお茶菓子も持ってきたから、どうぞ食べてね』
「なんでもしてもらっちゃって…本当に…ありがとうございます!」
「いーのよ!暇だから、これくらいさせてね…」
そう話すスミレのお母様は一度も見たことがないような表情だった。泣きそうな目をしているけれど、ふわりとした微笑みを浮かべている。
こんな顔を、なぜしているんだろうか…?
……ずず…とお茶を飲む。そういえば人の入れてくれたお茶って久しぶりだ。やっぱり何倍も美味しく感じる。ほっこりしながらお茶菓子も食べて、一息ついた頃にお母様が口を開いた。
『それでね、本題なんだけど…。』
お母様が仏間へ行き、仏壇の横から何かを取ってきた。
茶封筒…?のようだ。テーブルに座り直し、その中身を取り出す。
…写真だ。話に聞いて想像した枚数を遥かに超えている。ざっと30枚はあるだろうか…?しかも、全て”まとも”に写っている。むすっとした顔じゃない。ブレてもいない。ちゃんとこちらを見て、少し短めな眉が、八の字になるような、今まで何百回も見たようないつもの、あの笑い方。一緒に写っているメンバーは、大学の他の友達に、私の母さん、小学校の頃の友達までもが一緒に写っていた。私と撮った写真は…ない。なぜだろう…?
写真の中のスミレを見ても、割と最近だ。撮る暇なんてあったのに…。
スミレのお母様が、うーん、うーん…と考え込んでいる私を見つめた。まだ話すことがあるのだろうか?
『あのね…?ファンタジーや、SFって、この世に存在すると思う?』
「…?えとー…。あったら、すごく面白いなぁ、とは思います…。」
『そっ…か。急に、こんなこと聞いて、ごめんなさい。でもね、ひとつ聞いてみたいことがあってね』
『…スミレのガラケーは使えた?』
「…あぁ…はい、一応。充電したら使えましたよ。」
『………!…そうなのね…実はあのガラケーは、私は使えなかったの。なぜか…わからないけど、電源がどうしてもつかなくて。』
「え、壊れてたんですか…!なのに動くって…なんで…?」
『うーん、多分壊れたみたいなものじゃなさそうなんだけどね…』
『このガラケーが荷物の中に入ってたのは、荷物整理の時とても忙しくて、処分用の段ボールと、凪ちゃんに送るための段ボールが混ざってるところがあってね。だからみたい。』
『それが、処分する予定だったガラケー、なんだけど。』
『そうか……凪ちゃんは、届いたのね、スミレに。』
「え、それって…どういう…??」
『一回、あのガラケーでスミレが話しているところを見たの。夜遅くだったんだけど、なんだか眠れなくって。水でも飲もうと思って一階に降りたら話し声が聞こえてきて。みたことのないような古ーいガラケーを持って、話してるスミレがいたの。いまから、半年くらい前かしら。』
『そしたら、スミレが確かに』
《───っふふふ、───はこっ───の方がいいね。》
《”やっぱり相談するんなら、自分が1番だね”》
[っふふ、そうだね、2年後の私。]
《ええ、2年前の私。》
『って話し声が聞こえて───』
え、いやいや…ちょっと、まっ……て…
……と、なると、今まで、私がだる絡みをしたり迷惑かけたのって…スミレじゃん…!2年前の!え、い、いきてるっていうことなの!?いや、死んでるけど…、話していたのは、スミレだったのか……!スミレと話す時はほとんど酒が入っていたから、なんだかんだ気づけなかったけど、よくよく考えてみれば、最後に話した時、かなりスミレっぽい人が諭してくれた……?のをようやっと思い出した。
カワリバは、スミレだった。
…となると、今回の写真の件も合点いく。
「あの、仏壇から写真が出てきたのは…。たぶん、私が電話でスミレに、遺影にまともなものがないって、泣きついたからだと、思います。」
「それで、それを聞いたスミレが、死ぬ前にたくさん、写真を撮ってきて、それを仏壇の横に、わかるように置いた…とか。」
『そう…なのね…。凪ちゃん。本当にありがとう。遺影が、高校生の写真だってこと、私は本当に後悔してたの。思い出なんていくらでも写真に残せたのに。』
『こんなにたくさん、写真が…。』
『…とっても嬉しいっ…また笑顔が見れて、スミレの笑顔が、見れて、よかったっ…。』
「お母様…!」
口元を押さえたまま、体を震わせてスミレのお母様が静かに泣いた。今まで溜め込んでいた涙を一気に流してしまったような涙。つられたのか、感動か、この際はもうどうでもいいだろうか。
私の瞳からも、ほろりと一粒涙が出ていった。
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