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水縹楓音。
入学当初、独りぼっちだったところを話し掛けて仲良くなった最初の友達だ。何故独りぼっちだったかと言えば、その容姿から、まわりに受け入れられていなかったから。いくら、ジェンダーレスの時代だからといって、そういう偏見や、男はスカートなんかはかないという先入観から、入学式に、一般的に女性が着る制服を着て登校した楓音はそれはもう浮いていた。別に、心が女だから着ている、のではなくてその方が自分に合っているという感じで楓音は着ているらしい。が、それは大衆にまだ認められていない。
「星埜くんってば優しい。僕惚れちゃう」
「あーあはは、別に優しくないよ。これぐらい普通じゃん」
楓音の言葉に俺は笑いながら返すと、楓音は首を横に振った。
いつものように、一緒に弁当を食べるだけ。でも、それが嬉しいらしく楓音はきゃっと女の子みたいにはしゃいでいた。声変わりは終えたらしいが、一般的な男性の声よりかは幾分か高く、その服装で喋りかけられても女のこと見間違うぐらい可愛いのだ。
だが、男である。
楓音は、仕草も喋り方も可愛いが、こうみえてジェンダーレス男子で、見た目は中性的で女の子に見えるが、中身は立派な男だ。普通の女の子よりも女の子らしく、俺ですら可愛いと感じるときがあるのは事実だが。
入学式以降も楓音は周りの目など気にせず、自分の着たい服を着てメイクをして楽しんでいて、今ではそれなりにクラスメイトに受け入れられるようになり、女子から絶大な人気を得ている。勿論、制服は男子のでも女子のでも選べるため彼が、女性ものの制服を着ていても誰も何も文句はいわない、言ってはいけない。因みに、おかまとか、女装癖があるわけじゃなくて、ただたんに可愛いものを好んでいるだけだという。
俺と楓音は、二人並んで歩きながら階段を上がり、そして屋上へと出た。
屋上へ繋がる扉を開けた瞬間、ドアの向こうからこちら側に吸い込まれるようにして風が吹き付け、青い青い空が目に飛び込んできた。屋上は立ち入り禁止ではないため、自由に行き来できるが、この時間は大体学食を利用している生徒が多いため屋上は高確率で誰もいない。学食ではかなり安い値段で、色んなものが食べられるようになっている。
俺は楓音と一緒にベンチに座り、持ってきた弁当を広げる。
すると楓音は自分の鞄の中から小さな箱を取り出した。それは手作りらしいクッキーだった。
「作り過ぎちゃったから、どうかなって思って」
「ほんと? ありがと」
楓音の作るお菓子は美味い。甘さ控えめでサクッとした食感のクッキーはとても好みだ。俺は早速一つ摘んで口に放り込んだ。うん、やはりうまい。
俺の弁当なんて、卵焼きとウインナーぐらいしか手作りじゃない。後は、冷凍食品を詰め込んだ形だけの弁当だ。本当はもっと料理が出来るようになりたいのだが、生憎料理に割くような時間は無く、勉強に費やしている。
癒やしの時間だなあ、と頻繁にお菓子をくれる楓音にそれなりに絆されている。いや、確実に絆されている自信がある。だって、可愛いし、優しいから。
「相変わらず上手だな。何枚でもいける」
「ふふ、それはよかった」
「楓音って凄いな。俺にも、お菓子作り教えてよ」
「星埜くんも興味持った?」
と、嬉しそうに楓音は言う。その笑顔は、まるで愛らしい犬のようだった。楓音はなつっこくてクリクリとした瞳だし、髪色とふわふわとした毛が相まって本当に犬みたいに見える。失礼なので、口にはしないが、兎に角同じ男なのに、可愛いと思ってしまうのだ。
俺よりも背が低いから少しだけ上目遣いになるのも良い。性癖がねじ曲げられそうで怖い。
「興味って言うか、美味しい物が作れるようになりたいって言うのが本音かな……でも、楓音とお菓子作りするのは楽しそうだって思う」
「僕も星埜くんとお料理してみたかったから、嬉しい……それとさ」
楓音はにっこりと笑って、それから俺の頬に手を伸ばしてきた。
俺は一瞬身構えたが、そのまま楓音の手は下に降りていき、俺の膝の上に置かれた。
その行動に思わずドキッとする。楓音の行動にはいつも驚かされる。
(……すっごくドキドキした……あぶっな)
さすがに、手を出したら不味いだろ、見たいな想像が頭をよぎる。友達なのに、友達なのにと言って自分を落ち着かせる。
可愛い男の子。でも、男の子、そして友達。
愛には性別関係無いというが、きっとこれは楓音の可愛さにドキドキしているだけで、恋ではないだろうとか、正常な判断が出来なくなっていた。一応、思春期の男子である為、そういうのに興味が無いわけでは無い。だが、俺は、ノーマルだと思っている。
それでも、楓音の一般的な男子とは違うぷるぷるした唇に目を奪われるわけで。
「あっ、そうだ。星埜くんって今、彼女いたりする?」
「え、えと……」
と、唐突に投げられた質問に対して俺は戸惑う。
けれど、楓音の青い瞳は俺を逃してはくれなかった。