コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
崇高《むねたか》が、やけに、気難しい顔をして立っていた。
「あれ?崇高樣、女房って、もしかして、御屋敷は人手不足なんですか?」
紗奈の一言に、
そうではなくっっーーー!!!
崇高と、何故か、常春が、共に叫ぶ。
「た、橘樣!!!これは!!」
「さあ、これは、と、言われても。常春様、私も何がなんだか」
オロオロする常春に、橘は、笑いを堪えていたが、
「さて、これを、そそのかしたのは、崇高樣?うちの人ですね?」
橘の問いに、さすがは、ワシの女房殿じゃーと、髭モジャが、ひょっこり顔を覗かせ、答えた。
「うん、ワシは、なかなか、良い組み合わせじゃと、思ってなぁ。女童子の活躍に、さすがの崇高も、舌を巻いた。ならば、どうじゃ?と、問うてみたら、まんざらでもなさそうでのう。検非違使庁でも、出世頭のこいつが、いつまでも独り身では、いかんだろう」
「男やもめに、うじがわく、というやつですね?」
「え?!橘樣!崇高樣の御屋敷って、そんな事に?!困りましたねぇ」
だから、そうではなくっっーーー!!
と、再び、崇高と常春が、叫んだ。
「なんでも、女童子の、あの腹の座り具合に、見惚れてしもうたようじゃ、そのわりに、どうしようもなく、鈍感なところが、また、良いと」
髭モジャが、ニヤニヤしながら、崇高を小突いた。
「い、いや、その、我は、まあ、そうだっっ!!!」
顔を真っ赤にしながら、崇高は、必死の形相を紗奈へ向けた。
「崇高樣、少しお休みになられたら?そのご様子は、お疲れが、たまってますわよ」
いや、そうじゃなくってーーー!!!
と、今度は、小さいが、しっかりとした声が響いた。
「橘樣!タマにだって、わかるのに、上野樣は、なんで、分かんないですかっ!!!」
「さあー、なぜでしょうねぇー」
おっかしいよなぁー、と、タマまでが、ぶつくさ言っている。
そんな、様子に、橘はクスクス笑った。
「紗奈、お前、どこまで、鈍感なんだ。童子検非違使なんて、やってた頃は、もっと、しっかりしていたろうに」
けんもほろろで、常春は、妹に言うが、それが、また、崇高へ火をつける。
「……なるほど!女童子殿!我らは、同じく、検非違使!!したがって、共にいるのが、一番だと!!!」
崇高は、ああ、と、何か納得していた。
「おっ、崇高や、もしや、検非違使繋がり、運命の出会いじゃ、とか、言うのではなかろうなぁー」
ワッハハと、髭モジャが、大笑いした。
「あっ、私……」
「……わ、私……?!」
紗奈の言葉に、崇高は、身をのりだし、その続きを待った。
「着替えてこなきゃー、結構、冷たくなってきたかも。すみません、崇高樣、失礼します」
言って、衣を抱えた紗奈は、スタスタと、崇高の前を通り過ぎ、着替える為に、小屋を出ていった。
「なっ、き、着替え……」
一種、散々な扱いに、崇高は、肩を落とした。
ところが、あっ!と、紗奈の声
流れて来る。
続いて、
「なんと!紗奈姉《さなねぇ》は、あの様な者が、好みなんですかっ!!私の方が、マシでしょう!!」
と、守満《もりみつ》の叫びが。
「守満様、何、言ってるんですか?それより、守恵子《もりえこ》様は、じっとされてますか?と、いうか、お方様のお世話をお願いしたら良かったんですよねー、あー、うっかり、してたわ」
「うっかりも何も、紗奈姉!」
「あっ、ちょうど、崇高樣もお越しです。今後について、大納言家の考えをお伝えしておくべきかと……」
「だから、その、崇高だ!紗奈姉は、いったい!」
「あー、私ですか。衣が濡れちゃって、冷たいので、着替えて来ます。すぐ戻りますから。橘様も、兄様も、いらっしゃるし、守満様は、皆で話し合っていてください」
では、とかなんとか言う、紗奈の声と、隣の染め殿へ向かう足音が、小屋の中に響いていた。
当然、小屋の入り口では、いや、そうではなくっーーー!!!と、叫び、苛立つ、崇高、常春、そして、守満が、いた。
「ありゃ?なんだか、風向きが、可笑しな方向へ流れておるぞ?」
「髭モジャ様!おかしいのは、上野樣ですよー!なんで、わかんないかなぁ??」
そうじゃのおー、と、首を傾げる髭モジャに、ですよねー!と、タマまで、ムッとしている。
「まっ、そこが、紗奈らしくって、愛嬌がある、と、皆樣、お思いなのでしょ?」
複雑な面持ちを崩さない、男達へ、橘が言った。